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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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あの時とは違う腕で

「え?じゃあなに?あんたが雪奈さんに心配かけたら雪奈さんが腕を落とすの?」


「・・・そういう事になったらしい」


翌日の昼食時、昨日のことを話した時の鏡花の反応がこれだ


信じられないというか、一体何を言っているのか理解できないという反応だった、静希もこの反応を理解できるだけにため息が止まらない


「なるほどね、そう来たか・・・雪さんやるなぁ・・・女にしておくのがもったいないくらいだ」


「・・・そんなことないでしょ・・・って言いたいけど・・・男らしいわね・・・」


陽太の言う通り、雪奈は女にしておくのは惜しいほどにかっこいい行動をとることがある


まさか幼馴染のために自分の片腕を賭けるなんてことをするとは思わなかっただけに、鏡花も否定しかねているようだった


「でも、静希君にはそういうのが一番効くと思うよ、私とも指切りする?」


「頼むから勘弁してくれ、これ以上誰かの腕を守ることはできないぞ」


明利の目が一瞬光を失ったことで鏡花は少しだけ身を強張らせたが、すぐに冗談だよと言って左の指を引っ込めたのを確認して安堵の息をつく


昼食時にするような会話ではないものの、班員から見ても静希の左腕は少しずつだが確実にその動きを洗練しているのが覗えた


何気ない動作から一つ一つの動きが元の腕のそれに近づいて行っているのがわかる


もっともまだぎこちなかったり、少し反応が遅れたりすることもあるが、十分に日常を送れるだけの動作はこなせているようだった


「なんていうか、もはや狂気の沙汰ね、あの人らしいと言えばらしいけどさ」


「冗談じゃないっての、もうあれ言われたとき生きた心地がしなかったよ・・・」


静希の心境を考えると同情してしまうが、雪奈の気持ちもわからないでもないのだ


心配するからこそ、無茶をする静希に対し、これ以上無茶をしてほしくない、だから行動の足かせとして自分の左腕を賭けた


理に適ってはいる、だがそれを実際にできるかと言われると、自分には絶対にできない芸当だ


「そういえばあんたのご両親にはその腕のこと伝えたの?」


「俺は知らん、雪姉が伝えたらしいけど、そのあと来た電話でも特に変わった様子はなかったし・・・伝えてないんじゃないかとすら思える」


退院したその日にかかってきた両親からの電話では特に変わった様子はなく、今どこにいるだの、こっちの料理は特徴的だだの、怪我のないように気を付けるんだだの、いつものような事柄を言ってそのまま電話を切ってしまった


心配されているのかどうなのか、微妙なところである


「なぁ、お前の腕って今どこにあるんだ?病院か?」


腕というのは千切れて落ちたほうの腕のことだ、静希に返却されたがあれが今どこにあるのか陽太たちにとって定かではない


「あれは病院でなんか腐らないように処置した後俺んちで保管してあるぞ、定期的に処置しないと腐るらしいからどうしようか困ってるんだけどな・・・」


「あー・・・その話後にしてほしかったわ・・・」


まさに食事中にする話ではないが、これはかなり深刻な問題だ


実際に、腕を保存しておくこと自体は不可能ではない


冷凍保存や防腐剤をつけて保管することだってできるだろうが、それをずっと続けるとなるとかなり面倒だ


左腕に特別な何かがあるのであれば保存するだけの価値があるかもしれないが、あの腕はただの腕、特に力があるわけでもなく、保存しておくことに意味はないように思えるのだ


一度オルビアの能力『保存』を使ってもらうことも考えたが、その結果あの腕がどうなるかわかったものではないために断念したのだ


もしあの腕が霊装やら特殊な道具などになった日には末代までバカにされそうである


「あぁそうだ、明利、頼まれてたものできたわよ」


「本当!?ありがとう!」


思い出したように鏡花がカバンの中から取り出したのはあの時壊れた静希の腕時計だった


一度明利が回収し、鏡花に修理してもらうように頼んでいたのだ


「一応、元の状態に戻したつもりよ、ちゃんと動くことも確認済み」


「本当にありがとう・・・静希君、はい!」


突然渡された腕時計に静希は一瞬戸惑ってしまう


そういえば静希の家にある腕には時計がついていなかった、明利が回収して直してもらっていたのかと納得して礼を言いながら受け取る


この腕時計は明利からの誕生日プレゼントなのだ、大事にしなくては罰が当たるというものである


だがどちらの腕につけたものだろうか


左腕につける気はしないために、あえて右手につけることにした


右利きの静希からしたら捻くれ者ととられそうだが、やはり生身の腕につけていたいというのが信条なのだ


自動巻きの時計はしっかりと秒針を進め続けている


「すごいな・・・これ直すの大変だったんじゃないか?」


「まぁそれなりに、っていってもお店で同じような時計の構造理解して、その機構を真似ただけだけどね」


衝撃と熱でフレームが歪み、内部の歯車などが破損していた状態からほぼ新品状態まで戻った時計、これほどの修繕も鏡花にとってはそれなり以下の手間でできてしまうのだ


「ありがとな、明利、鏡花・・・今度は壊さないようにするよ」


「うん、大事にしてね」


「今度壊したらお金とるからね、気をつけなさいよ」


苦笑しながら静希は腕の時計を少し眺めて軽く揺らす


腕時計は健在だったころとなにも変わらず、違う腕で時間を刻み続けていた


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