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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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備えあれば

「うえぇ・・・めんどくさぁ・・・こっちでもやっぱりあるのね・・・」


出店のリストや後日行われる打ち合わせの書かれたプリントを眺めながら鏡花は大きくため息をつく


「こっちでもってことは、向こうの学校でもあったのか?」


「当たり前でしょ・・・もう毎回手伝いに駆り出されるんだからたまったもんじゃないわよ」


鏡花は中学まで鳴哀学園で過ごしている、そして彼女は非常に優秀だ


中学時代でも毎回のように手伝いをする生徒として選ばれていたのだろう


専門学校は小中高と一緒になっているかなり大きな学校だ、それだけ人が入れるし、出店もイベントも多くなる


となれば必要な人手も多くなり、中学生や、小学生にだって手伝いを頼むことがある


「俺らはどこの出店に回されるんだろうな、飯屋とかかな」


「うーん・・・ケーキ屋さんとか喫茶店とかがいいなぁ」


リストには本当にたくさんの店が並んでいる


出店する場所は空き教室や多目的室などと言った、普通の授業では使われない教室だ、または屋台を出すところもある


その日のためにわざわざ授業の内容を一時変更までして場所を確保しているあたり、学校側も本気でこのイベントを行っていることがわかる


考えれば当然かもしれない


それこそスポンサーとなっている人間も見に来るのだ、本気にならないほうがおかしいだろう


「俺らは毎回見てるだけだったのに・・・何で手伝いなんか・・・」


「まったくだ、いつの間に俺らは優秀になっちまったのやら」


中学までは実戦という項目がなかったために、ずっと落ちこぼれ扱いされていた二人は嬉しいのか嬉しくないのか微妙な表情でため息をついている


静希と陽太は実際の能力測定の時には相変わらずあまりいい成績を残せていない


陽太は少し制御と操作が上がってきてはいるものの、静希の成績は全く変わっていないのだ


数値だけ見れば確かにこの二人は落ちこぼれと称するだけの成績しか残せていない


だがこの二人の、ひいてはこの班の成績は数値ではないのだ


あえて言うなら実戦でこそ実力を発揮できるタイプ


能力の弱い静希は指揮を、能力が安定しない陽太は前衛を、そして普段引っ込み思案であまり主張が激しくない明利も、実戦となると非常によく活躍する


鏡花は成績も実戦も高い評価を得ているものの、この班全体として、数値よりも実績で評価されている節がある


だからこそ成績優秀班にも選ばれ、三人はすでに称号を得るほどになっているのだ


「そういえばあんたたちは手伝い初めてなのよね、今まではずっと参加してたくち?」


「おうよ、毎回食べ歩きしてダラダラしてたぞ」


私服を着てしまえば能力者も無能力者も区別なんてできない


陽太をはじめとして静希も明利も私服で学校内にある出店を歩いて回っていたものだ


「雪奈さんはどうだったの?あの人だって結構優秀みたいだけど」


「あぁ、去年は確かひたすら食材切ってた気がするな、包丁持ってすごい勢いで」


雪奈は性格はあれだが非常に優秀だ


彼女もまた実戦派であるが、それを支える班員が優秀なのか、優秀なほうの生徒にカテゴリーされているようだ


そして彼女の能力なら包丁などの扱いは最高レベル、味付けはさておいて、斬るだけなら彼女の右に出る者はいない


「鏡花は去年も手伝ってたんだろ?なにやったんだ?」


「私は能力の公演よ、演習場の地面を常に変換して動く床を作ったり、ブロック状に変えて立体迷路作ったり、もう疲れるのなんのって」


「あはは、それは大変そうだね・・・」


鏡花の能力は中学の頃からかなり強かったのだろう、しかも使い方によってはとても高いレベルの演出ができる、確かに一般人に見せるにあたって比較的見せやすい能力なのだろう


