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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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腕の中に

女子たちがそんな会話をしている中、人外の中の問題児と優等生を一度に開放したことで少し肩の荷が軽くなった静希はある場所に向かっていた


小さいころからお世話になっているが、来るのは久しぶりかもしれない


「こんちはー、源爺いるか?」


店の中に入ると静希の鼻孔を鉄臭いにおいが包む


独特の金物くささと、それと同時に火の匂いがする、懐かしい香りに少しほおが緩んだ


ここは大峡刃物店、静希のナイフや雪奈の刀などを手掛けた鍛冶屋の経営する店だった


店内には大量の刃物、と言っても表にあるのは包丁やハサミなど、一般家庭でも使う普通の刃物だ


「あぁん!?なんだ静坊か、なんか用か!?」


ひときわ大きな声で奥から出てきたのは白髪の髪とひげを蓄えた筋肉質な男性


名を大峡源蔵、幼いころ雪奈の能力が発覚してから彼女の武器を作り続けている六十近い職人である


歳が五十そこらの頃から髪もひげも真っ白だったということで、昔から静希や雪奈からは爺さん扱いされていた


雪奈と一緒に行動することが多かった静希とも自然と仲が良くなり、格安でナイフなどを作ってくれる御仁である


「ちょっと作ってもらいたいものがあってさ、最近息子さんどうよ?」


「あぁもうまどろっこしくて見てられないな、もう少し大胆になれば仕事を任せてもいいんだがな」


すでに後継者として息子への指導を本格的に始めている彼からすれば、やはりまだ未熟な息子の仕事はもどかしいものがあるのだろう、それでもその表情は嬉しそうに見える


仕事道具の鎚や鉋などをそこいらに置いてとりあえずカウンターの中にあるカタログを開く


その中にはありとあらゆる武器の絵が描かれていた


小型ナイフから槍、鎌、剣に雪奈の切り札である大剣まで様々だった

「それで?前みたくナイフなくしやがったのか?今度は何を作りゃいいんだ?刀か?確か雪嬢ちゃんから指導受けてんだっけか?」


どうやら雪奈から多少の事情は聞いているようだが、今回の本題はそんな簡単なものではない


静希はとりあえず自分の左腕につけていた肌のスキンを外してカウンターの上に自分の左腕の霊装を乗せて源蔵に見せる


最初、腕なんて見せて何をしているのだと思った源蔵だったが、その腕が銀に輝いているのを確認して目を見開いて驚いた


「お、おいお前さんこれどうした!?甲冑・・・?いや義手か?」


何度か叩いてから聞こえる空洞音に源蔵の表情が険しくなっていく


それもそうだ、昔から知っている少年の左腕がいつの間にか義手になったなんてどう信じられるだろうか


小型の鎚でそれを叩いて音などを確認し、その腕が完全に人のそれではないことを確信し愕然としていた


「今日はこの腕に仕込める武器を作ってもらいに来たんだ・・・お願いできる?」


その言葉に源蔵は額に手を当てて項垂れてしまう


静希の左腕が無くなっているという事実が未だ受け入れられないようで、歯を食いしばって怒鳴りたいのを我慢しているようだった


「・・・なんで・・・こんなざまになってる・・・?」


「・・・ちょっと実習でミスってね・・・」


ミスった、そんな軽い言葉で済ませられるほど静希が失ったものは軽くない


一歩間違えれば命もなくなっていただろう状況だったのだ、言葉にできるほどあの体験は簡単じゃない


だが、一歩間違えれば死ぬのは実習では当たり前だ、そういう授業や指導を自分たちは受けているのだから


「雪嬢ちゃんは何と言っていた?」


「・・・心配させるなって・・・そういわれたよ」


「嬢ちゃんにしては抑えたほうだな・・・あの子も大人になったという事か・・・」


源蔵の声は今にも爆発しそうなほどに震えている


怒りたいことはたくさんあるだろう、言いたいことも聞きたいことも山ほどあるだろう


だが目の前にいる静希が落ち着き払っているところを、そしてこの腕に見合う武器を作りに来たという時点でもはや怒っても問いただしてもどうにもならないのだということに気づき、それ以上何も言えなくなってしまっていた


「仕事場に行くぞ、話はそれからだ・・・武彦!今日は店じまいだ!あとは任せるぞ!」


奥の方に案内される途中で恐らくは帳簿をつけていたであろう息子に怒鳴り散らすと、仕事中だった彼はあわただしくこちらに向かってきた


「はぁ!?なに言ってんだよ親父!まだ昼だぞ!」


「上客だ、今日はもう仕事にならん、表の客の相手はお前がやれ」


そういいながら静希を引き連れている源蔵の姿を見て状況を把握したのか、静希君いらっしゃいなどとのんきなことを言いながら表へと駆け出して行った


源蔵と違って温和な性格の彼が後を継げるのか少し心配になる一コマである

この刃物店の仕事場は店の奥を越えた先の離れにあった


鉄を溶かせるだけの溶鉱炉、そして溶けた鉄を鍛えることのできるだけの設備


一見すればそれは倉庫のようにも見えなくない、事実そこには雪奈の使う武器がいくつか保管されている


人間の身ではほとんど持ち上げることもできないために重機にも似た機械を用いて動かすため、普段はここに置かれているのだ


以前雪奈がザリガニを討伐するときに使った大剣やそのほかの大型の武具、それこそ雪奈が注文したものもあれば、源蔵が趣味で作っているものもある


仕事道具を整理しながら、源蔵は横目で静希の左腕を見た


「その腕・・・取り外しはできるのか?」


「あ・・・あぁ、肩の根元部分は外せないけど、それ以外は外せるよ」


肉体と霊装の肩の装甲が融合してしまっている部分、ここは静希の意志でも外すことができない


だがそこから先であれば静希の意志でいつでも着脱可能だ


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