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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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時間はつながる

外に出たことでようやく今自分がどのあたりにいるのかを把握できたような気がする


辺りは木に囲まれ、少し離れた場所に舗装された道路があるもののほかに家などは見ることができない


どうやらここは町よりも森に近い場所らしい


少しずつ新しい左腕が自分のものになっていくのを確認しながら剣を振り続けること数時間、ようやく空が白んでくる中静希は少し休憩することにした


剣を振るというのは腕だけを動かせばいいというわけではない、踏み込み、体の捻り、つまり体の連動が重要になる


重さのないオルビアはとにかく体捌きと小手先の技術を同時に使わなければいけないのがつらいところだ


体を動かすのと同時に腕を動かす


やっていることは普通極まりないことなのだが、その腕が霊装であるということが少し状況を変える


動かし方が違うだけでこうもやりにくいとは思っていなかった


例えるなら別々のゲーム機のコントローラーを同時に左右の手で操るようなものだろうか、慣れないとできるような芸当ではない、少なくとも今の静希には複雑な動きはまだできなさそうだった


「マスター、彼の者を討つということに異論はありませんが、せめて明利様達に連絡をなさってはいかがでしょう?きっとご心配なさっておられます」


「そりゃしたいけど、携帯はおじゃんになっちまったし・・・あいつらの番号なんて覚えてないぞ?」


常に携帯のアドレス帳の中に彼らの番号はあったために、そもそも覚えるということをしない


普段使っている携帯が使えないだけでここまで不便になるとは思っていなかっただけに、非常に面倒だ


「でしたら村端様に頼んで城島様に連絡していただくというのはどうでしょう?友人という事であれば恐らく問題ないかと」


確かに村端は城島の友人だという、それなら問題はないだろう


だが城島の怒声を一番に浴びなければいけないと思うと気が重い


できるなら後回しにしたいくらいだ


だが一応頼むだけ頼んでみようかと、静希はとりあえず家の中に入って村端を探すと、彼女は洗面台にいた


書類仕事がとりあえずひと段落したのか、顔を洗って目を覚まそうとしているようだった


「おや?訓練はもういいの?」


「ひと段落ってところですね・・・あの、ちょっとお願いがあるんですけど・・・」


静希が先ほどの内容を村端に話すと、なるほどねと呟いた後で軽く了承してくれた


だがそのあとすぐに腕を組んでしまう


「というかあいつ今起きてるのかな・・・?ちょっと見てみようか」


鏡に触れて数秒すると、そこには宿舎で寝息を立てている城島の姿が映し出される


プライバシーなんてあったものじゃないなと思いながら静希は驚愕する


本当に見たいものなら何でも見れるという事実に半ば呆れながら、静希はあることを思う


「だめだね、一応メールしとくよ、起きたら電話で伝えることにしよう」


「あの、俺の班員の様子見せてもらっていいですか?」


「いいよ、ちょっと待ってね・・・名前とかあれば映しやすいんだけど」


静希は明利、陽太、鏡花の名前を告げると数十秒してから霊装はある光景を映し出す


鬱蒼とした木々の満ちた森の中


どこかに向けて進んでいるようにも見える


明利の目には生気がなく、陽太は完全に表情をなくし、鏡花はどこかやつれているように見えた


「あれ?もう起きてる、ずいぶん早起きなんだね」


そんなところにいる彼らが何をしようとしているのか、付き合いが長い静希は理解してしまった


何故この考えが思いつかなかったのか、自分が死んでいると思っているのか、恐らく彼らは部隊の人間にも、そして城島にも何も言わずに勝手に出撃したのだ


「・・・あんの・・・バカども・・・!」


静希はとりあえず部屋に置いてきたシャツを羽織ってすぐさま出ることができるように支度を始めた


自分なしで行動して彼らがどんな行動をとるのか全く分からない怖さというのもあるが、一番怖いのはあの三人の誰かが死ぬことだ


あの攻撃の前にまともに対応できるのは陽太か鏡花くらいのものだ


万が一やられる可能性があるとしたら明利だ、そんなことをさせる訳にはいかない


「村端さん!さっき映してもらった俺の左腕吹き飛ばした奴の現在位置映してください!」


「え、あぁうん、いいよ」


静希のいう通りに件の男を映し出す、どうやら少しずつ移動しているようだった


そして現在位置がわかりやすいようにその光景を上空からの物へと切り替えていく


それを見てカードの中から地図を取り出してすぐさまその位置をマッピングしていく


そうすることで村端はようやく理解した、静希がこれから何をしようとしているのかを


理解するや否や、村端は奥へと向かっていく


そんなことはお構いなしに静希は準備を整えて外へと飛び出していく


「村端さん!俺行きます!」


「待って、出かけるなら、これ持っていきなさい」


村端が持ってきたのは黒い外套と、肌色をした手袋にも似た物体だった


