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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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始まりへ向けて

一般公開前日、静希達は当然のように普通に授業を受けたのだが、その後に出店の前準備として駆り出されていた


自分たちの手伝う店やイベントのところに赴き、今日の夜になる前までに準備を終えなければならないということもあり、ほとんどの能力者や業者が忙しそうに右往左往していた


その中にもちろん静希達も含まれる


「えっと・・・これで今日運ぶものは・・・あとはこれとこれだけですね、お願いします」


搬送するべき物資の項目にチェックしながら業者の人や店の人と連携して空き部屋にどんどんと資材を入れていく


力仕事は陽太たち前衛に、施設関係は鏡花たち変換能力者に、それ以外の生徒は椅子や机、裏に置いておく備品などの配置とチェックに余念がない


「おーい静希!?これ何処だ?」


「あ?それはもっと奥だ、でも窓際には置くなよ」


「りょーかーい」


店の人に渡された完成図の配置を見て各員への指示を飛ばしている静希とほか数名


飲食店だけあって部屋の中にいれるものだけでもかなりの数がある


しかもそれを一つ一つチェックしたうえで点検までしなければいけないのだ


本番の間に不備があってはならないと運ぶ間にもチェックして点検してを繰り返していた


「失礼する・・・お、ここは五十嵐たちの担当だったか」


聞きなれた声がしたことで静希達が振り返るとそこには学年唯一のエルフである石動がいた


近くには彼女の班員である樹蔵、上村、下北もいた


「あ?なんだお前らか、もう準備終わったのか?」


「あぁ、私たちの担当は能力の体験コーナーだからな、数十分で終わったよ、それでほかのところを手伝おうと思ってな」


その言葉になるほどと呟きながらさりげなく後ろの班員をチラ見する


石動の言葉とは裏腹にさっさと帰りたいんだけどなぁという顔をしているのが約二名ほど


男子である樹蔵と上村である


「あー・・・まぁなんだ、終わったんなら帰ってもいいんじゃないのか?各自それぞれの仕事が終わってるなら誰も文句は言わないだろ」


その言葉に男子二名はしきりにうなずいている


どうやら石動に対して強くものは言えないようで、態度で表すことしかできないようだった


彼らの班にいったい何があったのかは知らないが、上下関係がはっきりしてしまっているというのは案外珍しい


「ちょっとバカ陽太!そこに置いたらコード伸ばせないでしょ!もっと奥に持っていきなさい!」


「あぁ!?じゃあどこ置けってんだよ!奥にもう置く場所ねえぞ!」


「そこにあるのどかせばいいでしょ!ちょっとは考えなさいバカ!」


先程の考えは撤回したほうが良いかもしれない、この班もある意味上下関係がかなりはっきり分かれている


主に頭脳労働派と肉体労働派で


「そうはいってもな、周りが働いている中自分たちだけ帰るというのも些か精神衛生上よくないんだ、可能ならば手伝うぞ?」


石動の申し出は非常にうれしい、今はそれこそ猫の手も借りたいほどだ


だが石動の後ろで樹蔵と上村が必死に口パクで『手伝う必要などないと言え』的なことを伝えようとしている


本人に直接言うという選択肢はないのかこいつらにはと思いながら静希はため息をつく


「あー・・・気持ちは嬉しいけどな・・・これ以上人が増えても邪魔になるだけだと思うぞ?結構数いるし」


「む・・・そうか?それではこれ以上ここにいるわけにもいかないな」


石動の表情こそわからないが、声音だけで判断するに僅かに残念そうだった


何か力になりたいというのは非常に良い行動だと思う、そこに誰かを道連れにする強制力がなければ最高だったのだが


「時に五十嵐、お前は左利きだったか?私の記憶では右利きだったと思ったのだが・・・」


先程から静希は下敷き代わりのボードを右腕で支え、左腕でペンを走らせている


これも訓練の一環なのだが、まさかそこを指摘されるとは思っていなかった


「いや?右利きだけど・・・前の実習でちょっといろいろあってな、左でもいろいろできるように訓練中なんだ」


「ほう、両利きになろうという事か、それは難儀なことだな」


石動の反応に対してまったくだよと言いながらやってくる物資を確認しながら次々にチェックを入れていく


文字を書くという行動に関してはまだそこまでうまくはいかないが、ただチェックをするだけなら左腕は軽快に動いていた


「訓練もいいが、少し腕の太さが変わってしまっているぞ、もう少しバランスよく鍛えることだな」


「・・・あぁ、気を付けるよ」


そういって石動は教室から出ていった


その際に幾つかの食材を持ってやってきた明利とすれ違い軽く話をしていたようだ


どうやらあの二人実は結構仲が良くなったらしく、メールや電話などをしあっているらしい


明利に女子の友人ができるというのは貴重なことだとほほえましく見ていたが、静希はわずかに自分の左腕に視線を落とした


太さが違うのは半ば仕方のないことだ


静希の左腕についている霊装『ヌァダの片腕』は最初から静希の腕より少し太い


肌色のスキンで普通の腕のように偽装しているものの、そこにあるのは甲冑にも似た義手なのだ


