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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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決別の傷

城島の言葉に、前原は首をかしげていた


角があるという言葉の意味を理解できなかったのだ


だが、その場にいた静希達はその言葉の意味をほぼ正確に理解していた


「え・・・?つ・・・?角・・・?」


理解はした、だが、だからこそ混乱していた


普通の人間には額に角などありはしない、否、あってはならない


なら、そんなものがあるということは、答えは必然的に一つだ


「せ・・・先生って・・・エルフだったん・・・ですか?」


静希の言葉に、城島は頷いた


本日何度目の驚愕だろうか


いや、今までの物とはレベルが何段階か異なる、それほどの驚きだった


先程まで興味津々で耳を傾けていた一班の人間は全員もれなく混乱しかけていた


「私の母親はエルフでな・・・私は無能力者とエルフの間に生まれた子供なんだ」


信じられない事実に、静希達は何がどうしてこんなことになっているのかわからない


エルフとは人間の奇形種だ


そして奇形種から生まれる子は、同じように奇形種となる


その理屈で言えば、城島の母親がエルフなら、城島もまたエルフなのだろう


そんな中鏡花があることに気づく


「え・・・でも、先生って能力は普通ですよね?精霊とかは・・・」


「エルフの精霊召喚の儀は年齢が二桁になった時・・・東雲からそう聞かなかったか?」


城島の言葉に、そういえばと鏡花は思い出す


東雲姉妹は十歳になったからこそ、精霊を召喚し使役するようになった


だが城島は五歳の段階で母親から捨てられたと言っていた


どんなことがあったのか知らないが、恐らくエルフとの関係を断ち、ただの能力者として暮らしていたのだろう


「でも・・・あの・・・美紀さんがエルフだというのは理解しましたけど・・・それが理由なんですか?そこまで気にするような事でしょうか・・・?」


詳しく事情を知らない中でも、特にそちらの方の事情や情報を知らない前原は、城島がエルフであるということにほとんど嫌悪感を抱いていないようだった


無知とは時に恐ろしいものである


いや、この場合は無知であることが幸いしているのだろう


だが事情を知っている静希達はその重要性を理解できた


「あの・・・奇形種の・・・エルフの子供は必ずと言っていいほどエルフになっちゃうんです、必ず能力者が生まれるってことなんですよ、それも体の一部が人間とは違って生まれてくるんです」


体の一部が奇形になる


そんなことを無能力者に説明しても、まったくイメージできないだろう


はっきり言って静希だって想像することは難しい、何せ今まで見たエルフの奇形は東雲風香のそれだけなのだから


それでも必ずエルフが、ひいては能力者が生まれるということは大まかながらに理解できたのだろう


それでも相変わらず前原の気持ちは変わらないようでそれくらいで・・・と呟いている


「これだけじゃない・・・もう少し理由がある・・・むしろこっちの方が大きいかもしれないな」


まだあるのかと静希達は若干気を重くしながら城島に耳を傾ける


今の今までの話だけでずいぶんお腹いっぱいなのだが、まだ驚くような内容があるのだろうかと身構えてしまう


「これを話すには・・・私の昔を少し話す必要があるな・・・この傷をつけたあたりの話だ」


城島が額に自分で傷をつけた時の話


そういわれると興味はあるが、聞きたいような聞きたくないような、微妙な心持だった


何せ最初からスプラッタな結果が待っていることがわかっているのだから


「私は五歳になるまで、父と母と私と・・・三人で暮らしていた、それなりに幸せだったのは覚えている・・・だが五歳になった時、母が突然エルフの村に戻るから別れてくれという旨の書置きを置いて出て行ってな・・・」


城島の説明曰く、彼女の両親の馴れ初めなどは知らないらしいが、どうやら駆け落ち同然の結婚だったらしい


母親の実家であるエルフの村などへの了承を無視しての結婚だったために、多くの確執を生んでいたらしい


エルフの里の場所や行き方など知らない城島父子は突然いなくなった母に対してどうしたものかと非常に困ったという


書置きには離婚届も同封されており、すでに母の判子は押されていたのだという


一方的に突きつけられたような形では正式な離婚はできないのだと、弁護士などを通して母と接触を図ろうとしたものの、そのすべてが『話すことはない』という返答によって終わることになる


家庭内暴力があった記憶もなく、本当に唐突だった別れに、城島は子供ながらに悲しかったのを覚えていた


「それから数年して・・・私が小学校に上がって少しした頃に母と再会してな・・・また一緒に住もうと言ってきたんだ・・・私は嬉しかったよ、また家族三人で暮らせるとばかり思っていたからな・・・」


だが城島の思いは最悪な形で裏切られることとなる


母に連れられた先は、城島の母の実家であるエルフの里


山の奥底にある隠れ里とでもいうべき場所だった


最初そこに連れられたときは、非常に興奮したものだと城島は笑って見せた


「家に連れられたとき・・・そこにいたのは父ではなく、別のエルフの男だったよ、村の大人たちが無能力者ではなく、別の婿を取るように働きかけて、あの女はそれに応じたんだ」