ゴムでできているのか、伸縮し、弾性が強いようにも見える、黒い外套の方にはわずかに鉄などが編み込んであるようだった


「左腕を普通の腕に見せられるように、皮膚カバーと、昔うちの班の奴らが使ってた特殊なコート、ただの刃物とか銃弾くらいなら二、三回くらいは防いでくれるよ」


一体なぜこんなものを持っているのか、そう聞きたくなったが、今はそんなことは後回しだ


すぐさまそれらを装着し、全ての人外たちをトランプの中に収納した後、フィアに能力を発動させその上にまたがる


「村端さん、ありがとうございました!この恩は忘れません」


「気を付けてね、もう替えの腕はないんだから、頑張っておいで」


村端の言葉に力強く返事をするとフィアに合図をして急加速して移動していく


「さぁて、あいつは起きてるかな?」


そう言って欠伸を一つしてから家の中に戻っていく村端、城島が起きたのを確認してから電話をかけ、静希が生きていると告げるのは、もう少しだけ後の話


フィアに乗った静希はとにかく明利達よりも早く目標に接近しようと躍起になっていた


森を囲っている壁を軽々と跳び越して中へと侵入すると再度高速で移動し始める


明利がいないために地図とコンパスを利用しての移動になるが、未だ完全にマッピングを終えていない不完全な地図のために自分の現在位置がわからなくなることがしばしばあった


「マスター、左腕の調子はいかがですか?」


「今のところ悪くない、あまり長い間戦闘はしたくないな・・・接触したら一撃で決めるぞ」


まずは相手を探すところから始めなければならない


村端のおかげで大まかな位置はつかめたが、それでも未完成な地図を見て動くという行動の時点で効率的とは言えない


こんなことになるなら一日目に大まかでもいいからマッピングをしておけばよかったと悔やむが、今さらそんなことを言っても仕方がない


一体どれほど移動しただろうか、周りが木々ばかりで方向感覚が狂い始める中、少し遠くの方向で爆発にも似た炸裂音が連続して聞こえてくる


「あっちか!フィア頼むぞ!」


静希の使い魔は咆哮を上げて爆発の起きているであろう所へと移動を開始する


爆発の発生源も移動しているらしく途中何度か方向を変えることになったが、静希はその炸裂音が自分の探している相手であることを確信する


誰かと戦っている


それが自分の班員でないことを願うが、その願いは半ば強制的に打ち砕かれる


耳に届く咆哮


それは静希が何年も前に聞いた、自らの幼馴染の物だった


「あのバカ・・・暴走してんのか・・・?」


移動する中でも静希は思考を止めない


あの声のおかげで、今戦っているのが陽太を含めた三人であることはほぼ間違いない


陽太と鏡花がいるのであれば明利も多少は安全かとも思ったのだが、陽太が暴走状態となると一刻を争う


何せ暴走してしまえば陽太は人の言葉など全く通じない状態になってしまうのだから


爆発の音が近づくにつれ静希の体が震えだす


自らを死の間際へと追いやったあの音を聞くたびに体が震える


だが、その左腕だけは震えていない


意識しなければ動かないその腕は、ただそこにあり続け、沈黙をもって静希に語り掛けているようだった


それは静希に付き従う人外たちも同様である


何を言ってもこれ以上は意味がない


静希自身が恐怖を超えなくてはならない、他ならない静希の事だからである


静希が視線の先にとらえたのは窪みになっているような奇妙な空間


どうやらそこで戦闘が行われているようだが、相手から見て死角が多いのであれば好都合


「オルビア、目標に接近したらまず明利の身を守れ、フィアは鏡花の盾になれ、俺は上から斬りかかる」


「了解しました、どうかご武運を」


オルビアは本体から自らの肉体を顕現し、剣を主である静希に預けてフィアの上に立つ


いつでも跳躍できるように準備はできた


そしてようやく窪みの全容が見える箇所までたどり着いた瞬間、静希の目に映ったのは、土に汚れ、体勢を崩した状態で今まさに攻撃されかけている明利と、反対側ですぐにでも能力を発動しようとしている鏡花


目標が何か言っているのが聞こえるが、もう静希の耳には何も聞こえていなかった、何も見えていなかった


ただ一つ、自分の幼馴染を攻撃しようとしている目標以外


太い木の枝の上に乗った静希はオルビアを明利のところへ、フィアを鏡花のところへと向かわせ、自分自身も少し遅れて跳躍する


その目標は、すでに右腕がつぶれているようだった


右腕の節々から見えている枝から察するに、明利のカリクだろう


ならば丁度いい、自分の左腕の借りを返すべきだ


白銀の剣を振りかぶり、力を込めて突き出された左腕の上腕部分に叩き付け、反応される前に回し蹴りを繰り出す


もう体は震えていなかった


むしろ今あるのは歓喜だ


今自分はこうして、彼らの窮地を救えた、そして自らを追い詰めた人物に借りを返せた


もはや笑いしか出てこない


「・・・随分素敵な格好になったな・・えぇ?能力者!」


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


本当にこの話が長くて長くて、時間がかかりますね


これからもお楽しみいただければ幸いです

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