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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」

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女子会(?)

「で・・・キスしただけなわけ?」


九月ももう終わろうという中、鏡花は眉間にしわを寄せて目の前の小さな同級生幹原明利に詰問していた


先日入院していた静希と晴れて交際を始めてすでに数日が経過している


静希も無事退院し、城島のスペシャルメニューという訓練という名の拷問もなんとか超えて、ようやくまともな生活に戻れるかなと思った時にいろいろと聞くことにしたのだ


入院中に交際を伝えられたことで、陽太も鏡花も、もちろん雪奈もそれを祝福した


そして高校生の男女なのだからそれなりの関係を結んでいると思ったので後学のためにいろいろと聞こうと思い、自らの家に招待したのだが


「うん・・・その・・・はい・・・」


「はぁ・・・長年の願いかなったっていうのにこの体たらく・・・あんたたちは一体何やってるのよ・・・今までとなんも変わってないじゃないの」


鏡花のセリフに返す言葉もないのか、明利は小さくなり続けている

そしてその場に現れるもう二つの影に鏡花は目をやる


そこにいるのはメフィとオルビアだ


静希の家の生活を知るうえで欠かせない人物、いや人外として静希からレンタルしてきたのである


本人曰く、ケーキ四個で手を打ったらしい


オルビアは私服を持ち、メフィは頭と目を隠せばまだ普通の女性に見えるために連れてくるのにさほど苦労はしなかった


変換の能力を使って生地から服を作ったりの手間はかかったが、必要経費というものだ


家に入るとき、鏡花の家にいる犬がかなり怯えてしまっていたのが印象的だった


本当に動物は悪魔を本能から怯えるようだった、今度お詫びとして少し高いご飯を買ってきてあげようと思ったのは別の話である


「二人も少しは気を使ってるのよね?付き合いたてのカップルの邪魔とかしてないでしょうね?」


「とんでもないわよ、むしろ二人の空間を演出するために結構頑張ってるのに・・・ねぇ・・・」


メフィの視線が明利に向かうと、明利の体はさらに小さくなってしまう


「私どもも、マスターと明利様の関係をよくするために度々姿を隠しているのですが・・・その・・・マスターがそれらしい行動をとろうとする度に・・・」


オルビアの視線は再び明利の元へと向かう、さらに小さくなる明利を見て鏡花は大きくため息をついた


同居人である人物がここまで協力的になっていて、なおかつ静希もその気があるというのに肝心の明利がそれを避けていては何もかも始まらない


「あんたさぁ、せっかく結ばれたんだからもっとべたべたしたいとかイチャイチャしたいとか思わないの?」


「お、思うよ?思うんだけど・・・思うだけで・・・」


明利の言葉に今度は人外二人がため息をつく


どうやらこの二人から見ても明利の態度はやきもきするものがあるらしい


見ていてもどかしいという気持ちだろうか、ずっと静希を見ていた二人なだけに、恋人ができたことで少し良い影響があればと気を利かせているのにこの体たらく


「そう考えるとね・・・雪奈さんに・・・悪いような気がして・・・」


「・・・あー・・・なるほどね、変に遠慮しちゃうと」


幼馴染の中で静希と一番付き合いが長いのは雪奈だ、明利と静希のことを応援しているような節はあるが、同時に静希のことを好いているようにも感じる


鏡花から見ても雪奈の静希に対する態度はただの幼馴染のそれではないと思えてならない


それ故に明利も多少思うところがあるのだろう


「でも明利?たとえ雪奈さんが恋敵になっても、あんたがしっかりしないと静希もとられちゃうわよ?ちゃんと手綱握っておかなきゃ」


「う・・・うん・・・」


明利としても早く静希と結ばれたいという気持ちはあるようだが、羞恥と遠慮と一種の罪悪感から最後の一歩を踏み出せずにいるようだった


こうなってしまうと明利の方からアプローチするのは難しいのではないかとさえ思えてしまう


「そういえば前にさ、静希に性欲があるのかとか、ちゃんと機能するのかとか話したことがあるんだけどさ、そのあたりは大丈夫なの?」


それは山崎の家で何とはなしに話していた内容だ、明利と雪奈が半ば暴走していたのを思い出すが、今回はそこが本題ではない


オルビアは鏡花の言葉に少し返答しかねているようだった


主の痴態を晒すわけにはいかないという忠誠心だろうか、だがそんなものは完全に無視してメフィは記憶をあさりだす


「一応普通の男の子並に性欲はあると思うわよ?たまに邪薙とかが気を利かせて一人にさせてるみたいだし、処理くらいはしてるんじゃない?」


同じ男としてそれなりに理解はあるのか、あの家で唯一男の人外として多少のフォローはしているようだ


もっともあの姿で男神と言われてもあまり説得力はない、どちらかというと狗神である


「せっかく静希がやる気出してるのにあんたがへたれてたらそのうち愛想尽かされるわよ?不純異性交遊を助長するつもりはないけど、最低限相手してあげなさい」


「・・・はい・・・頑張ります・・・」


こうして説教していると自分に妹か何かができたような錯覚を受ける中、鏡花は明利が一緒にいることが多くなった静希の事を思い出していた


前回の実習のせいで左腕を失った静希、霊装が左腕の代わりをしているとはいえ無事とはいい難い


病院でも特に異常もなかったし、本人曰く日常生活に支障はないようなことを言っていた


だからこそ気になるのだ、まったく問題ないはずがないのだ、何かが変わるはずなのに、何も変わらないように過ごしている静希と明利に少し、いや強い違和感を覚えた


