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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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その日は終わる

「確認が取れたぞ、清水、響、書類に幾つかサインしてもらうからな」


確認を取りに行っていた城島が書類を何枚かもって休憩室に戻ってくる


面会時間が限られているうえに、そう毎日会いに来れるわけでもないようだ


一週間に一度、面会時間は午前二時間、午後二時間の合計四時間


二人が行う訓練の時間としては短い方だろうが、継続することで力となる


日々の訓練で槍と最高出力の訓練をし、週一回に最高出力の定期的な再確認をする


これから陽太の訓練は一層忙しくなることだろう


その日、陽太と鏡花は大きな収穫を、対して静希と明利は得られるものはなく刑務所を後にすることになる


帰りの中で静希が時折自分の左腕を眺めてため息をつくことがあった


期待が大きかっただけに、落胆も大きい


だがその分できることは増えた


新しい左腕で試したいことはいくらでもある、何もできなくなるよりも、できることが増えたという点では、まだありがたかった


「陽太、帰りに炎見せてくれよ、せっかく出せるようになったんだろ?」


「おぉいいぜ、んじゃ帰りに学校寄ってくか」


ある種踏ん切りをつけたのか、静希はいつもと変わらぬ調子で声を出す


明利も、静希がいつも通りの様子をしているのを見て、これ以上悩んでも仕方がないと思ったのか、何度かうなずいて小さく拳を握る


「陽太君の青い炎の時の力の強さとかも見たいよね、できることもいっぱいあるだろうし」


「あー・・・さっきも言ったけど、青くなれるのは本当に短いわよ?せいぜい十数秒だからね・・・しかも集中に時間かかるし」


槍と同じように、まだ実戦で使えるだけの物にはなっていなくとも、形だけはできているのだ


後は練度を上げていくのみである


静希達がそうしていつも通りにしているのを見て、城島は少し安心したのか、ため息をつきながら彼らを眺めていた


陽太と鏡花は何の心配もいらない


精神的に不安定な状況になっていた陽太も、静希が生きているとわかってからは非常に安定している


一番心配していたのは静希と明利だ


あの時非常に弱弱しくなっていた明利を見ているだけに、城島は気がかりだったのだ


時折あの時の目をする明利と、左腕を無くしたことで僅かに物思いにふけるようになった静希


どちらが重傷かと聞かれると、どちらもかなり深い傷を負っている


明利は精神的に、静希は肉体と精神の両方を


教師として何かできることはないものかと考えるのだが、当の本人が気丈に振る舞っているのに自分が気を落としている場合ではないなと考えを改める


帰りに学校に寄った静希達は、何年かぶりの陽太の青い炎を見る


力強く、それでいて美しく燃えあがる青い炎


それは十数秒で普通の赤い炎になってしまったが、確実に陽太の成長を示す第一歩となる炎だった


三人に別れを告げ、家に帰った静希は、まず第一にソファに倒れこんだ


「お疲れ様・・・こんなところで寝ると風邪ひくわよ?」


いつものように勝手にトランプから出てくる人外たち、そしていつもとは全く違う口調と声音で静希の頭をなでる悪魔メフィストフェレス


さすがに今日あったことに対して茶化す気は起きないのだろうか、うつぶせの状態の頭をやさしくなでながら、静希が起きるのを待っていた


邪薙もオルビアも何も言えずにいた


いつも頭の上に乗っているフィアでさえ、静希に近づけずにいた


期待していた左腕の治療ができなくなったという事実を突き付けられた静希のショックは大きい


せめて友人たちの前では気丈に振る舞って見せたが、やはり落胆は大きいのだ


少なくとも一朝一夕で払拭できるものではない


その重さを理解しているからこそ、邪薙とオルビアは何も言えなかった


今静希に近づけるのも、触れられるのも、そして話しかけられるのも、一番付き合いの長いメフィだけである


「つらいなら泣いちゃえばいいのに・・・楽になるかもよ?」


自分の契約者が、自分に弱いところを見せている


それを許容するかのように悪魔は優しい声を出す


企みがあるわけではない、ただそうしたいからしているだけ


悪魔の気まぐれとは、時と場所を選ぶのだ


「つらいとかじゃ・・・ないんだよ・・・ただ・・・申し訳なくてな・・・」


「・・・それは誰に?」


「・・・さぁ・・・俺も分からない・・・」


申し訳ない、それはいったい誰に向けられた気持ちだろうか


治療法を探してきてくれた明利か、静希を守り損ねた人外たちか、自分を生んでくれた両親か、自分を心配してくれる幼馴染か


誰に向けたらいいのかもわからないその申し訳なさを抱えたまま、静希はソファに顔をうずめる


泣いているわけではない、涙が流れる訳ではない


ただ、今はこうしていたかった


静希が弱いところを見せるというのは非常に稀である、人外たちはおろか、幼馴染たちだってあまり見たことはないだろう


それが珍しく、そして大切なことだと理解しているのか、人外たちは静希に必要以上に何かいう事はなく、ただ傍に居続けた


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