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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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今日のお手柄

「前原さんは、まだ先生と結婚したいんすか?」


「・・・あぁ、仮に・・・そのエルフの人たちが何か言ってきても、説得するつもりだよ、僕は美紀さんと結婚したい」


日中の喫茶店で言うようなセリフではないものの、非常に男らしい返答に全員が顔をほころばせていた


何せああいった話を聞いたら普通は尻込みしてしまう


誰だって面倒はごめんだ、それが家族がらみで、これから延々と続くかもしれないならなおさらである


面倒事に慣れている静希達だって少し気後れしたほどだ


「せ、先生、前原さんは答えを出してくれてます・・・先生も・・・」


明利の言葉に、城島は額に手を当てて大きくため息をついていた


どう返したらいいのか、城島自身わかっていないようなのだが、その奥でくすぶるものがあるのだろう、僅かに声を漏らした後顔を両手で覆ってしまう


「・・・したくないわけがないだろう・・・ずっと、こんな私に・・・好きだと言ってくれて・・・優しくしてくれた人なんだ・・・一緒になりたくないはず・・・ないだろうが・・・!」


数年間過ごした時間は決して軽くない


特に、複雑な事情のあった城島にとって前原の存在はとても大きなものだったのだろう


城島の言葉に、前原は緊張から解放されたのか、ようやく安堵の表情を見せ城島の手を取って強く握って見せた


「美紀さん・・・俺は貴女と結婚したい、困難があっても、一緒に乗り越えたい・・・僕じゃ頼りないかもしれないけど・・・一緒に生きてほしい・・・お願いです」


静かな声でそういうと、城島はわずかに迷いながらも、静かにうなずいていた


それを見て静希と鏡花はその場を最後まで眺めようとしている陽太と明利、そして城島弟を引きずって頼んでいた飲み物の料金を置いてその場から即座に退散していく


「おいなんで出てかなきゃいけないんだよ、最後まで眺めてたってよかったじゃないか」


「バカ、あの空間で私たちは邪魔でしかないのよ、ちょっとは空気を読みなさい」


明利のような乙女思考ではなく、陽太はただ単にその現場を見てにやにやしていたいだけだ


はっきり言ってあの場では害悪でしかない


「でもよかったね・・・あれなら先生もきっと・・・」


「そうだな・・・先生のああいう姿を見れたのはラッキーだったかもな」


ずっと謎だった城島の額を拝むことができたのだ、それだけでも今日は収穫だった


予想以上に重いエピソードも聞かされたが、彼女が自分が思っているよりずっと人間らしいということがわかり、それだけで十分すぎるほどに充実した一日だった


「あの・・・」


静希達が話している中、陽太たちと一緒に引きずられてきた城島弟がわずかに声を出して頭を下げた


「ありがとうございました・・・姉ちゃんを説得してくれて」


その言葉に全員がきょとんとしていた


「・・・そっか、君は先生があぁ言う風に言うってわかってたんだな?」


「・・・はい・・・姉ちゃんは、不器用ですから」


彼は曲がりなりにも城島の弟だ


静希達が知らないような彼女の性格を知っていて何の不思議もない


プロポーズされたことは知らなかっただろうが、いつかはその日が来るとわかっていたのだろう


そして彼女が前原の思いを、自分の身上理由から拒絶することも何とはなしに気づいていたのだろう


「・・・たぶん、俺じゃ姉ちゃんを説得できませんでした・・・ありがとうございます」


小学生にしてはこの聡という少年は非常に大人びている


恐らく城島による教育が施されているのか、それとも彼自身の性格上の問題か


どちらにせよ、姉のデートを尾行するなどと言う行動に出るだけあって行動力は確かなようだ


恐らく静希達がいなければあの場で姉を説得していたのかもしれない


とにもかくにも、今日は濃厚な一日だった


静希からすれば携帯を買いに来ただけだったのに、まさかこんなことに巻き込まれるとは思いもしなかった


「ま、結果は後々先生からたっぷり聞きましょ、そうだ聡君、連絡先教えてくれる?途中経過とか聞きたいし」


「お、そりゃいいな、定期的に俺らに報告してくれよ、話のタネに事欠かなくなる」


鏡花と陽太はノリノリで城島弟聡と連絡先を交換している


静希と明利も同じように彼と連絡先を交換し、これでいつでも城島ネタの速報が届くようになった


静希が遠目で先程までいた喫茶店の方を見ると、まだ城島達は店内にいるようだった


恐らくまだ話をしているのだろう


前原からすれば、念願叶ったプロポーズ


城島からすれば、コンプレックスからようやく抜け出せた一瞬だ


二人にとって今ほど重要な時間はないだろう


「あれだな、今日は陽太のお手柄だな」


「あ?俺?あぁ、先生たちを見つけたからか?」


陽太の反応に、静希と鏡花、そして明利でさえもため息をつく


何故三人がそんな反応をするのかわからず、陽太は疑問符を飛ばし続けていた


陽太はあまりものを考えない


だからこそ裏表のない言葉を出すのだ


打算的な人間の言葉は、的確に相手の芯を突くがどうしたって軽くなる、なにせ考えて物を言うのだから、その分相手にだってその考えがわかる


だが陽太のように裏表のない人間の言葉は、それだけ相手に重く響くのだ


考えなしなだけに、率直に自分の感情を、自分の思いを相手にぶつけるからである


これも陽太の才能の一つだ


考えないことができるからこその才能、それに陽太は気づいていない


いや、気づかないほうがいいのだろう


気づかないからこそ発揮される才能というものは確かにあるのだから


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