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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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彼女の姿

予想通り、静希達は城島からの熱い拳骨をくらい、全員を引き連れて話をすべく喫茶店に来ていた


本来軽く叱られてそこで終わりのはずだったのだが、城島と一緒に居た男性前原が静希達に興味を持ったらしい


合計七人の大人数だが、時間が時間のために比較的簡単に場所は取れた


「へぇ、じゃあ君たちが美紀さんの教え子なんだね」


デートを見られていたというのにまったく気にしていない様子で朗らかな笑みを浮かべている前原はそういいながら紅茶を傾けている


先程城島が怒っていた時もまぁまぁそんなに怒らないでと、軽くなだめただけでその怒りを収めてしまっていた


この人はできる


城島に長い時間指導を受けている静希達は直感でそう理解した


「前原さん・・・あまり妙なことは聞かないで下さいよ?」


「ははは、わかっていますよ、でも気になるじゃないですか、教師としての美紀さんの姿、僕にはイメージできないんですから」


目の前にいる城島と前原の反応の違いから、恐らく前原は城島の本性に近い部分を理解していないのではないかとさえ思えてしまう


どういう質問をされるのか、そしてどういった返答をすればいいのか、教え子の四人は非常に悩んでいた


「ちなみにさ、美紀さんって普段は何を教えてるの?」


「え?あ・・・えっと物理学とかです」


班を代表して鏡花が答えると前原は理系なんですねと満足そうに微笑んでいる


間違ってはいない、確かに城島は物理の単元を担当している、そしてもう一つ、能力学や演習なども受け持っている、だがそれを前原に教えても理解できないからこそそのことは言わなかったのだ


「じゃあ普段はどんな感じ?怖い?それとも優しい?」


自分の知らない城島を知ることが楽しいのか前原は嬉々として静希達に問いを投げかけてきた


だが質問された静希達からすればたまったものではない


目の前に質問の答えがいるというのに滅多な返答をしでもしたら、そして何よりいつも世話になっているのだ、こういうところで恩を返さなければと全員が必死に城島のいいところを探そうとする


「そうですね・・・普段は厳しいですけど・・・なんて言うか・・・俺らのことをちゃんと心配してくれる・・・っていう風に思います」


「あー・・・確かに、なんだかんだ言って気を利かせてくれるよな」


主に問題を起こす二人からすれば城島の対応はありがたいの一言だ


普段厳しく自分たちに指導をしてはいるものの、やはりそこは教師なのか、しっかりと生徒である自分たちの心配をしてくれている


その分迷惑をかけることも多々ある


語頭になんだかんだという言葉がつくあたり城島らしいと言っておこう


「じゃあ・・・美紀さんの仕事姿ってどんな感じかな?」


前原はもうノリノリだ


普段見ている城島は随分と品のいいものなのか、それとも静希達の知っているそれとは違うのか、次々と問いを投げかけてくる


仕事姿と聞かれて最初に思いつくのは机に向かって書類を書いているところだ


教師のそれとして正しいものかどうかはわからないが、教鞭を振っているよりも眉間にしわを寄せて書類に向かっている姿の方が印象的である


「えっと・・・すごい真剣な顔して書類仕事している感じ・・・ですかね、できるキャリアウーマンって感じです」


「た、確かに城島先生ってきりっとしてるもんね」


鏡花と明利のフォローともとれる返答に前原はさらに頬を緩ませる


それに対し、城島はわずかに居心地が悪くなったのか退席しようとする


「失礼、少しお手洗いに・・・お前達、余計なことは聞くんじゃないぞ?」


前原がいることもお構いなしに鋭い眼光とどすの利いた声音で静希達にそういって離席して化粧室の方へと向かっていく


城島が自分たちの席から見えなくなったのと同時に全員が前原に向けて身を乗り出した


「率直に聞きますけど、先生とどこまで進んでるんです?」


「先生と付き合ってるんすか?」


「先生のどこが好きになったんですか?」


「つ、付き合ってどれくらいですか?」


矢継ぎ早に質問する四人に前原は思わず笑い出してしまう


それとは対照的に城島の弟聡はあきれ果ててしまっていた


「あの・・・姉ちゃんは余計なことは聞くなって・・・」


城島弟の言い分に陽太はチッチッチと舌を鳴らしながら指を左右に振る


そのしたり顔が非常に腹が立つことこの上ない


「甘いな少年・・・聞くなよ、と言われたら聞きたくなるだろう?テレビとかで芸人が『押すなよ?』と言うが、あれは本当は押されたいという意味なんだ、つまり城島先生だって聞いてほしいんだよ」


