表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

521/1032

鏡の向こうの男

「それで君はどうするの?体も問題ないみたいだし・・・泊まってるところに帰ってもいいんじゃない?」


「・・・それもいいんですけど、たぶん状況的にはまだ終わってないと思うんです・・・村端さん、ちょっと映してもらいたいものがあるんですけど」


そういって静希が指定したのは自分を爆破した犯人の居場所だった


一分ほどして鏡の中に映ったのは暗い森の中、太い木の枝に座って体を休めている一人の男


奇形種の通り道ごと静希を爆破した張本人である


「まだ捕まってなかったか・・・そりゃあ丁度いいな」


邪笑を浮かべながらそうつぶやく静希を横目で見ると、村端は旧友である城島が言っていた言葉を理解した


何をするかわからない


いい意味でも、悪い意味でも、一体何を考えて何をするのか全く分からない


碌なことを考えていないのはわかる、だが自分を死の淵に追いやった相手に対して何故一日も経たずにこんな顔ができるのか


切り替えが早い、と言えば聞こえはいい


だが静希のこれは明らかに異常だった


よもやあまりの痛みでネジが二、三本抜けてしまったのではないかとも思った


勝てそうもない相手であることは静希も自覚しているだろう


だがそれでもその瞳は鏡に映された男を凝視している


「もう一度聞くけど、どうするの?私としてはこのまま帰ったほうがいいと思うけど・・・」


「出て行けというのなら出ていきますよ、お世話になりましたし迷惑はかけたくないし・・・とりあえず左腕をまともに動かせるように最低限訓練してから・・・動きます」


動く


その言葉にいったいどんな意味があるのか


ゆっくりと左腕の駆動を確認しながら、静希は自らの新しい腕となった霊装を動かして見せる


先程までは指先一つ動かせなかったのに大した進歩である


「出て行けとは言わないよ・・・連絡もつかないんじゃ帰ってあげたほうがいいんじゃない?友達も心配してると思うよ?」


「・・・そりゃ帰ったほうがいいのはわかってますけど・・・今帰っても足手まといになるだけです・・・もう少しだけここに置いてくれませんか?」


足手まとい


もとより静希は自分が強いなどと思ったことはない


むしろ班の中で一番弱いと自覚している


能力的に、総合的に見て一番劣っているのが自分だ、それが左腕を失うという失態まで冒してのうのうと帰るわけにはいかない、いや帰れない


帰ったところで今の静希では何もできないのだから


「わかった、でも明日にはちゃんと帰るんだよ?それまであの部屋は好きに使ってくれていいから」


そういって仕事を片付けに行く村端に頭を下げ、静希は左腕のトレーニングを開始した


幸か不幸か、気絶していたせいで眠気はない、そして霊装のおかげで傷もなくなっている


さすがに体力までは戻らないらしいが半日近く横になっていた静希にとって体力は有り余っている


左腕の訓練をするだけの時間はたっぷりあった


「ねえシズキ、ひょっとして腕をちゃんと動かせるようになったら仕返ししに行くつもりなの?」


左腕の訓練を続ける静希にメフィがそういうと、静希は当たり前だろと軽く返して見せる


その様子に少しだけ悪魔も神格も心配になったのかどう声をかけようか迷っているようだった


「マスター、何か策はあるのですか?正面からぶつかっても勝算は薄いと思われますが・・・」


「あぁ、ちゃんと考えてあるよ・・・あいつの能力のことも大体把握してるつもりだ」


左腕で片腕のみの腕立てをしながら静希は腕の動きを確認していく


筋力という概念がない以上、何度でもできるのがありがたい


「あいつの能力、爆発であることは間違いないけど、あの時、俺の左腕とあの球体は触れてなかったように思うんだ」


それはあの光景を何度もフラッシュバックした結果にたどり着いた推論である


あの瞬間、目の前にある球体が爆発する寸前に見た光景が目に焼き付いている


あの時、あの球体は静希の腕に触れていなかった


「接触が爆発の条件じゃないなら、ある一定距離、または時間で爆発するようになってるんだろうさ、その爆発の条件を設定できるのかそれとも一定なのかはわからないけどな」


そういいながら静希は腕立てをやめて外に出ていく


オルビアを左手で握り何度か振りながら仮説と対策を続けていく


「そんで、相手の能力の特性っていうか、条件みたいなのがあると思う、あいつが鏡花の壁に追い詰められたときとか、部隊の人間と戦ってるときとか、遠目にしか確認できなかったけど両腕からしかあの球体を出せないみたいだった、一度に作れる球体も限りがあるんだと思う」


それは戦っているときに視界の隅でとらえた映像だった


壁を破壊するとき、そして部隊から逃走しているときも必ず相手はその腕からしか球体を創り出していなかった


「手を抜いてたのかもよ?それにだからって突破口があるわけじゃないでしょ?」


「軍相手に手を抜けるとは思えないけどな・・・もし手を抜いてたとしても、手抜き中に仕留めればいい、後ろに目があるわけじゃないんだ、一撃で仕留めればまだ勝機はあるだろ?」


手を抜いていたかどうかまでは判別できないが、少なくとも以前戦った淀川のように体の周囲に発現できるような能力でないと思われる


情報が少ないだけに判断に困るが、森という視界の限られた状況と、フィアの機動力を活かせば不意打ちも不可能ではない


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