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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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ただの人

後日、静希達は城島に呼び出されていた


休日後の授業中にも城島を見ながらにやにやしていた一班の面々、その理由として城島弟の聡から最低限の情報を貰っていたからである


そしてそんなことは露知らず、職員室に四人を呼び出した城島はわずかに気まずそうにしながら咳払いをして四人の顔を見た


「あー・・・なんだ、先日はすまなかったな、私の弟を含め世話になった」


思い返せば、彼女に呼び出される内容として事後報告あるいは面倒事でなかったことはない


その中でこれほど報告が楽しみな呼び出しはなかっただろう


「で?先生結局どうなったんです?おめでたですか?」


陽太の下卑た表情に一瞬眉を顰めながらも、否定はできないのか軽く咳払いしてから口火を切る


「それが・・・まぁなんだ、一応婚約という形で落ち着いた・・・これから両方の家に赴いて話し合いをして・・・まぁいろいろだ」


城島自身まだ気恥ずかしいのか、言葉を選ぶもののその中にも躊躇いが見える


なるほど、前原の言っていたこともあながち間違いではないのかもしれない


今まで毅然とした軍人というイメージの強かった城島がこんな態度をとるなんて先日までは想像もできなかったのだから


「ところで先生・・・その・・・前原さんはいいかもですけど、彼のご両親はどんな反応を・・・」


仮に前原が結婚に積極的だろうと、その両親が良い反応をするとは思えない

なにせ彼は無能力者だ、能力者の、しかも体だけとはいえエルフとの結婚に賛成するとは思えない


「・・・あの人が一緒に乗り越えると言ってくれたんだ、私もそれについていくよ、苦労はあるだろうがな」


その声は吹っ切れたようで、とても明るいものだった


髪の奥にある目も穏やかな笑みを浮かべているように見える


心の底から他人を祝福したいと思ったのは本当に久しぶりだった


その人となりを見ているからこそだろうが、彼女が幸せになってくれるのであればそれが何よりである


「そういや先生、先生の出生って町崎さんとか村端さんとかは知ってるんですか?」


「なんだ藪から棒に、奴らは知っているぞ、それなりに早い段階で打ち明けたからな・・・まぁそれほど驚いた様子もなかったが」


城島の話によると、彼女の肉体がエルフであることを知っているのはかなり限られた人間であるという


家族と数名の友人、そして静希達


そう考えると打ち明けられたのは光栄なことなのかもしれないと思いながら苦笑いしてしまう


「あ・・・せ、先生・・・その・・・結婚したら、やめちゃうんですか?」


明利の言葉に全員がそのことに気づきそういえばと声を出す


結婚と同時に寿退職するというのはよくあることだが、静希達からすれば城島に辞められるというのは非常に困る


これが普通の班であれば何の問題もなかったかもしれないが、静希達の班は何かと問題を多数抱えこんでいる


具体的に言えば悪魔や神格や霊装で、主に静希の問題なのだが、その問題の詳細を知っている人間がいなくなるというのは結構な痛手である


「いや、少なくとも数年は辞める予定はない、あの人もそれを許してくれているよ・・・『生徒にあれほど好かれているなら辞めるのはもったいないですよ』と言われてしまってな」


前原からどのように見られていたのか知らないが、どうやら彼は静希達が城島を慕っていると判断したようだ


間違ってはいないのだが、微妙に何かがずれている気がする


やはりあの人は大物だろうと確信しながら静希達は苦笑する


「結婚は・・・来年くらいですかね?そしたら城島先生って呼べなくなるかな」


「そうだな、夫婦別姓というのもありなのだろうが、まぁそのあたりの話はまだ早い・・・とりあえず今日はその報告をしたかっただけだ」


いつものような殺伐としたものではなく、ほのぼのとし、なおかつ穏やかな気分で終えられるものは恐らくもう二度もないかもしれない


あるとすれば、城島の結婚式の日取りが決定したときくらいだろうか


「あ、お前達」


話を終え、職員室から出ようとした静希達を呼び止めて、城島はばつが悪そうに頬を掻きながら視線を右往左往させていた


「その・・・なんだ・・・感謝しているぞ・・・あの場にお前たちがいなければ、きっと前に踏み出せなかっただろうからな・・・ありがとう」


耳を疑った


失礼な言い回しかもしれないが、まさか城島から礼を言われるとは思わなかったのだ


全員が驚いている中、最初に吹き出したのは陽太だった


「せ、先生がお礼って・・・!似合わないっすよ!なんか変なもんでも食べたんですか?」


陽太をはじまりに、静希も鏡花も、明利も僅かに笑ってしまう


その反応があまりに腹立たしかったのか、城島は職員室から静希達を蹴りだしてしまった


だがその表情は楽しそうだったように見える


能力者でも、エルフでも、無能力者でも、互いに歩み寄れば何の問題も今ない


逆に、どちらかが拒絶してしまえば関係は進展しない


能力を持っていようと持っていなかろうと、適性が高かろうと低かろうと人は人


結局のところ、そこは何も変わらないのだなと、静希達は学んだ


言葉を持つ以上、話せばわかる、話さなければわからない


当たり前のようで、なかなか気づけないことを学ぶことで、静希達はまた一つ前に進んだのだ


これにて十四話は終了


土曜日なので次の話もすぐにあげます


章の切り替わりで複数投稿だったとは・・・なんとも間抜けな感じです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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