訳の分からない陽太理論に城島弟はそ、そうだったのかと驚愕しているが、そんなことはない


むしろ普通に聞いてほしくないことだってあるだろう


だが、今ここで聞かないほど城島に対して興味がないわけではない、むしろ聞きたいことだらけなのだ


「えっと・・・そうだね、付き合い始めて・・・大体二年くらいかな」


前原の言葉に四人はおぉぉと声を漏らす


二年と言えば男女の付き合いとしてはそれなりに長い、もう結婚を考えてもいいくらいの長さだと言っても過言ではないだろう


「ち、ちなみに前原さんのご職業は?無能力者ですか?能力者ですか?」


「僕は銀行員をしているよ、無能力者だけどね」


銀行員


普通だ、城島と付き合っているということでそれなり以上か突飛な職業をしているかとも思ったのだが、非常に普通だ


「先生のどこに惚れたんすか?」


「えっと・・・恥ずかしがり屋なところとか、優しいところとか・・・実はいろいろと気を利かせてくれたりしてくれるところかな」


たまにすごくかわいい表情を見せてくれるんだよと恥ずかしがりながらのろけて見せるこの前原


大物だ、この場にいる一班全員がそう思った


「ちなみに結婚とか考えてるんですか?」


「・・・実はね・・・前にプロポーズしたんだ」


その言葉を聞いて、一瞬の停滞の後に前原以外の全員の声が上がる


店内ということを思い出してすぐに声のトーンを下げたが興奮まで下げることはできない


何より驚いているのは静希達だけではなく、城島弟聡も同じだった


「おおおおおおおいおいマジか!?城島先生が城島先生じゃなくなるのか?!前原先生になるのか!?」


「落ち着きなさいバカ、でもプロポーズ!?全然気づかなかったっていうかそもそも何時!?」


「結婚かぁ・・・いいなぁ」


三人が慌てふためき憧れる中、静希は前原の微妙な感情の機微に気づいていた


なんというか、少し憂いを含んだような表情なのだ、ただプロポーズしただけというわけではないようだ


「ま、前原さん。本当ですか?!姉ちゃんはなんて!?」


「あー・・・実は答えは保留にされてしまってね・・・というかその・・・遠まわしに断られた・・・のかな?」


前原の回答に再度全員の声が止まる


遠まわし、その言葉が少し引っかかるが、その理由がわからないのだ


「なんで?俺が女だったらこんな優良物件ほっとかないぜ?」


「あの、失礼ですけど、なんて断られたんです?」


陽太が女になるなどと言う気持ち悪い想像は完全に無視して鏡花は前原に向かって問いを投げかける


城島のあの表情を見ているだけに納得できなかったのだ、彼女は少なくとも前原に対して好意を抱いている


同じ女なのだ、それくらいわかる、だからこそ理解できなかった


「えっと・・・あなたのような人では私は釣り合わない、あなたにはもっと良い人がいる、私のような汚れた女と一緒にならないほうがあなたのためです・・・って」


その言葉に静希達は全員首をかしげてしまった


この言葉から察するに、前原に問題があるのではなく自分に問題があるようなことを言っている


ただの社交辞令かもしれないが、ずいぶんと自分を低くしている言い回しだ、あの城島がそのような言葉を選ぶとは思えない


何よりそんなことを言っておきながら今日も普通にデートしている、普通なら断った時点で縁を切るのではないだろうか


「なんか妙ね・・・前原さんとしてはどう思ったんです?ていうかよく関係を続けてましたね」


鏡花の歯に衣着せない物言いに少し困りながらも前原は笑っている


「うん・・・少し辛かったけど、諦められなくてね、もう少し時間が欲しい、あなたと一緒になりたいんだみたいなことを言ったら、もう少しだけ一緒にってことになってね」


その笑みはそれほど力強いものではない


こうしてみている人柄としても、そこまで押しの強い人には見えないが、やるときはやるということだろうか


なんにせよ、この人は大物だと再確認した


そんな中、城島弟が何か察したのかうつむいてしまっていたが、静希以外その様子に気づいたものはいなかった


「ちなみに先生との出会いってどんなでした?」


「えっとね・・・二年前くらいかな?付き合う二か月前なんだけど、駅のホームから落っこちちゃってね、そこを助けてもらったんだ」


軽く落っこちちゃったなどと言っているが、一歩間違えば死んでしまうような大事故だ


一体何が原因だったのかは知らないが、そんなところを助けられるとは、本当によく無事だったものである


「へぇ・・・ちなみにそん時城島先生になんか言われました?」


「ははは、もうこってり怒られたよ、ボーっとするなとか、何考えてるんだとか、死にたいのかとか、そりゃもう駅員さんや警察の人より強く叱られた」


日ごろ城島の指導を受けている静希達からすれば容易に想像できる城島の叱る姿


声を荒げることもあれば、静かな怒りを燃やすこともある


自分たちが受けるとわかるが、あの状態の城島は本当に怖いのだ


誤字報告が五件溜まったので複数投稿


アーカードさんのような主人公もある意味大好きだけど、うまく書けないから困る、実力がまだまだ足りないです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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