悪魔の能力
「しょうがない私達もいくか、静希、あんたは?」
「俺はこの子を見てるよ、いくつかおかずを持ってきてくれると助かる、村長への報告も任せるよ、リーダー」
「あの状況を説明しろっての?」
「そこはほら、上手くやってくれるだろ?熊田先輩もフォロー願います」
「任されよう、上手く説明できるか自信がないが」
まったく割に合わないリーダーだわと不満をもらしながら二人も部屋を出ていく
「静希君私も残ってようか?」
「大丈夫だよ、お前今日は疲れただろ?しっかり食っておけ」
「・・・うん」
明利も渋々皆の後を追う
部屋には仮面の少女と静希だけが残された
静希は横になり大きく息をつく
色々あり過ぎて頭がパンクしそうだった
エルフの少女を捕獲したと思ったら悪魔とか言うわけのわからない存在が現れて、そいつと戦ってたら刺されて、収納して勝ったと思ったらそうじゃなくて、かと思えば悪魔の方から負けを認めて、かと思えば好かれてキスまでされて対等契約だの言われて
静希の許容量の限界をはるかに超える展開だ
「なに?シズキ、疲れちゃったの?」
「勝手に出てくるなよメフィ」
「私に言うことを聞かせたいなら私のお願いを聞かなくちゃ、対等契約ってそういうものよ?」
いつの間にか静希のトランプの中から出てきた悪魔メフィストフェレスはふわふわと部屋の中を浮遊している
「お前何でもありなのな」
「だって存在だけの存在だもの、重力なんてものにも縛られないわ」
もはや静希の理解を越えている、そんな存在ありか?と思いながらため息をついて起き上がる
「メフィ、あの時の約束だ、あんなんでもお前に勝ったんだから、お前の能力を教えろ」
「あら、私のことが知りたいの?積極的ね」
「茶化すな、約束だぞ」
そうね、約束は守らなくちゃとあごに手を当ててほほ笑む
「私の能力は再現、相手と同調して、その時に相手が使った能力を私は使うことができる」
「うわ、反則臭いな・・・」
それはつまり、この世界のどんな能力でも使えるということだろうか、しかもあの威力
「反則だなんて酷いわ、使用できるのは発現系統のみ、しかもオリジナルに比べて精度は絶対に八割以下、普通の能力よ?」
それだけ聞けば、まぁ納得できなくもないが、まだ納得できない部分がある
「この子が使った能力、あんなに威力なかったぞ?あれのどこが八割だ、二十割くらい増しだったぞ」
「そりゃそうよ、込めた魔素が段違いなんだから」
魔素は能力の源だ、エンジンに対する燃料だ、燃料を多く注げばその分エンジンは多く稼働する、エルフが人間より強い能力を扱えるように、恐らく悪魔もそうなのだ
「例えばそうね、同じ人間が三輪車と自転車、全力で漕いだとして、どっちが速く走れる?」
そんなもの問題にすらなっていない、たとえ三輪車を全力で走らせたとしても自転車の速度に勝てるはずがない
「自転車の方が速いな」
「その通りよ、たとえ同じ人間、この場合は同じ能力を使っているとしても、それを使用するのが人か悪魔か、三輪車か自転車かによって性能は全く変わる、もっとも精度はどうしようもないけど」
使われる物が逆な気もするが、この際置いておこう
再現したとはいえ、その精度は八割以下、だがその威力は込めた魔素に比例する、つまり人間やエルフの能力を再現すればオリジナル以上の威力で放てるということだ
精度とはつまりその能力の操作性や制御率だ、だが使える魔素が何倍も大きいならオリジナルの二割落ち程度の精度は些細な問題である
「お前が扱える魔素ってどの位なんだ?人間の何倍?」
「比べたことないからわからないわよ・・・あ、でも昔仲良かった人間がいってたわ『私達の使う魔素がこの砂一粒だとするならば、君の扱う魔素はまるで砂漠に等しい』って」
もはや何倍というスケールの話ではない、規模が違いすぎる
爆竹と核兵器を比較しているようなものだ
「ひょっとしてお前、俺達と戦ってる時すげー手を抜いてた?」
「そうよ?あたりまえじゃない、いったでしょ、シズキは殺すつもりはなかったって」
冗談ではない、あれほど圧倒的な力でさえも手加減をしていたといのか、一個大隊を必要とする力というのはこれほど強大なものなのか、二度と相手したくない
「じゃあなんで俺達の物理攻撃が効かなかった?陽太は当たってたけど」
静希のナイフや鏡花の物理攻撃、雪奈の刀、何もかもメフィには当たっていなかった
全てすり抜け、手ごたえも何もなかった
「あれはただの透過、能力でも何でもなく私達悪魔がもともと持ってる力よ」
「じゃあなんで陽太が触れられた?」
「それはあの子が私の透過を上回る能力を持っていただけの話よ、相性の問題ね」
メフィは嬉しそうに笑うと静希に顔を近づける
「じゃあシズキ交代よ、あなたの能力を教えて、できる限り詳しく」
「いいけど、たいしたものじゃないぞ?」
「いいの!教えて」
メフィは金の目を輝かして迫ってくる、自分の能力の何がそんなに気に入ったのかと不思議に思いながら静希は口を開く
「俺の能力は収納系統、俺が作ったこのトランプのカード一枚一枚に五百グラム以下の物を生き物以外なら何でも入れることができる、入れた時の運動エネルギーや熱量なども一緒に保存されて、そのエネルギー総量は無視、質量だけが入れる時の制限になってる、初めて入れる物は必ずトランプをその物体に触れさせなきゃいけない、二度目からは遠隔で出し入れ可能で入れたい物をイメージすればそれだけを入れることもできる、それだけだ」
「入れた物は変化するの?」
「いや、入れた時の状態が維持されるとおもう、少なくとも劣化することはない」
今まで試行錯誤して調べた結果だ
能力は個人的に把握しておかなければならないし調べてもらえばわかるという物でもない、自分で調べて把握しなくては意味がないし、何より自分の能力を他人に簡単に教える物ではない
もっとも、静希の能力は教えたところで何の得も損もないので気にしたことはない
ふんふんと納得する、だがその後ににやりと悪い笑みをする
「なんだよ」
「何でもないわ、いいのいいの気にしないで」
そう言われるときになるのが性分だ、だがおしゃべりはここまでのようだった
布団に横たわっていた少女がうなされ始め目を覚まそうとしていた




