入院
「あ、あの、城島先生、この子たちも無事だったのですからどうかその辺で・・・」
体罰を超えた対応に半ば見ていられなくなったのか、部隊の隊長の後藤がフォローしようとするのだが城島の眼光でにらまれた途端にそれ以上何も言えなくなってしまい逆に謝りながらその場を離れてしまっていた
他の部隊の人間も途中までは驚きの目を向けていたのに、今は同情の目を向けている
さすがにこの状態はかわいそうだと思っているのだろうが、城島の眼光を前に何もできずにいた
軍の人間を一睨みで黙らせるなどと教師にできる芸当ではない
元特殊部隊に所属していたとはいえ城島のこの威圧感は一体何なのだろうかと思えるほどだ
ひとしきり痛みに耐えた後、城島は一班の人間全員を能力を使って引き寄せてから、静希の頭に手を置く
また殴られるのかと身を強張らせたが、痛みが走るようなことはなかった
「・・・生きていてくれて・・・何よりだ・・・あまり私を心配させるな・・・」
その言葉に、全員が目を丸くした
まさかこんな言葉をかけられると思っていなかっただけに、感動も一入だった
そして同時に、自分たちがどれだけ城島に迷惑と心配をかけたかを理解した
「・・・ご・・・ごめんなさい・・・」
「・・・わかればいい・・・もう二度とするなよ」
城島はそれだけ言って、今度は後藤の方へと向かい深々と頭を下げていた
恐らく、勝手に出ていった三人を引きもどすために部隊の人間に掛け合って捜索の準備をしてもらっていたのだろう
それを見てすぐに静希達も一緒に頭を下げに向かった
後藤も状況が状況だったためにあまり強く言えず、何より静希が生きていてよかったと言ってくれた
ひとしきり部隊の人間に謝罪を入れたところで、静希達は城島の部屋に呼び出されていた
実習の最終日、護衛対象を喪失するという状況の上での反省会のようなものだった
「まず結果から言おう・・・お前たちの護衛対象平坂は無事保護できた、少し戦闘もあったようだが、彼に怪我はない、ここはすぐに気づいた五十嵐の手柄としておこうか」
護衛対象をロストした時点で実習としては失敗の部類に入るが、平坂が無事であるという情報に全員が安堵した
「次に・・・五十嵐、左腕を見せろ」
城島の言葉に従い、静希は自分の左腕を上げて見せる
そこにあるのは甲冑にも似た銀の腕、人ならざる霊装の義手がそこにあった
「これは返しておくぞ、お前の腕だ」
明利のいた女子部屋にあったのだろう、静希の腕がくるまれた布を渡すと、静希はゆっくりその布を解いていく
そこにはわずかに焼け焦げた表皮と、もう動かなくなった腕時計をつけた静希の左腕があった
それを見て、静希はわずかに表情を曇らせた
腕が無くなったことを、今こうして眼前に突き付けられた、そのショックはやはりまだ大きい
「それで、五十嵐はこの後病院に搬送だ、その腕のこともあるからな」
「え?俺はもう無傷ですよ?」
霊装の力のおかげで細かい傷などもすぐに修復されるため、完全に静希は無傷の状態になっている
仮にいまナイフで刺されてもすぐさま修復されるだろうことは明らかだ
「それでもだバカ者、左腕がもげた生徒がいて病院に行かさない奴がいるか・・・それと幹原、お前は五十嵐の付き添いとして一緒に病院に向かえ」
「え・・・?い、いいんですか?」
状況をしっかり報告できる奴がいたほうがいいだろう、などと言っているが、城島ながらの親切心だった
静希が死んだという状況になって、最も憔悴していたのは明利だ
生気のかけらもないその姿に、城島なりに思うところがあったのだろう
「それと五十嵐・・・唯に改めて礼を言っておけ」
「あ・・・はい、それは勿論・・・」
城島が誰かの下の名前を呼ぶのは非常に新鮮だった
町崎のことも彼女は名字で呼ぶのに、村端と城島はやはりそれなりに仲が良かったのだろう
「通達は以上だ・・・後日報告書を作成して提出する事・・・なお今回の件に対してそれ相応のペナルティがあることは覚悟しろ?」
「え!?さっきの拳骨だけじゃないんすか!?」
「当たり前だバカ者・・・とびきりきつい補習を用意してやるから覚悟しろ」
そういって城島は荷物をまとめさせた静希と明利を引き連れて宿舎の前へと移動し、二人を救急車に乗せる
ようやく落ち着いてきたとはいえ、明利は未だ静希の服の裾を掴んで離さない
よほど心配だったのだろう、何か言いたいのだろう、だが何も言えずに明利は静希の近くに居続ける
「明利・・・あの・・・」
「・・・死んじゃったかと・・・思った・・・」
ようやく口を開いた明利の言葉に、静希は何も言えずに明利の顔を見る
「怖かった・・・静希君が・・・いなくなっちゃって・・・どうしたらいいか、わからなくて・・・」
口に出すたびにその時のことを思い出しているのか、明利は泣き始めてしまう
よほど怖かったのだろう、今もまだその小さな体は震えている
自分が体感したものとは、別の震えだ
死の恐怖ではなく、喪失の恐怖
自分は幼馴染に一番与えたくない物を与えてしまったのだなと、深く後悔していた
明利を強く抱きしめて、静希はそのまま病院に運ばれることになる
病院に運ばれ、精密検査を受けた後、静希は数日の間入院することになった
名目としては体調の変化の有無の確認
何せ左腕を霊装の義手にするなどと言う強引な方法をとったのだ、何かしら体調の異常があるかどうか調べるための検査入院だった
その最中、明利はずっと静希の横に居続けた、目を離すと居なくなってしまうのではないかと思っているのか、ほぼ片時も離れることがなかった
