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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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公開に向けて

ようやく事前の打ち合わせを終えたことで静希達は渡されたプリントの束をもってホールから退散していた


確認するべきことはしたため、さっさと帰りたいのだ


放課後に行われた事前確認の打ち合わせだけですでに日は落ち切ってしまい、空には星が見えてしまっている


十月になって過ごしやすく、そして時折肌寒さすら感じるようになってきた

もちろんたまにかなりの暑さを記録する日もある


季節の変わり目というのはこういう事が多々あるが、もう少し安定した気温でいてくれないものかと思ってしまう


幸いにしてこの数日は比較的に過ごしやすい秋の気候となっているため、このままいけば当日も過ごしやすい日になるだろう


「あれ?静、なんだいたのか」


外に出たことでようやく確認できたのか、姉貴分である雪奈が小走りでやってくる


雪奈のいた場所には熊田をはじめとする雪奈の班員たちがいた


「あ、雪奈さん、雪奈さんたちも今回の手伝いに?」


「そうなんだよ、まったく面倒ったらないね」


お手上げのポーズをしながらしかめっ面をしてため息をつく雪奈、本当に嫌なようでその表情と声からはありありと不快感が読み取れる


「お前たちもいるとはな、まぁ順当と言ったところか」


「熊田先輩、お久しぶりです」


雪奈につられてぞろぞろとやってきた二年生の面々を前にして後輩である静希達は軽く会釈をしていく


前回の実習の時にアドバイスをもらったこともあり、若干一名を除き頭が上がらない存在だ


「私たちは訓練体験とお店の手伝いやるけど、君たちは何やるの?」


「私たちは警備と喫茶店もどきの手伝いです、先輩たちは何の店やるんですか?」


「俺らは昼飯とか食える食堂もどき、洋食和食中華何でもやるらしいぞ」


やはり先輩と言えど何の差別もなく物事の手伝いをやらされるらしい


自分たちの担当の店にも何人か先輩らしき人物はいたが、うまくやっていけるか若干の不安がある


そんなことを考えていると熊田が自分の方を見ていることに気づき、静希は首を傾げた


「なんです?俺に何かついてますか?」


「あ・・・いや・・・その、なんだ・・・左腕は平気か?」


その言葉に静希は一瞬眉を顰め鋭い眼光で雪奈をにらむ


何故話した


視線にその意思を込めて強く睨むと、雪奈はわずかに気まずそうにして口笛を吹いてそっぽを向いてしまう


あの様子から察するについ口を滑らせたのだろう


まったくもって困った姉である


「問題ありませんよ、自由自在に操れるようになるまでもう少しかかりますけど、日常には困りません」


「・・・そうか、ならばいい」


他の先輩の様子から、恐らくこのことを知っているのは熊田だけのようだ


心配はしているが、それ以上できることが無いだけに少しもどかしそうだったが、問題ないという静希を見て少し安心したようでもあった


静希のいうように、日々の訓練のおかげでだいぶ左腕を自由に動かせるようになり、箸を使ったり着替えをしたり、日常に必要なだけの動きは違和感なく行えるようになってきた


だが、まだ元の腕のような稼働率はない


特に夜に行われる剣術の訓練ではその遅れは顕著だ


最初に比べれば随分早くなってきてはいるものの、それでもやはり数瞬反応が遅れる


防御ができる左腕という意味では非常に有用なのだが、剣での防御に関してはやはり左腕を使うことはできなさそうだった


日常では問題ない、だが戦闘などになればどうなるかわからない


静希の剣術は今までそれほど有効に働いたことはないが、無能力者相手には有効だった


これからも鍛錬していけばきっとオルビアレベルの実力になれる


そう信じて今も日頃から研鑽を重ねているのだ


「そういえば私たちのところは手伝いするときにお店の制服着るらしいけどそっちはどうなの?」


「一応私たちのところもあるみたいです、着るのは女子だけですけど」


その言葉に、耳ざとく雪奈が反応し、視線を明利に向けた


思い切り凝視されている明利はその反応に機敏に反応して静希の体の影にさりげなく隠れてしまう


「・・・ちゃんと明利にも着れる制服のサイズはあるらしいぞ」


「・・・ふむ、ならば安心だ」


言葉とは裏腹に少し残念そうな雪奈、恐らくは明利をいじれなくてがっかりしているのだろう、微妙に不満そうだった


「ま、そっちはそっちで頑張れや、俺らも面倒だけどやるしかないしな」


藤岡の言葉に全員が苦笑してしまう


先輩と言えどこのイベントは面倒事以外の何物でもないらしい


当然と言えば当然かもしれない、なにせ数日遊べるかもしれないイベントをほとんど働いていなければいけないのだから


実益のない労働ほど嫌なものはない、それはどうやらどの学年でも共通の認識のようだった


後日、静希達はまた放課後に打ち合わせということで集まっていた


今回集められたのは警備関係に組み込まれている人員だけ


主に注意すべき場所や見回るときの注意をその場所に赴いて実際に説明されることで認識を深めるとのことだった


