契約
「何でお前いるんだよ!静希が収納したはずじゃ」
「人間の収納能力で悪魔を完全にとらえられるなら苦労しないわ、びっくりしたのは事実だけど」
そういって依然座ったままの静希に近づき、じっと顔を見つめる
「くっそ、まだやるってのか!?」
陽太が炎を滾らせ、班員も教員も戦闘態勢を取ろうとする中、静希とメフィストフェレスだけ互いだけを見ていた、敵意も殺意もなく
そして悪魔の顔が満面の笑みになる
「いいえ、私の負けよ」
その言葉に全員が面食らった
「それに今すっごく気分いいの、何十年かぶりにお風呂に入ったような爽快感!甘い物をたらふく食べたときみたいな充実感!身体の奥まで満たされるこの満足感!何に変えても得難いこの感覚!」
身もだえする悪魔の姿に全員が唖然とする
例えが妙に安っぽいのは悪魔として正しい姿なのだろうかと疑問に思うが嬉しそうにする悪魔は感情を止める仕草すら見せない
「シズキあなたの能力のこと教えて!あなたすごい能力持ってるじゃない!」
「はぁ!?何言ってるんだお前!?」
すっかり態度を変えて静希に接近する悪魔に静希は後ずさりながら反論する
「大体俺の能力は収納系の中じゃ相当弱い分類だぞ、五百グラムしか入れられないのにどこがすごい能力だよ!」
「違うわよ、シズキがすごいのはそこじゃなくて」
「おいちょっとまて悪魔、つまりお前にはもう戦闘の意志はないってことでいいのか?」
「悪魔って呼ばないで、メフィストフェレスって名前があるんだから、シズキはメフィって呼んでもいいわよ?」
「やめ、やめろっての!・・・あれ・・・?」
思い切り接近してくるメフィの肩を掴もうとして、本当に掴んでしまう
「なんで触れるんだ?さっきまで全然触れなかったのに」
先ほどの戦闘ではまったく触れることさえかなわなかったのに今はあっさり触れている
陽太と鏡花が恐る恐る触ってみても問題なく触れられる
「今は透過は使ってないから、自由に触っていいわよ、シズキ?」
さすがに女の色香を感じたのか顔を赤くする静希の前に明利が割って入る
「だ、ダメ!静希君は、あの、けが人だからダメ!」
「あら?けが人じゃなきゃいいの?」
「え・・・あ・・・うぅう、けが人じゃなくてもダメ!」
「可愛いぃぃぃい何この子!?」
明利に抱きつき撫でくり回すメフィに呆れながら城島は咳払いする
先ほど優先して殺そうとしたとは思えない対応の変化っぷりだ
よもや別人であったとしても今なら信じられる勢いである
「えと、メフィストフェレス、貴女はすでに戦闘の意志はない、我々と争う気もない、それでいいのか?」
「ええ、すっかり気分がよくなっちゃった、シズキのおかげよ?」
「やあぁぁめええてぇえぇえ」
明利の悲鳴の中、城島は続ける
気分がいいのは明利という愛玩的なものが見つかったからの間違いではないのだろうか
「まず、お前はなぜあの少女にとり憑いていた?そこを話してくれ」
「さっきもいったけど、私はあの子に召喚されたのよ?何の契約だったかは知らないけどね、そしたらこっちに来た途端にあの子の中に入っちゃうんだもんびっくりしたわよ」
もう災難と付け加えて、それでもなお明利をいじるのをやめない
「そしたらあの子、私を入れるだけのキャパシティがなかったのね、暴走起こして能力暴発させて里から逃げたの、まぁ私もこっちはすごい久しぶりだから見れるからいっかとおもってそのままあの子の中にいたってこと」
そしたらシズキ達にあったのよと足してなお明利を撫で続ける、すでに明利は愛でられることを諦めたのかなすがままになっている
「つまり、エルフの連中が何か仕込んだ、というわけか」
「たぶんね、召喚の陣はよく見なかったけど、普通の精霊呼び出しで私は召喚されないわ、何かしたんでしょうね」
聞きたいことはそれだけ?と問いながら今度は明利を自分の腕の中に収める、すっかり愛玩人形代わりだ
「おいメフィスト「メフィって呼んで」・・・メフィ、そろそろ明利がギブアップだ、離してやってくれ」
「あら、ごめんごめん」
ようやく解放された明利はよろよろになりながら静希にすがりつく
「し、しずぎぐぅぅうん・・・」
「よしよし、つらかったなー」
撫でてやると明利は安心したのか静希の膝にすがりつく
ここまでいいようにされるのは雪奈でもさすがにない、明利がここまで憔悴しているのも珍しい、カメラで撮影すればよかったと後々後悔することになるのは別の話である
「時にメフィストフェレス、貴女はこれからどうする気だ?あの少女にまたとりつくのか?」
「ええ?いやよそんなの、私はシズキと一緒にいるわ!」
「「「「はぁ!?」」」」
数人の大きな反応にメフィはなによと微妙に不満そうだった
「何考えてるんだお前!さっきまで殺し合いしてたくせにどんな心変わりした!?」
「いいじゃない、昨日の敵は今日の友、五分前の敵だってこれからは恋仲になるかもしれないわよ?」
「ダメダメ絶対だめ!」
「おいおい静希こりゃ一体全体どういうことよ」
「もう展開についていけないわ・・・後でまとめて話して頂戴」
班員の反応は四種四様、静希は疑問に持ち明利はまったく別なところを拒否し陽太は状況を理解できず鏡花は理解を諦めて逃避に走っている
だがそれは二年生組にとっても教員組にとっても予想の範囲外だったらしく開いた口がふさがらなさそうだった
「とにかく、もう一回そのトランプの中に入れて、じゃないとまたお腹さしちゃうわよ?」
もはや脅迫だ、すでにお願いではない
だが逆らったらきっと機嫌を損ねる
「わかったよ、スペードのQでいいんだな?」
「いいじゃない女王様みたいで、あ、ちょっと待って」
「あ?んん!?」
突然メフィの顔が近付き、唇を重ねられた
全員が驚愕に目を疑い、明利はショックで気絶しかけていた
「契約終了よ、光栄に思うことね、私と対等契約をかわせるんだから」
「っ!?あ・・・え・・・はぁ!?」
言葉が出てこない、まったく頭が働かない何がどうなっているのかさっぱり分からない
何がどうなっているのか思考が止まっているせいで現状の確認ができない
敵対していたはずの悪魔に突然気に入られ突然口付けをされ契約だのなんだの言われて混乱している
「早く入れてよ、それとももう一回キスしたいの?」
「入ってろ!」
静希が能力を発動すると今度は何の抵抗もなくメフィはカードの中におさまっていく