あまり凹凸のない義手でよかったと思うしかない、もしこれで突起物が大量にあればこれが本物の腕ではないと即座にばれただろう


長袖に移行してから数日、まさか腕の太さを指摘されるとは思っていなかったために静希はわずかに冷や汗を流していた




結局夜まで準備はかかり、後は業者と店の監督役のみの作業となった


本番の朝一番で最終チェックをしてから仕込みをし終えた食材などを運び込むらしい


そして、一般公開の始まる金曜日


静希達は準備のこともあってかかなり早くに学校にやってきていた


だが、そこにはすでにいくつかの報道各所の人間が準備や報道を始めていた


カメラや集音器、そして恐らくすでに放送しているところもあるようでカメラに向けて何か話していた


「まさかこんなに早くからマスコミが来てるとはなぁ」


「うん・・・去年もこうだったのかな?」


去年までは手伝いなどはしなかったために普通の時間に登校していた静希達にとってこの光景は新鮮そのものだった


学校に報道陣がやってくるというのは意外と珍しい


事件があったり、催しがあったりと何かしらのイベントがないと基本はただの学校なのだから


そんなことを想いながら校門をくぐろうとすると聞きなれた声で誰かがしゃべっているのが聞こえる


何気なくその場を見ると、一班の前衛たる陽太がニュースキャスターに声をかけられて陽気に会話している


「・・・あのバカは何やってるんだ・・・」


「えっと・・・ほら、テレビとかがあるとテンション上がっちゃうよね」


明利の渾身のフォローもあの姿を見れば一発で意味がなくなるというものである


話を振られれば振られるだけ返答しているのだ


マスコミからすればあれほどおいしい情報源はないというものである


止めたほうがいいかもなと思いながら、陽太の後方からやってくるある人物が見えたことでその必要がないことを確信する


「何やってんのバカ、さっさと行くわよ」


「あ、おい今いいところなのに!」


陽太の反論をものともせず首根っこを摑まえて引きずるように陽太を報道陣から引き離していく


一班班長清水鏡花、バカの相手はもはやお手の物と言わんばかりの所業である


自分より一回りも大きい陽太を簡単に手なずけている様子を見て報道陣も少し驚いたのか、あっけにとられている隙に軽く会釈してから鏡花は飄々と校門をくぐってその様子を眺めていた静希と明利に合流する


「見てるだけなんて趣味悪いわよ」


「お前が来たなら必要ないと思ってな」


事実陽太は何の抵抗もなしに鏡花に引きずられている


もはや完全に飼いならされているなと半年前からの変化の大きさに静希と明利はわずかに笑っていた


「それにしても、マスコミの対応慣れてるね」


「あぁ言うのは特に何の反応もしなければいいのよ、敵を作らないだけの八方美人っぷりを見せて大した情報を与えなければいいだけ・・・まぁこいつには無理でしょうけど」


掴まれたまま特に抵抗もせず鏡花に引きずられている陽太に視線を送ってため息をつく


あのまま会話が進んでいたらいったいどんな目に遭っていたか


もしかしたら静希達の情報を漏らしてしまっていたかもしれないだけにため息が止まらない


これから陽太はマスコミの前には立たせないようにした方がいいかもしれない


「それじゃあ班長、今日の予定をお願いします」


「こんな時ばっかり班長扱いして・・・えっと、今日は午前中は店で手伝い、放課後から警備よ・・・今日は金曜日だから比較的暇になるかもね」


今日はただの平日、祝日でも何でもない金曜日であるためにやってくるのは関係各所のお偉いさんだけ


または関係者の知人友人か、暇を持て余した人間だけである


学校が終わる夕方あたりから混み始めるかもしれないが、そのころには自分たちは警備の仕事へと移っている


しかも今日の警備の静希達の担当は初等部の校舎


恐らくは城島の計らいだろうが、面倒が起きにくいスケジュールと配置にしてくれたようだ


「お前らは接客もあるからなぁ、まぁ頑張れよ、俺らは裏でのんびりしてるわ」


「接客しなくていいからってサボっていいわけじゃないのよバカ、ほらシャキッとしなさい」


陽太の背筋を伸ばすべく背中を叩いてようやく首根っこを開放する鏡花、まるでお母さんのようだと思いながら静希と明利はそのやり取りをほほえましく眺めていた


「店の制服ってどんなんだろうな?俺この店来たことないんだよ」


「あらなかったの?てっきり明利と来てるもんだと思ってたけど、結構可愛いのよ、着替えたらお披露目してあげるわ」


そりゃ楽しみだと告げて静希達は今日手伝いをする店がある教室の中へと入っていく


その中にはもう何人かの従業員と生徒がおり、奥のスペースで女子が着替えをしているようだった


すでにテーブルや椅子や各種装飾、各種備品の準備も万全のようで、ここが普段教室であるとは思えないほどの出来栄えだ


静希と陽太は明利と鏡花と別れとりあえず近くで話しながら待つことにする


それから数分後、着替えを終えた女子を含め注意事項をこの店の責任者が全員に向けて発表し、檄を飛ばす


喜吉学園一般公開が始まろうとしていた


あけましておめでとうございます


今年もJ/53をよろしくお願いします、今後もお楽しみいただけるように精進する次第です


これからもお楽しみいただければ幸いです

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