毎日来ている学校とはいえ人によって普段いかないところなどは必ず存在する


そういった場所を埋めるための行動だというのは重々理解していた


だが静希達は思い切りだれてしまっていた


なにせ警備だけではなく、店の方からも何回か呼ばれているのだ


女子は主に接客の方法や練習、裏方である男子は担当している仕事の練習


自分たちが主役というわけではないのになぜ自分たちが一番苦労しなければいけないのか


一般公開というのだからもう少し別なところに力を入れればいいのではないかと思えるのだが、もはや文句を言う気力さえなくなっている


家に帰ればさすがに何も縛るものはないが、そうなったらなったで静希に対しては人外たちがお出迎えである


「さすがに面倒ね、なんであんなことするわけ?能力公開なんて適当にパパッとやっちゃえばいいじゃない」


恐らくはこのイベントの趣旨自体をあまり理解していないであろう悪魔メフィストフェレスが、宙に浮きながら店から教わった紅茶の入れ方を実践しながら練習している静希に言葉を飛ばす


なにせメフィにとって人間の感性というのは理解しがたいのだ


人間という存在と長く付き合ってきた邪薙や、人間だったオルビアと違い、短い間しか一緒に過ごすことのないメフィにとって人間のそれは理解することができないのだ


「いつだって表よりも裏の方が忙しくて面倒なんだよ、お前が普段見てるテレビ番組だって映ってるのは三十分とか一時間程度だけど、その準備は何か月単位でかかってることもあるんだぞ」


商業として成り立っている以上、半端なことはできない


企画立案から内容の調整、演出や脚本などの決定、出演者の選定から予算のやりくりなど、はっきり言ってあげればきりがない


実際に見えているのが数十分でも、それで得られる利益が多くとも、それに見合わないだけの時間を費やすこともあり得るのだ


自分の紅茶を飲んで普段と何が違うのかわからずに首をかしげていると、そんなもんかしらねえとメフィは興味を無くしたのか先程例に上がったテレビ番組を見始める


さほど興味はなかったのだろう、特にそれ以上何か聞いてくるわけでもなく、ただ自堕落にのんびりとしている


マイペースと言えばそこまでだが。こうやって日々平和に過ごしてくれればそれが何より、彼女にそれ以上を求めることはすでに諦めた静希である


「普段よりも良い香りが出るようになりましたね、マスターの腕は向上しているようです」


「・・・そんなに変わってるのか?」


オルビアが静希が入れた紅茶に賛辞の言葉を向けるのだが、静希にとっていったい何が変わったのか全然わからなかった


味音痴というわけではないのだが、普段使っている茶葉を使っているためにそこまで劇的に何かが変わるというわけではないらしい


だがそれでもオルビアにはその違いが分かるようだ


やはり英国に住んでいただけあって茶には詳しいのだろうか


「邪薙、この茶なんか変わったと思うか?」


「ふむ・・・」


犬顔であり、きっと嗅覚も優れているだろうことを期待して邪薙のもとに自分の入れた紅茶を持っていく


目をつむって茶の存在を確認しているのだろう、いつものように奇妙な待機時間を終えた後、邪薙は首を傾げた


「・・・何が変わったかと言われると・・・むぅ・・・少し濃厚に・・・いや深みが増しているというべきか・・・?」


「ふぅん・・・そんなに違うもんかなぁ・・・」


飲み比べでもすれば普段との違いが分かるのだろうが、少なくともそんな面倒なことをしてまで味やら香りやらを比べようとは思わない


オルビアに言わせると以前よりも上達しているということだったので、悪いことではないだろう


この手腕がいったい何時何処で役に立つかは甚だ疑問だが、覚えておいて損はないだろう


「時にシズキ、今回手伝う店の甘露は味わうことはできるのか?」


「え?さぁ・・・もしかしたらまかないとかくれるかもしれないけど、あんまり期待しないほうがいいぞ?」


静希達が手伝う喫茶店もどきで扱う菓子、洋菓子好きの邪薙としてはぜひ味わいたいのだろう


普段いかない店の菓子がどのようなものかを味わいたいようだった


「私としてはそろそろ甘いものにも飽きてきたのよね、別の・・・そうね、辛いものなんていいかも」


どうやらメフィはこの半年で甘いものに飽きが来たようだ、思えば飽きっぽい彼女が良く半年も持った方だと言えるかもしれない


静希の活動範囲では買える菓子はどうしたって限られる、そうなれば飽きが来るのも必然だ


「それじゃ今日の晩飯はちょっと辛くするか、涼しくなってきたし・・・寒くなったら鍋をやるのもいいな」


「あら、鍋?ちょっと興味あるかも」


どうやら今度のメフィの興味は鍋へと向いたらしい


面倒だが、食に関係しているのであればまだましだ


出会った当初の頃に求めていた静希との肉体接触に比べれば何倍もましというものである


今日から数日間予約投稿を行います


時間は午前六時で統一、誤字報告を一掃するという意味となんか期待されているらしいので全部二回分投稿です


反応が遅れるかもしれませんがご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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