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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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会う訳、名の訳

明利の言葉に城島は目を見開いた


その言葉が信じられないというよりも、信じたくないという方が正しいかもしれない


何よりその言葉が明利から出たことに驚いているようだった


だが一瞬静希に視線を向けて納得してしまったようで、額に手を当てて大きくため息をついた


「そうか・・・調べた結果・・・行き着いたか・・・」


「はい・・・どうにかして会うことはできませんか?」


静希の腕を治療するために、どうにかできないものかと明利なりに調べた結果たどり着いたのが、以前自分たちがかかわった事件の原因ともなった『神の手』だったのだ


明利の調べた内容には、すでに治療不可能なレベルの難病を数分で治した、無くなった足を再生させた、本人の希望通りの整形外科を行ったなどなど、あげればきりがないほどの医学的功績を上げている人物だった


「確かに、奴の能力ならこいつの腕を治すこともできるかもしれんが・・・」


明利が城島に頼んだのは、彼女が神の手との接触経験があるからである


と言っても、彼女が治療を受けたのではなく、彼女が捕まえたというあまりいい接触状況ではなかったが


城島自身、生徒と神の手を接触させることに強い抵抗があった


並の犯罪者ならまだしも、あれはもはや自分たちと同じ人間とするのも憚られるような存在だ


ただ手っ取り早く怪我を治したい程度の理由であれば突っぱねることもできたのだろうが、静希の左腕は、本当に治療不可能な状況、それこそ神の手でなければ治すこともできないのではないかと思えるほどに


だからこそ迷っていた


城島だって静希の腕が治るのであればそれがいいに決まっている


だがその方法が問題なのだ


明利が出した提案は、考えられる中での最善で最悪の治療法なのだ


「あの先生、ついでに私からもいいですか?」


「なんだ?お前は別件なのか?」


鏡花の言葉に城島は眉をひそめた


てっきり明利と同じく静希の治療に関しての事柄だと思っていただけに次は何を言われるのかわかったものではない


「もしその『神の手』とやらの面会が可能な場合でいいんですけど、私と陽太で刑務所に入っている江本君と面会させてほしいんです」


「江本・・・あぁお前たちが苦戦した中坊か・・・何故だ?」


「陽太の能力の訓練のためです」


迷うことなく告げられた言葉に城島は頭を抱えてしまう


かたや治療の為に、かたや訓練のために


刑務所はそんなに気軽に行ける場所でもない、それに何より彼らが行こうとしているのは能力者専用の刑務所だ


ただの犯罪者に遭う事すら忌避するべきだというのに、なぜわざわざ能力者の犯罪者に会いに行こうとするのか


内容が内容だけに仕方がないということもあるかもしれないが、城島からすれば理解に苦しむ展開だった


「幹原と五十嵐の方はまだわかる、だが清水と響の方は難しいぞ、個人の訓練のために刑務所に学生を入れるなどと」


「だったら、彼の反省を促すための代替行為として認められませんか?彼もまだ学生です、私たちの訓練に協力する形で刑期を短くするということはできないでしょうか?」


鏡花の言っているのは要するに、外部の人間への協力を行う代わりに自分の罪を少なくするということだ


大犯罪者ならまだしも、江本はただ能力を使って暴力をふるい、脱走したというだけ


教師としても親族としても、そして委員会としても長く収容していたい人物ではないのだ


確かに可能かもしれない


だが可能だからと言ってそうやすやすと許可できるほど簡単な問題ではない


どちらの言い分も理解できるだけに断り難い


だからと言って快諾できるほど簡単なことでもない


「どうしてお前たちはこう面倒なことばかり持ちかけるのか・・・」


「ご・・・ごめんなさい・・・」


教師としては、生徒に頼られるというのは嬉しくもある、だが毎回毎回面倒が持ちかけられてはさすがに嫌気もさしてくる


だが内容が内容だ、無碍にするわけにもいかない


城島は大きくため息をついていくつか資料を眺め始める


「一応掛け合ってはみよう・・・だが可能かどうかはわからんぞ、清水と響の方はただの面会という形でなら問題ないが、訓練として接触するとなるとどうなるか・・・」


ただの面会、要するにガラス越しに会って話をするだけ


それだけなら親族や友人でもあらかじめ手続きをすれば可能だが、それでは訓練などできない、もっと広い空間での接触が理想である


「そして幹原と五十嵐の方は・・・まったくわからん・・・お前の価値を値踏みして・・・上が接触させるかどうか・・・最悪お前は委員会に借りを作ることになるかもしれん・・・そうならないように手は打つがな・・・」


