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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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病室での

「それじゃ静、しっかり療養するんだよ、おじさんおばさんには私から言っておくから」


静希の無事を確認し、軽く話した後で雪奈たちは部屋を出ようと支度をする


それに従って鏡花と陽太も出ていこうとすると、途中で鏡花が停止した


「そうだ忘れてた、静希、先生からあんたへ伝言」


「伝言?」


城島にしては珍しいと思ったが、今静希の携帯は壊れている


いるかわからない明利に告げるよりも班長である鏡花に伝えたほうが確実だと思ったのだろう


「お前が退院したら班全員でみっちり補習してやるから覚悟しろ、だってさ」


「うへぇ・・・退院したくなくなったよ」


その返答にバカ言ってないでさっさと退院しなさいという返事を投げられて、静希は辟易してしまう


このまま退屈な入院生活をするのも億劫だが、退院したら城島特製のスペシャルメニューだ、どっちも嫌な状況に静希は項垂れてしまう


以前中学生相手に不覚を取った時であのレベルの補習だった、今回は実習で命令無視に危険行動


これだけで十分にやばいレベルの訓練を受けさせられることがすぐにわかってしまう


考えるだけで頭が痛くなってくる状況に、静希は頭を抱えるしかなかった


もっとも、その苦悩は自分だけではなく班全員が共有することになるわけだが


三人が帰ったことでその場には静希と明利だけが残されることになる


雑談をしたり、軽く遊んだりして時間を潰していたのだが、その中で明利が急に黙ってしまう


先程雪奈に言われた言葉を意識しているのだ


言わなくてはいけない、言いたいこと、伝えたいこと


またこんなことが無いとも言い切れない、幸か不幸か、静希は奇妙な事件に巻き込まれる


こんな生活をしていたら、いつ死んでもおかしくない


言う必要がある、言える時に


そして今、この場所には二人しかいないのだ


「明利?どうした?」


急に黙ってしまったことで少し心配になったのか、顔をのぞき込む静希を見て、明利はその顔を掴んだ


急に掴まれたことで少し動揺していたが、静希はその手が震えていることに気づいて何が起こっているのか判断しようと必死に頭を働かせていた


「静希・・・君・・・私ね・・・私・・・言いたいことがあるの・・・!」


言葉を選んでいるのか、ゆっくりと、だがしっかりと静希に向けて言葉を紡いでいく


手も声も、体も少し震えている


恐怖か、高揚か、どちらなのかは明利自身にもわからない


「静希君が・・・いなくなったと思ったとき・・・すごい・・・後悔したの・・・言っておけばよかったって・・・伝えておけばよかったって・・・!」


あの時の後悔を、悲しみを少しずつ口にする明利


静希は考えることを一時的にやめて、明利の言葉に耳を傾けることに専念することにした


あの明利が、自分に対して何か言おうとしている


それを邪魔するつもりは、静希にはないのだ


「もう・・・あんなの・・・いやだから・・・だから・・・!」


静希の顔を掴む力がわずかに強くなる


意識しているのかしていないのか、明利の小さな手は静希の顔をしっかりとつかんだまま離そうとしなかった


「私は・・・私は・・・静希君が・・・好き!」


目を見て、はっきりとそういう明利に、静希は目を丸くしていた


明利の言葉に頭が回らない


嫌われていないことはわかっていたし、静希だって明利のことが嫌いじゃない、むしろ好意的に思っている


だからといって、こんなタイミングで告白されるとは思っていなかった


考えたいのに頭が働かない


今この場で明利にどんな言葉を返せばいいのか全く分からない


静希だって明利のことは好きだ、だがその好きが友人としてか、幼馴染としてか、はたまた女性としてなのか、考えたことが無かったのだ


一緒にいるのが当たり前の状況が長すぎたせいで、そういった考えが及ばなかった、だからこそ困惑していた


明利は今も静希の言葉を待っている


いつまでも待たせるわけにはいかない、何とかちゃんとした言葉を返さなくてはと口を開こうとした瞬間、明利の目が見開く


その時、明利の頭の中はかなり混乱していた


言ったはいいのだが、この先どうしようか、まったく考えていなかったのだ


もし仮に断られたらどうしよう、仮に交際することになったとしてどうしよう


伝える、言うことが目的になってしまっていたせいで、その目的を達成した今、ようやく他のことを考えるだけの余裕が生まれたのか、明利の頭の中は史上稀に見る程の大混乱を催していた


