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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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剣で伝わる

その夜、静希は日課の剣術指南をいつものように受けていた


マンションの屋上に響く金属音がその空間だけ非日常であることを告げている


連続で繰り出される雪奈の剣撃に対して静希はできる限り適切な防御をしているつもりだった


だがどうしてもワンテンポ左腕の反応が鈍くなる


今まで反射的に、それでいて理想的な動きで防御できていたが、新しい左腕になったことでどうしても反応が遅れてしまうのだ


剣の隙間から喉元めがけ剣を添えられたことで訓練の一時的終了を強制的に告げられた


「これで十八回目・・・やっぱり死にやすくなってるね・・・」


「まぁ・・・まだこいつになってから日が浅いからな」


せっかく体に染みついてきた防御の動きに左腕の動きがついていかない


雪奈ほどの相手では少し反応が遅れるだけで取り返しのつかない事態となってしまう


「いっそさぁ、その左腕でも防御したら?結構硬いんだしさ」


「それでもいいんだけど、まずは剣での防御を万全にしたいんだよ、そうすりゃ腕での防御含めればもう少し楽になるだろ?」


初めから腕での防御を前提に入れているのといないのとでは全く意味合いが変わってくる


相手の攻撃を防御するのに剣のみを使っていれば、防御手段が剣しかないのではないかという風に誤認させることができる


だが左腕で防御するのを当たり前にしてしまっては、この左腕に何か仕込んでいるか、あるいは左腕自体が特殊であるかという風に勘ぐられてしまう


できる限り情報を伏せておきたい静希としてはこの違いはかなり大きい


それこそ急に腕で防御して、硬質化の能力であると誤認してくれれば儲けものなのだ


「それでも最初よりずいぶんましになってるだろ?」


「そりゃね、でも以前よりだいぶ遅いよ?コンマ二秒くらい遅れてる」


「コンマ二秒か・・・結構遅れてるな」


一秒未満の遅れとはいえ、戦闘においてはその時間はかなり長い


それが中距離戦であればまだフォローできるのだろうが、接近戦での時間はかなり貴重だ


相手が鈍重であれば問題はないが、雪奈のような速度に物を言わせるタイプとなると手のつけようがなくなる


それこそ気づいたらやられるレベルだ


「左手に武器仕込んでもらったんでしょ?その腕みて、なんて言ってた?」


「心臓に悪いから心配かけるなってさ」


「なるほどね、らしいっちゃらしいか」


二人のよく知る老獪な鍛冶師の姿を思い浮かべて再び剣を握る二人


静希はすでに何か吹っ切れた様子だったが、雪奈は少しだけ後悔していた


自分が剣を教えたから、静希はこんなことになってしまったのではないだろうか


剣を知らなければ、静希が前に出ようなどとは思わなかったのではないだろうか


オルビアを手に入れてから雪奈は徹底的に剣での防御法を指導してきたつもりだ


自分と似た能力を持っている相手が敵となっても、すぐに死ぬようなことが無いように


仮に接近戦に持ち込まれても問題なく対処できるように


だがその結果、静希は左腕を失った


実際その場を見たわけではない


鏡花の話を聞く限り、最前線に出ていたというわけでもない


だが自分が剣を教えなければもっと警戒して後方に行っていたのではないか、そうも思えてしまうのだ


前衛の真似事はしないように教えてきたつもりだった、だが結果がこれだ


自分は間違っていたのではないかとさえ思えてしまう


静希の剣を軽く払ってその肩に剣の腹を当てながら雪奈はため息をついた


「十九回目・・・今日はもう休む?」


「いや・・・痛みやらはすぐに治まるからまだ平気だ・・・霊装様様だな」


不幸中の幸いだったのは静希の左腕の代わりがすぐに見つかったことだろう


鏡花から静希が左腕がもげて入院しているということを聞いたときは気を失いそうだった


そのあと軽く事情を聞いて、特殊な霊装を装備することで代替しているということを聞いてもやはり衝撃は拭えない


特に、本当にたまにだが、左腕を取り外してメンテナンスのようなことをやっているところに出くわすと頭を殴られたような衝撃が走る


幼い頃から一緒にいた弟分の左腕が無くなっているところなど、誰が見たいだろうか


今こうして肌色のスキンをつけて立っているところを見ると、変わったところは一切見られない、むしろ健康体のようにも見える


だが剣を合わせることで理解してしまうのだ


時折重くなる剣撃、そして遅くなる反応


この左腕は本当に静希の腕ではないのだなと、わかってしまうのだ


「・・・なんか変なこと考えてるだろ?」


「へ?いやいや、訓練中に考え事をするほど私は耄碌してないよ」


もちろん嘘だった、本当は迷い続けている、そして後悔し続けている


言葉と態度で繕っても、やはり付き合いの長い静希にはわかるのだろう、短くため息をついて雪奈の頭を右手で掴んで撫でまわす


「ったく・・・普段おちゃらけてるくせに変なところで頭固いんだからなぁ」


「あぁぁぁぁあ?静、なにすんのさ!?」


抵抗しようにも腕の長さではかなわないため、そして撫でられることも嫌いではないためになすがままになってしまう


頭をなで続ける静希の右手から伝わる体温を感じながら雪奈はどうしたものかわからなくなってしまっていた


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