「・・・お願いします」


静希は良くも悪くも悪魔の契約者だ


城島曰く委員会でその事実を知っているのはかなり限られるらしいが、ただの学生を能力者の犯罪者に面会させるということは本来不可能だ


だが静希だからこそ特例として認められる可能性はある、その分、委員会の手回しなどが必要になる可能性は十分あるということでもあるのだ


職員室を出た静希達は、僅かに肩を落としながらため息をついていた


驚きもあり、少し落胆もあった


明利が称号を獲得したというのが一番驚いたが、城島でもどうにもできないかもしれないという事実に落胆しているのだ


無論彼女だって今は一介の教育者だ、そんなに強い権力やコネがあるとも思っていない


だが今まで簡単に物事をこなしてきた彼女でもわからないという回答を貰ったことで少し不安になっていた


特に明利の表情は暗い


せっかく静希の腕を治せると思ったのに、それが叶わなくなるかもしれないという事実に精神的ショックを受けているようだった


「そういや鏡花、陽太の訓練であいつの協力がいるのか?槍とはまた別の訓練?」


先程面会を申し出ていた江本との合同訓練、はっきり言って何故そんなことをするのか不思議でならなかった


陽太の能力の訓練で江本の協力がいるとは思えなかったのだ


「あぁそれ?まぁ訓練になるかどうかはやってみなきゃわからないけどね、うまくいけばこいつの全力を引き出せるようになるわ、それこそ青い炎をコンスタントに出せるようになるかもしれない」


その言葉に期待感を抱いたのはほかでもない陽太だった


何せ今まで能力を使ってきて青い炎を出せたのは片手で数えられる程度


記憶にある中では一度しかないのだ


しかもその一回も意図的ではなく暴走という形で出せただけ


自分の力だけでは陽太は全力を出せないという最大の弱点を克服できるかもしれないのだ


陽太自身驚いているという様子を鑑みるに、どうやら鏡花は陽太にほとんど説明をしていなかったらしい


訓練をする本人がまったく事情を知らないというのはどうなんだろうか


「でもなんで今さらなんだ?もっと早く気付けばもっと楽になったかもしんないじゃんか」


「バカ、私だってもっと早く気付きたかったけどね、本当に炎の色が変化したのを見たのはこの前が初めてなのよ?本当にあるかどうかもわからない全力より制御性を優先するのは当然でしょ?」


そういわれてしまうと陽太は返す言葉もない


確かに鏡花は今まで静希達から陽太の暴走状態、特に炎が青くなった時のことは何度か耳にはさんでいる


だがそれがどの程度のものなのか、そして何がトリガーとなっているのか


実際に見るまでは頭の片隅に置いておく程度のものだった


だが前回の実習で鏡花はその姿を見た


獣のような咆哮を上げ、理性の欠片もない挙動で、ただ暴力をあたりにまき散らす陽太の姿を


感情の暴発


実月によって施された安全装置が作動し、陽太の感情が抑制されたのを見た時、そして感情が抑制しきれなくなった時のあの姿を見た時、鏡花は今回の訓練の可能性に気づいたのだ


あれがなければ一生気づかなかったかもしれない


そういう意味ではあの場で暴走してくれたことはむしろ幸運だった


「でもどうやるんだ?俺はどうすりゃいい?」


「その場になったら説明するわよ、ていうかあの子にも確認取らなきゃいけないんだし、まだできると決まったわけじゃないんだからね」


鏡花の言葉に少しだけ気持ちを正すも、陽太の高揚は抑えられない


何せずっと全開にできなかった能力を、最大限まで高められるかもしれないのだ


鏡花と出会って未だ半年、たった半年で陽太の能力はかなり進歩している


まともに操れなかった頃から見れば劇的な進歩だ


槍という武器を手に入れ、さらに全力も出せるようになるかもしれない


陽太の欠点が次々と埋まっていく、それを埋める道筋を示したのは鏡花だ


やはり鏡花は教師に向いているかもしれないと思いながら静希は苦笑いする


「ま、とりあえず今は明利の称号獲得を祝っておくか」


「わ、私なんかがもらってもいいのかな・・・って思うんだけど・・・」


「いやいや、明利はもっと自信を持ちなさいよ、明利がいなきゃ今までの実習だってずっと苦労してたんだから」


「確かにな、索敵あるとないとじゃ難易度全然違うもんな」


今回明利が取得した称号は『神勅の森』


森という限定された状況下ならかなりの効果で発揮される索敵能力、そして彼女が使った攻撃手段がこの名前の由来になっているのではないかと思われる


森はそのまま、明利の得意な地形、そして明利が使う種から連想された物


そして神勅、これは神からのお告げや、命令などを意味する言葉だ


神のお告げというべき索敵能力とでもいうべきなのだろうか


だが、静希はどちらかというと別の可能性を見ていた


ただ索敵能力を評価するならもっと適切な表現はある、だがわざわざ神勅などと言う言葉を用いるあたり、意味があるのだ


あの時城島が見せたカリクの種


カリクは宿木の一種だ、考えられるとしたら神を殺したヤドリギの枝


あの攻撃手段からそれを連想したのではないかという考えに静希はたどり着いていた


対して鏡花は、あの時の明利の精神状況、呆然自失の状態を神からの命令でも受けたかのようである、という風に受け取ったのかもしれないという考えだった


捉えかた次第でどうとでも


そう言ってしまえばそこまでだ


だが何か意味があるような気がしてならなかった


日曜日なので複数まとめて投稿


深夜に上げるのは久しぶりかな


これからもお楽しみいただければ幸いです

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