仮面
「食べられる?」
「はい・・・うっ・・・」
身体を起こそうとするとどこかが痛むのか、静希が手を貸してやってようやく身体を起こす
「仮面の状態でどうやって食べるんだ?俺達席をはずしていようか?」
明らかにフルフェイスの仮面では口は隠れてしまっている、これでは物を食べることなどできないのでは
少女も仮面をいじりながら何やら不思議がっていて、きょろきょろと周囲を見渡す
そして自分を支える静希に目をむける
「じゃあ、この・・・五十嵐さん以外、席をはずしていただけませんか?」
「え・・・」
「構わないわ、あなた達はそれが掟なのですものね」
「・・・すいません、よくしていただいているのに、このような無礼を・・・」
「気にしないで、それを食べればすぐによくなるわ」
奥さんは微塵も気に障った様子はなく笑顔のまま明利を連れて襖の向こうに消えていく
「俺、反対側向いてるから、気にせず食べてくれ」
背中で少女を支えようと向きを変えようとした
「私の仮面はどこですか?」
その言葉で、静希は凍りついた
この少女は、自分の今つけている仮面が、自分のものではないと知っている
なぜ知っているのか、今気付いたのか
どちらにせよ、これ以上隠すことは難しそうだった
「君を保護した時、仮面は半壊していた、それで俺の仲間に作ってもらったんだ」
「私の素顔を見ましたか?」
「・・・」
壊れた仮面を作って、それをつけて、素顔を見ていないとは、さすがに言いきれない
「・・・そうですか・・・」
「・・・すまない」
「いえ、あなた達は私を助けてくれたのでしょう?感謝こそありますが恨むことはありません」
少女はゆっくり仮面を外し、用意されたおじやを食べ始めた
熱いらしく息でしっかりと冷ましながら
「なんでわかったんだ?」
「私達の仮面には、食事の邪魔にならないように鼻から下を取り外せるようになっているんです、この仮面にはそれがなくて・・・」
「そっか、それは知らなかった」
写真と上半分の材質だけではそこまでは分からなかった、つまりあの仮面は破損していたのではなくて最初からそういうギミックがあったということだ、そこまで考えが回らなかったと静希は悔やむ
「掟で仮面の下を見せちゃいけないんだろ?見せたら、どうなる?」
「私にもわかりません、でも何らかの罰が下ることは・・・」
少女の小さな肩はわずかに震えていた
こんなわけのわからない状態で、いきなり仮面の下をのぞかれた、それだけで十分恐怖するに値する
「仮面のことを知っているのは俺達の仲間だけだ、俺達が黙っていれば、それで問題はない、仮面だって君の言うように作りなおせばいい、それで万事解決だ」
「・・・私をかばってくれるの?」
今までの大人びた口調から一気に子供じみた、いや年相応の言葉遣いになったのに一瞬ひどく驚いた
「君は被害者だ、これ以上辛い目に遭わせるわけにはいかない」
そう、彼女は被害者だ、エルフの問題に巻き込まれてしまった被害者
村の人たちから見れば加害者になるかもしれないが、その『獣』は自分たちがすでに退治した、すでにこの子の罪ではない
「そのことも踏まえて、後で俺の仲間と一緒に相談しよう、皆いい奴だからきっと大丈夫だよ」
少女はそれを聞いて、わずかに息を乱しながら泣き始めた
今までの不安や恐怖が押し寄せたのか、背中の静希にかまうことなく静かに泣いていた
多少驚いたが、静希は特に何も言うことなく、ただ背中で少女を支え続けた
十歳相当の小さな震える背中をただただじっと
すると襖の向こうからがやがやと話声がする
「やべ、仮面付けろ」
「は、はい」
仮面をつけた途端に襖が勢い良く開き班員たちがやってくる
「静希、飯持って来てやったぞ」
「ちょっと、病人がいるんだからもう少し声小さくしなさい」
「あ、本当に起きれてるじゃないか、もう大丈夫なのか?」
「深山、お前ももう少し声を落とせ」
ぞろぞろと入ってくる人員に驚いたのか東雲は静希の服の裾をわずかに握る
一緒にやってきた明利は少女のことが心配なのか枕元に座りこまめに同調していた
「おいお前ら、病人の部屋で騒ぐな、迷惑になるぞ」
極めつけは長い前髪で目元を隠し、それでもなお鋭い目を髪の切れ目からのぞかせる城島教員のご登場だ、勇気よりも恐怖が勝ったのか、後ろにいる静希に顔を寄せておびえ出す
「先生、いきなりビビらせてどうするんスか」
「私は何もしてないぞ」
「目つきが悪いんです、もっと笑って」
「・・・・こうか?」
ダメだ、必死に笑みを作っているのだろうがあの笑みは極悪人がするタイプのそれだ、仮にも教師がする顔じゃない




