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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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動かし方

「どうなってんだ・・・くそっ・・・!」


思うようにいかない新しい左腕に嫌気がさしながら、とりあえず近くにあったタオルをとろうと無意識に左腕を伸ばそうとした


結果、左腕は動かない


オルビアがその状況を察して左腕の代わりにタオルをとると、静希は右腕でそれを受け取った


「マスター、もしかしたら本来の腕とは動かし方が違うのかもしれませんよ」


「動かし方って・・・そんな違うもんか?」


今まで腕を動かすのに意識したことなどない、自然に動くものだったし、それが当たり前だったからである


それでは動かない、ならば別の動かし方


そんなことを言われても皆目見当がつかない


今までと違う腕であることは認識しているが、それがいったいどういうものなのか、理解できないのだ


「とりあえず、指を動かすところから始めてみてはいかがでしょうか、何事も少しずつです」


「・・・そうだな、自棄になっても仕方ないか」


オルビアの言葉通り、静希はまず指を動かそうとしてみた


だがどんなに腕の感覚を呼び起こしても、その指はピクリとも動かない


もう途中から面倒くさくなってきて、とりあえず指を動かすことだけを考えた


感覚などそんなことは完全に無視して、指を動かそうと


瞬間、その指が動いた


人間本来の動きではなく、ただ動いただけの不気味極まりない動作だが、確かに動いた


「動いた・・・!やったぞ!」


だが静希が歓喜すると同時にその動きは止まってしまう


一体何が原因で動いたのか、それをオルビアが気付くより先に、静希は持っていたタオルを左手の腕に乗せる


今度考えたのは、タオルを握る、という動作だ


とにかく集中してタオルを握るということを意識する


すると指は確かに握る動作をしてみせた


「マスター・・・これは・・・」


「あぁ・・・ずいぶん厄介な仕様みたいだ」


静希は新しい腕の動かし方をほぼ正確に理解していた


使用者の意のままに動く


それはつまり、使用者が意識しなければ動かないということだ


今までのように感覚で動かすのではなく、使用者がこういう動きをするという意思を高めることで、その腕は駆動する


つまり意識がある状態でなければ動かない、だが逆に言えば、意識すればどんな動きでもできるということなのだろう


それを理解してから、静希はとにかく腕の動かし方を鍛錬しだした


腕を上げる、下げる、握りしめる、手を開く


一つ一つの動作を本来の腕でもできるような形にしていく


最初は強く意識しなければできなかったその動作は、少しずつだが確実に、それほどの集中を必要としなくても動くようになっていた


「オルビア、外から手で握れるくらいの石を持ってきてくれないか?」


「石・・・ですね、かしこまりました」


どれほど鍛錬を続けただろうか、一つ試したいことがあってオルビアに石を拾いにいかせ、その間にも訓練を続けていると、少ししてオルビアが出ていったのを確認したのか、下にいたであろうメフィと邪薙が部屋にやってくる


「起きたのね、気分はどう?」


「今はそれほど悪くないよ・・・この動かしにくい手に悪戦苦闘中だ」


それは重畳と返すメフィは少しだけ嬉しそうだった


ようやく、普段の静希に近づきつつある、自分の契約者が正常な状態になりつつある


未だその表情は浮かない物ではあるものの、数時間前より何倍もましになっているのだ


「その腕、動かしにくいのか?」


「普通の腕の動かし方じゃ動かないんだよ、まだ訓練しないと繊細な動きはできないな・・・」


邪薙に向けて手を見せるように腕を動かして見せる、その動きは普通の腕とは違い、非常に機械的だ


どうやって動いているのかもわからないこの腕を興味深そうに眺めていると、外に行っていたオルビアが十センチほどの石を拾って戻ってきた


「このようなものでよろしいでしょうか?」


「あぁ、ちょうどいいよ」


オルビアから石を受け取り、左手で軽く握る


そして意識を集中し握りつぶすイメージを強くしていく


瞬間、その手の中にあった石が粉々に砕け散った


メフィが口笛を吹いて感嘆を表すと同時に、静希はわずかに笑って見せた


使用者の思い通りに動く、その言葉に偽りはない


この霊装は、本来人間ではできないほどの力を発揮できるのだ


体力や筋力といった肉体的な条件のないこの霊装の真価は、この特殊能力にあるのかもしれない


「これは・・・いいものを貰ったな・・・!」


その表情を見て、人外たちは安堵していた


静希の浮かべているそれは、弱弱しい笑みではない、気丈に振る舞う苦笑でもない


そこにあるのは、いつも敵に対して静希が見せていた邪笑だった


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