頭の中に多くのことがぐるぐるとひしめく中、最後にたどり着いたのは先程の雪奈の言葉だった


『まぁ返事が怖かったら有無を言わさずにキスしちゃいなさい』


それは耳を傾けてはいけない残念な姉からのアドバイスだが、今の明利には天命にも思えるほど冴えた案だった


静希が口を開く瞬間、明利は自分の手に力を込めて自分の唇と静希の唇をつけた


静希は混乱していた


唐突に幼馴染から告白されて返事をどう返したらいいのかと考えていたらいきなりキスされたからである


展開が急すぎていったい何が起こっているのかさっぱりわからなかったが、原因があの時の女子だけの内緒話であることは理解できた


おそらくあの時に雪奈か鏡花辺りが入れ知恵したのだろう


そして明利は、今こうなっている


目の前で顔を真っ赤にしながら目を強く瞑り、自分にキスしている幼馴染


必死に伝えようとしたのだろう、そして彼女は勇気を出して伝えたのだ


臆病な明利がそれをするのに、どれだけ葛藤しただろうか、どれだけ苦しんだだろうか


それを理解して、静希は右腕で明利の体を抱き寄せ、キスを続ける


静希の対応を告白の返事と受け取ったのか、明利の体からは緊張が解け、唇を離し、静希に自分の体を預ける


「平気か?」


「・・・うん・・・」


今まで息を止めていたせいか、高揚しているからか、明利の息は荒い


静希の落ち着いた声が耳に届く中、その鼓動は高鳴っている


思いが通じたからなのか、顔はいつまでも熱い、血が上っているのが能力を使わなくても分かる


「驚いたぞ・・・返事する前にキスしやがって」


「う・・・ご、ごめんなさい・・・」


混乱が解けて自分がやったことを客観的に見られるようになったのか、明利は顔を真っ赤にして静希の胸に自分の顔を押し付ける


恥ずかしくて顔から火が出そうだった


だが引っ付いている明利を静希は半ば強引に引きはがす


そして両肩をやさしくつかんでしっかりと明利の顔を見る


顔を真っ赤にしてこちらを見ようとしない小さな幼馴染を、静希は愛おしく感じていた


あの時、能力者を見つけた時、明利が攻撃されそうになっている時、静希の体の震えは止まっていたのだ


ようやくそのことを思い出して、静希は実感する


目の前のこの女の子が、自分が守ってやりたいと思った、初めての女の子だったということを


そして、あの時、何よりも明利が死ぬことが一番怖かったことを


だから、言葉にした


「明利・・・俺も明利が好きだよ・・・できるならずっと一緒にいたい・・・」


そう告げると、明利は泣きそうになりながらまた静希に抱き着いてくる


実際に口にされるのと態度で表すのでは違うのか、果ては泣き始めてしまう明利をなだめながら静希は呆れて苦笑してしまう


安心したのか、嬉しかったのか泣きじゃくる明利の背中を優しくさすりながら、静希は守ることができてよかったと本当に安堵していた


その森で静希は左腕をなくした


そして新しい腕を手に入れた


森での喪失は、新しいものを引き寄せた


それが幸いか、それとも不幸かは、まだわからない


今回で十三話は終了、明日から十四話がスタートします


長い長いと言っておきながらだいたい五十回くらいで終わりましたね、それだけ複数投稿が多かったってことですが


これからもお楽しみいただければ幸いです

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