「ねぇ、静希の左腕はどうなの?」


鏡花の言葉に、先程まで小さくうつむいていた明利が一瞬止まる


そして傍にいた人外たちも複雑そうな表情をしていた


どうなの?というあいまいな質問に、答えられるだけの内容は山ほどある


だがどう答えたものか、測りかねているようだった、何せ当の本人はここにはいない


特に彼を守っているメフィをはじめとする人外たちは複雑だ


自分に非があると思っている節が幾何かはあるためにどう答えたらいいのか、そしてどう表現するべきなのか迷ってしまうのだ


「病院の検査では・・・左腕は二度と元には戻らないだろうって・・・」


「・・・そう・・・それは今の医学ではってこと?」


鏡花の言葉に明利は首を横に振る


現在の医学はかなり発達している


それこそ千切れた腕くらいなら多少時間が経っていても元に戻すことはできることもある


それに能力者の医師がいれば成功率の低い施術でも成功させることができる


それでも静希の腕は元には戻らない


「静希君の左腕は上腕まで、でも今静希君は肩口までしか肉と骨がないの・・・霊装の装備のためにその部分が無くなってて、肩部分は霊装と半分くらい融合しちゃってるんだって」


「融合って・・・それじゃ取り外すこともできないってこと・・・か・・・」


静希の払った代価は軽くない


万が一腕を元に戻せるかもしれないという可能性をふいにしてまで手に入れた霊装だ


そしてそれには腕をあきらめただけの価値はある、それは鏡花も、そして明利も分かっている


だが、やはり五体満足でいてほしかったのだ


「メフィ、オルビア、あんたたちの方では何とかできないの?悪魔的な力とかさ、特殊な能力とかで」


医学、人間の力で無理でも人外の力なら


そう思ったのだが、二人の人外は明利と同じように首を横に振った


「悪魔だからってなんでもできる訳じゃないのよ?独立させた存在にはできるかもしれないけど、元に戻すことはできないわ」


それは死体となったフィアに行った動作と同じ、腕を使い魔にするということだ


自分の腕を使い魔にするというのは非常に妙な感じがするだろうが、できないわけではない


メフィの力を使ってその体細胞を使い魔用に作り替える、その程度はできるかもしれない、メフィ自身千切れた腕を使い魔にするなどと言う経験がないためにやってみないとわからないが、それはもはや静希の腕とは言えなくなる


それに明利も言ったが、接合するにしても肉が足りないのだ、無理やりくっつけても長さは異なるし強度も落ちる、それでは元通りとは言えない


「私の能力も、あくまで保存です、ある条件を保ち続けるというだけであって復元できるような都合のよいものではありません・・・」


「・・・八方塞がり・・・かぁ・・・」


オルビアの能力は保存、一定条件を保持する代わりに何かしらの効果を発現する


彼女の場合それが霊装化する事であったために意識を保持しているというだけで、彼女自身が特別な能力を持っているというわけではないのだ


静希が選択したことを周りがとやかく言っても仕方がないが、それでも気になるものは気になる


学校などでは再び村端からもらった肌のスキンをつけて目立たないようにしているが、腕がいびつに変形しているようにも見える


これから冬服になればそれも気にならなくなるだろう


だからと言ってあのままでいいということはないのだ


「一つだけ・・・あるんだ」


「あるって・・・なにが?」


明利の言葉に、その場にいた全員が耳を傾けた


ある、それは恐らく鏡花もメフィもオルビアも勘付いている


「静希君の腕を元に戻す方法・・・まだ絶対とは言えないけど」


「・・・それ本当?静希にそれ話したの?」


明利はまだ静希には伝えていないらしく、首を横に振った


医学で何ともならない物を、何とかする方法


明利もあまり自信がないらしく少し迷っている様子でもあった


何よりぬか喜びさせないために静希には伝えていないらしい


「それってどんな方法?私たちでもなんか手伝いできる?」


「えっと・・・城島先生に幾つかお願いしなきゃいけないんだけど・・・その時の交渉のお手伝いとか・・・かな・・・」


どうやら明利の案は自分たちで何とかするのではなく、誰かを紹介してもらうという類の物らしい


自分たちで何とかするより何倍も確実かもしれないが、他力本願と言われればそこまでだ


城島が許可を出すか、それが一番のネックでもある


「でも先生にお願いってことは、先生の知り合いなの?」


「うん・・・たぶん・・・というか十中八九知ってると思う」


明利の言葉は強い、今度は確信があるようで、自信をもって言葉を出した


一体どんな人物なのか、医学に精通した能力者だろうか


だとしたら明利が発見できたのも納得である


明利は医学や生物学方面の知識は豊富だ、多く論文を読んだり、学習したりとその知識の蓄積に余念がない


その過程で静希の腕を元に戻せる可能性のある人物を引き当てたのだろう


いや、もしかしたら静希の腕を元に戻すためにいろいろ調べていたのかもしれない


恋人にここまで想われて静希は幸せ者だなと思いながら鏡花は少し安心した


霊装を外すことは少し惜しいかもしれないが、元の腕に戻るのであればそれほど良いことはない


不便さを味わうよりも今までの腕に戻ったほうがいいに決まっているのだ


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


そして今回から十四話スタートです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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