個人の感情よりも、エルフのための行動をとる


城島の母は、一時的にとはいえ愛した男と子を捨て、エルフとしての生き方を選んだのだ


「私は血の混じりはあるものの、体はエルフそのものだ、だからこそ私だけでも村に引き入れたいと思ったんだろうな・・・だが私が父はどこだと尋ねたら・・・あの女はいうに事欠いて『あの人はいらない』と答えたのさ」


城島は笑っていた


話している間に、その時の感情を思い出したのか、自嘲混じりに、怒りを含めた笑いだった


その怒りは自分に向けられたものなのか、それとも母親に向けられたものなのか


「私は・・・あの女が消えてから落ち込んだ父を見てきた・・・一緒に暮らせるなら、それでいいと思っていた・・・だがあの女の言葉を聞いて、ようやく気付いたんだ、この女は私たちとは違う生き物なんだとな」


城島はそういいながら自分の額の傷をなでる


僅かに力がこもり、痛みを覚えたのかわずかに眉をひそめた後、視線を上げる


「その時、私は渡された仮面を砕いて、自分の額にあった角を抉り落とした・・・奇しくも、その時初めて能力が発現してな・・・その時一緒に言ってやった・・・『あんたは私の母親なんかじゃない』とな・・・」


懐かしむように傷跡に触れている城島は、語り終えて僅かにため息をついて全員の方を向く


「そのあと私は能力を無茶苦茶に使って逃げた、そしてご近所さんから救急車呼ばれたり、父にしこたま怒られたりと、そりゃもう大変だった・・・だが、それ以降エルフの人間は私たち親子に接触はしてこなくなったよ・・・そうして、父は再婚し、聡が生まれた」


それは、城島がエルフから人間になった時の話だったのだろう


母親であるエルフとの決別、エルフとして暮らすより、父とただの能力者として暮らすことを選んだのだ


今の医学なら傷も消せるだろう、だがあえて消さないのは、その訣別の意思をいつまでも覚えているためだろうか


「わかりますか?今私たちにはエルフの奴らも手を出してこないでしょう・・・ですが、私の子が生まれた時、連中がどう動くのか・・・私にもわからない・・・強引に子を奪うかもしれない、または何もしてこないかもしれない・・・どちらにせよ、普通の無能力者であるあなたには非常に危険なことが待っているかもしれないんです」


自分の子に対してまた暮らすように言ってきた母親、それがもし、孫ができたことを知れば、また自分たちエルフの生活に組み入れようとするかもしれない


その時、前原が巻き込まれるのではないだろうか


普通の家庭なら、正しく話し合いもできたかもしれない


だがエルフはそうはいかない


若い世代ではなく、城島の親の世代はまだ常識からしてずれている者ばかり、まともな話し合いができるとは思えなかった


これで前原が能力者ならまだよかった、だが彼は生粋の無能力者


エルフと無能力者の結婚の末を城島は見ているだけに、余計にこれ以上先へは進めないという思いがある


だからこそ、城島は頑なに前原を拒んでいるのだ


一つは、生まれる子の問題


一つは、結婚し、子が生まれ、エルフの問題に前原を巻き込んでしまうのではないかという懸念


どちらも一生にかかわる問題であるが故に、城島は前原を拒んだ


「だから・・・私はあなたと結婚するわけにはいかない・・・結婚などできるわけがない・・・あんな女の血を引く私です・・・ろくなものじゃない・・・」


城島の中には今も、母親の影が大きく残っているのだろう


自分を捨てて、エルフとして生きることを選んだあの母親のことを


それ故に、今もこうして頭を下げながら歯を食いしばっているのだ


「あの・・・先生・・・一ついいっすか?」


話の内容をすべて聞いて、誰も何も言えなくなっている中、陽太が声を出した


「その・・・先生が前原さんのプロポーズ断った理由はわかったんすけど・・・結局先生はどうなんですか?」


「・・・どう、とは?」


どうやらまだ納得してないところがあったのだろう


静希達からすれば、城島が結婚を断る理由は正当であるように思える


家庭環境や身体的な問題を理由に結婚を取りやめるという例は意外と存在する


もっとも、問題のあるほうが断りを入れるというのは珍しいかもしれないが


「先生は結婚できないってさっきから言ってますけど、先生は前原さんと結婚したくないんすか?」


陽太の言葉に、城島は言葉を詰まらせた


陽太は本当に物事の本質に気が付く


今まで城島は結婚したくないではなく、結婚できない、あるいは前原のためにも結ばれてはいけないなどと言う理由で断ってきた


だが結婚したくないという答えは返ってきていない


目を伏せた状態で、城島は歯噛みしていた


どう返したらいいのかと迷っているようだった


個人的な理由で二回分投稿


別に昨日一昨日で何かあっただとか何もなかったからだとかそんな理由じゃりません、えぇそんなことありませんとも


これからもお楽しみいただければ幸いです

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