「やっほー、静希生きてる?」
「見舞いに来たぞー」
入院生活を始めて二日目、病室に陽太を引き連れた鏡花がやってくる
「おぉ、まぁ体自体は何でもないんだけどな・・・」
「異常がないなら何よりよ・・・ところでもう一人いるんだけ」
「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃいずぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!」
病室になだれ込むようにやってきた雪奈の口に、静希は即座に自分の手を当ててそれ以上声を出させないようにする
「雪姉、病院では静かに」
恐らくこんな風に叫びまわって走り回って注意され続けたために二人よりも遅れたのだろう、心配してくれるのは嬉しいのだが、もう少しおとなしくしてくれたらなとも思ってしまう
「バカ・・・静のバカ!心配かけて!いったい何やってそうなったのさ!」
「あー・・・まぁその・・・俺の判断ミスというか・・・やっぱ前衛の真似事なんてするもんじゃないな」
自分のやってしまったことがどういう事なのかを理解しているだけに、それ以上弁明のしようがない、何せ今回のことは本当に静希の失態だったからだ
雪奈に剣術を習ったのは物理的な攻撃に対しての対応力を増すためと、剣を使っての攻撃の幅を広げるためだ
今回の敵は現象の発現、そう理解した時点で自分は後方へと下がるべきだったのだ
急な事態だったためにその判断が遅れたのは失態としか言いようがない
「もう・・・お願いだから心配させないでよ・・・!・・・腕は・・・平気なの・・・?」
「あぁ、問題ないよ、慣れるまで少し時間がかかるかもな」
鏡花たちから事情は聞いていたのか、雪奈は不思議そうな顔つきになってからため息をつく
どうやら本当に心配していたようだ、申し訳ないことをしたなと改めて反省する
「・・・無事ならそれでいいよ・・・ところで明ちゃん鏡花ちゃん、ちょっとおいで」
雪奈に呼ばれ明利と鏡花が近づくと、その二人の肩を組んで雪奈が急に小声になって話しかける
「で?明ちゃんは静とキスくらいしたわけ?」
その発言に明利は吹き出し、鏡花は呆れながら雪奈を見る
「あの、雪奈さん、一応かなり危機的な状況だったんですよ?そんなことする暇あるわけないじゃないですか・・・」
「えぇ!?だって感動の再会とかしたんでしょ!?それならキスの一つや二つ」
「し、してないです!してないですから!」
雪奈の下卑た発言に明利は顔を真っ赤にして否定している
そういう感情がないはずがないが、最後の一線が超えられない様子だった、これではいつになっても状況は変わらないのではないかとさえ思えてくる
「でも明ちゃん、今回のことで分かったんじゃない?静がいなくなっちゃう前に、ちゃんと言っておけばよかったってこと、あるでしょ?」
急にまじめな声になって雪奈はそうつぶやく
まるで見ていたかのように、あの夜に明利が言っていたことを言い当てた雪奈に、鏡花は少し感心していた
雪奈は人をよく見ている、観察、というより気にかけていると言ったほうが正しいだろうか
静希や陽太、明利などと言った無駄に面倒な連中の姉貴分として長年一緒にいたということもあってか、無意識のうちにその人の様子などを見定めることに長けているのだろう
雪奈の貴重な一面を知ることができたなと感心するなか、鏡花は何か言いかけては口を閉じる明利の方を見る
明利も言わなくてはいけない、いや、言いたいこと、伝えたいことがあるのだろう
だが勇気が出ない、きっかけがない
「明ちゃん、私は今日は少ししたら帰るから、その後自分で決めるんだよ、言うにしろ、言わないにしろ・・・ね・・・まぁ返事が怖かったら有無を言わさずにキスしちゃいなさい」
そういって雪奈は明利の額に自分の額をくっつけた
おまじないのつもりだろうか、目の前でにっこりと笑って明利を勇気づけているようだった
言っていることはアドバイスとは言えないようなものだが、それでも明利には何か伝わっているようでもあった
「あの、雪奈さん・・・私は何で呼ばれたんです?」
「あぁ・・・鏡花ちゃんにはお願いがあるんだ・・・と言っても今までとそんなに変わらないかもしれないけど・・・静たちをお願いね」
明利と同じように鏡花にも自分の額をくっつけてにっこりと笑う
お願い
そういわれても、どうしたらいいものか困ってしまう
何をどうお願いされているのかわからないのだ
そう思っている中雪奈は再び口を開く
「この子たちは本当に危なっかしいから・・・ちゃんと見て、手助けしてあげて・・・」
「そんな・・・そんなの、私には・・・」
静希がいなくなった時、鏡花は二人を止めることができなかった
本来なら止めなければいけない立場にあるのにもかかわらず、止められなかった
自分がそうしたいと思ったからか、それとも、ただ単に止められないと思ったからなのか
「鏡花ちゃんならできるよ・・・お姉さんが保証してあげよう」
「・・・根拠は?」
「勘」
なんとも雪奈らしい根拠に鏡花はため息をついてしまう
あってないような根拠に、だがそれでも、どこか安心してしまう
この人が言うのならできるのではないか、そう思わせる何かが雪奈にはあるのだ
日曜日なので複数まとめて投稿
活動報告のところにこれからボツになった能力やら設定やら裏話やら載せていこうと思います
気が向いたら見てみてください
これからもお楽しみいただければ幸いです




