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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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許容量限界突破

一刻も早く悪魔を自分の手の内に戻さなくては危険だ、本当にこの学校が消滅しかねない


一体何が目的で脱走などしたのか見当もつかない


何が目的かがわかればまだ探しようがあるのだが、とりあえず仮装した人の多い場所を探すしかない


この人の多さだ、メフィも空を飛んで目立つようなことはせず地道に歩いて移動するだろう、しらみつぶしに探すしかない


そんな風に静希が全力疾走して悪魔を捜索している中、残された鏡花たちは一瞬呆けた後にとりあえず店の中に戻っていった


店の人に手伝いを増やしてきたと言ってオルビア用の制服を貸してもらい、早速接客にあたらせたのだが


「いらっしゃいませ、二名様ですね、こちらへどうぞ」


まるで本職であるかのように丁寧な接客と言葉遣い、そして金髪美人ということでかなり多くの客の目を引いていた


サービスに関してもかなりの一級品のようで、運ぶのも置くのも、片付けるのも対応もすべてが完璧


「・・・ねぇ、オルビアってたしか騎士だったわよね?」


「・・・あれ見てるとメイドさんにしか見えないね」


時折客にセクハラされても軽く笑みを浮かべながらあしらっている


完璧な接客を絵にかいたような構図に、思わず店の人がうちで働かないかなどと言い寄っている


すでに就職しておりますのでなどと言っているが、その就職先は同僚に悪魔と神格がいるということを知っているのはこの場には数人しかない


「すごいねオルビアさん、なんでもできちゃうんだ」


「いいえ、私など、この程度は付け焼刃でしかありません」


朗らかに笑っているオルビア、こういった時間も嫌いではないのだろう、そして着こなしている制服が非常に似合っている


もう騎士やめてこっちを本業にした方が良いのではないかとさえ思えてしまうほどだ


だが現実はそう甘くなく、裏には彼女の本体である剣が少し無造作に置かれていた


以前も剣から体が離れたことはあるが、どうやらある程度の距離ならば本体から離れても行動できるようだ


かつて騎士をしていた人物が給仕をするというのは一体どんな心境なのだろう


少なくとも苦痛にはなっておらず、むしろ楽しそうにしているのはきっと気のせいではないだろう


そんなほんわかした時間など露知らず、静希は全力疾走を続けていた


いつもの訓練で培った体力と、人込みをかき分けられるだけの運動性能は持ち合わせている、だが問題は目標を見つけられるかどうかだ


一つ一つ教室を確認して中にメフィがいないことを確認するとまた走る、その繰り返しでもはや自分がどこを走っているのかの位置情報すらあいまいになってきた


「あぁくそ・・・どこ行ったあのバカ・・・!」


静希が辺りを見渡していると近くで子供の泣き声がする


どうやらまた親とはぐれた子供がいるらしい


見て見ぬふりをしてもよいのだが、さすがに放っておくのも憚られる


近くに警備の人間がいないか探すのだが、ちょうどこの辺りを通り過ぎてしまったのか腕章を付けた人間はいなかった


「君、どうした?」


仕方なしに静希が話しかけると子供、恐らく五歳くらいだろうか、男の子か女の子かの判別は服装や外見からは判断できない、ひどく中性的、ズボンとTシャツというわかりにくいファッションだ、いつの日かの雪奈を思い出す


泣きじゃくりながら話す子供の言葉を要約すると、案の定母親とはぐれたらしい


本気でそろそろ怒り出しそうな親の怠慢に静希のフラストレーションはたまっていく


そして近くに何人かいる仮装している人間を見て、もうしょうがないとあきらめの境地に達する


「君、このロッカーを見るんだ」


泣きじゃくる子供の視線を誘導して近くにあるロッカーへと向ける


『邪薙、頼む』


『ん・・・んん!?』


静希は近くのロッカーに歩み寄り扉を開けて中に何も入っていないことを確認してから


「どこでもロッカー!」


先程のオルビアと同じようにロッカーの中に邪薙を取り出して一瞬でそこに誰かが現れたかのような演出をする


少々きついのか、ぎちぎちになりながら何とか出てくると邪薙は呆れているのか驚愕しているのか、言葉がうまく出てこないようだった


近くにいた客からは軽い拍手が上がっているがそんなことはもはやどうでもいい


「邪薙、警備本部の場所はわかるな?この子を連れて母親と引き合わせてやるんだ」


「ま、待てシズキ!正気か!?奴も追わなくてはならないというのに私まで」


「もうあいつが出ちまった時点で手遅れなんだよ!とにかく一番やばいあいつだけは回収するから、お前だったら連絡すりゃすぐ来てくれるだろ!頼むよ!これ以上俺に面倒なことをさせないでくれ!」


あまりの状況の変化の量にさすがの静希も許容量を超え始めているのか、やけくそになりながら邪薙の肩を掴みながら強引に叫びながら説得する


こんなに取り乱した静希を見るのは初めてかもしれないなと思いながら邪薙は渋々納得する


「よし、君、この犬のおじさんがお母さんを探してくれるからな、安心しろ」


そういって身をかがめた邪薙を紹介するとこの子はどうやら犬顔の邪薙に興味を示したのか目を輝かせながら「おぉぉぉ」と声を漏らしている


この様子なら泣き出すようなことはないだろう


「トランプは預けておくぞ、んじゃ頼んだ!」


邪薙にその場を任せ、静希は再び全力疾走を始める


残された子供と神格はしばしその背中を見つめていた


「・・・人の子よ、名は何という?」


「あかね、富田あかね」


あかね、名前の響からするに女の子だろう、邪薙はうむと呟いて自分の腕を彼女の前に出す


「そうか、あかね、それでは母君を探しに行くとしよう、私に乗るといい、高いところから探せば早く見つかるだろう」


「うん!」


邪薙の腕に乗り嬉々としてその顔を触りだす


やはりこの顔は女子に対して受けがいいのだろう、静希が邪薙を残した判断は間違ってはいなかったのだろうと思える


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