「まぁでも、今回は能力使わないでできることみたいだし、疲れずに済みそうね」


「わからないぞ?いきなり能力体験のところの奴が倒れたら連れていかれるかも」


「あんたが言うと本当にそうなりそうだからやめてよね」


静希の言葉を軽くいなしながら鏡花はそうならないことを祈りながらプリントを再度眺める


僅かにため息をつきながらまたこの仕事を押し付けられたことを憂いているのか、僅かに視線を落としていた


「まぁあれだ、ちょっとくらい自由時間あるだろ、そんときゃ四人で適当にぶらぶらしてみようぜ」


「そうだな、休みがあればいいけど」


静希の不穏な発言をよそに、鏡花はわずかに笑っていた


四人でという単語が、少し思うところがあったようだった


「なによ、休憩時間まであんたたちと一緒にいなきゃいけないの?」


迷惑だと思っているような発言だが、その声と表情は明るい


口ではこんなことを言っていても、実際は嬉しいようだ


「当たり前だろ、お前がいなきゃ誰が俺らの後始末するんだっつの」


「・・・後始末をする必要がないように心がけなさいよね・・・」


そもそも学園祭もどきのこのイベントでいったいどんな後始末が必要となるのだろうか


この馬鹿は一体何をするつもりだと、少し心配になりながら鏡花は表情を一変、大きくため息をつく


やっぱりうれしくないと思っているのか額に手を当てて何も問題がないことを願っていた


事前の打ち合わせというだけあって、集まった生徒や大人たちはかなりの人数に上っていた


教師陣、出店する店舗の上役、生徒、そして当日外部警備にあたってくれる警察と軍関係者


対人格闘訓練も行えるほどの広さのホールを貸し切って行われた一般公開に対する事前打ち合わせ


その場に静希達は勿論、各クラスの優秀生徒たちもそろっていた


その中には当然のようにエルフである石動の班もいた


この一年生唯一のエルフが選ばれない理由はないだろう、能力面だけでなく石動は有能な能力者だ、多少不器用なところがあるのは致し方ないところだろう


打ち合わせで話されるのは主に出店する店への注意事項、警備や当日までに至る準備の工程などだ


飲食店に対しては主に衛生管理の徹底から有事の際の一般客の誘導の仕方など、警備に対しては連絡統制や管理体制、そして入れ替わりの時間帯や行動範囲の設定


大人に対しても生徒に対しても確認することもやることも目白押しだった


その中で静希達は担当する店舗での仕事内容の確認と警備の巡回路と時間帯を確認するだけなので比較的楽だろう


自分たちが担当する店舗の関係者が来ている場所に赴くとそこにはすでに別の班がいくつかやってきていた


静希達が担当する店舗は喫茶店、中でもケーキやシュークリームなどの洋菓子を主に扱う店だ


当日は食べ歩きできるような簡易的なものからショートケーキやモンブランなどの一般的なケーキなども販売し、部屋を一つ貸し切っての出店を行う予定らしい


ケーキなどは店から直送して持ってくるらしいが、クレープや飲み物と言ったその場で作ることができるものは教室で作ってしまうらしい


静希達が担当するのは接客と品物の補充だ


幾つかの班と合同で当たるためにそこまで忙しくならないだろうというのが関係者の意見だが、どうなるかは当日にならないとわかったものではない


主に女性陣が売り子、男性陣が品物の補充などの裏方を担当することになっている


仕事の内容をまとめられたプリントが各員に配られ、出店の方は問題なく終了する


そして次は警備の仕事


こちらはかなり多くの班がそろっており、それぞれの担当時間と範囲の書かれたかなり厚い冊子を渡された


当日は無線を使って連絡し合いながら行動するのだという


出店の手伝いと警備の時間がうまいことかぶらないように調整されているのは、長いこと水面下での話し合いや取り決めがあったからだろう


「なんかさぁ・・・こういうの見ると『うわぁ・・・』って思うわよね・・・」


「・・・心底同意するよ」


ただの文化祭であればここまで本気になるようなことはないだろう、というよりこんな面倒なことはしないように思う


だがこれは文化祭などではない


この世界にいる能力者と無能力者、その二つの人種が数日とはいえ同じ場所に大量に集まるのだ


それこそ面倒が起こって当たり前、むしろ起きないはずがないというのが大人の見解なのだ


もちろん静希達もその考えにはおおむね同意している


以前優秀な学生が集まり、関係各所の上役が訪れたあの孤島で無能力者のテロ集団がやってきたのと同じように、何か起こる可能性は非常に高い


とはいったものの、優秀班の交流会ではある程度位の高い人間たちが集まっていたからこそ狙う対象になったのかもしれないが、今回来るのはほとんどが一般人


テロ行為を起こす可能性が高くなるかと言われると、微妙なところではある

だが、問題を起こす側としてはどんな状況であろうと、それを起こすだけの価値があるからこそ行うのだ


例えば一般人だけとはいえ、報道陣も参加する年一回のイベントで多くの人間が負傷すれば、それだけでビッグニュースだ


方々から警備体制の甘さや、そんな事態を招いた能力者が非難を浴びるだろう


安易に言ってしまえば事件を起こした本人よりも、事件を未然に防げなかった能力者を標的にした方が視聴率が取れるのだ


例年、警察などの不祥事が取り上げられるのも同じ理由である


「こういうのってさ、普通にただ楽しみたいだけなのにね・・・こういう風にされると変に身構えちゃうわよ」


「でも、また前みたいに武装した人が人質とかとったらそれだけで危ないよ?今回は入る時点で能力者の人が持ち物チェックするらしいけど」


警備のことが記されたプリントには各入口に感知系の能力者を配備して参加者が所有している物品をすべて確認するということが書かれている


銃器などを部品でも持ち込もうものなら即座に没収されるだろう


無能力者の犯罪者への対策はそれで十分かもしれないが、能力者の場合はそれでは足りない


一般人に紛れ込んで犯罪を犯す能力者だっているだろう、大きな催しのところには総じて悪い考えを持つものがいるのだ


それだけではない、ただの参加者同士のいざこざなどのトラブルだって起こり得る


ただ参加する側に立つことができたならどれほどよいだろうか


こんな面倒な催しはやめたほうがいいのではとさえ思えてしまうほどに、考えることも心配することも山積みになっている状態だった


日曜日なので二回分投稿


今年も残すところあとわずか、一年が過ぎるのがあっという間です


これからもお楽しみいただければ幸いです

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