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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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ヌァダの片腕

「状況を理解してくれたところで、取引の話に入ろう・・・君の能力も美紀から大体聞いてるからね」


そういって村端は近くにあったブレスレットのようなものを静希の前の机に転送して見せた


「私の能力は君のそれと似た制限があってね、一キロ以下のものをなんでも転移できるんだよ」


転移系統の能力


見るのは久しぶりだ


物体を別のところへと転送する次元に干渉するかなりレベルの高い能力である


恐らく静希がゼロを収納できるのと同じように、彼女はゼロを転移できるのだろう


これ程の数の霊装をどうやって見つけ、集めたのか興味はあるが、まずは彼女の言葉に耳を傾けることにする


「私が君にやってほしいことは、その霊装を私にも使えるようにしてほしい、君の能力ならできるでしょ?」


「・・・報酬は?」


「これを君にあげよう」


そう言って村端はもう一つ霊装を机の上に転移させた


そこに現れたのは腕の形をした霊装


甲冑の一部にも似ているが、どこか違う


精巧な作りであり、無駄が少ない、だが腕の一部に赤い宝石のようなものが埋まっているのがわかる


肩まであるその霊装は銀に輝き、無駄が少ないのに細かいところに装飾にも似たアクセントがつけられている


だが何より注意を引いたのはその腕の先、指が六本あるのだ


より正確に言うなら右手と左手、どちらの機能も持ち合わせているかのように親指が両方向にあるのだ


「正直さ、このブレスレット売り物にならないんだよ・・・観賞用としては地味すぎるし、効果も不明だし、だったら私が使っちゃおうかなって思って」


「・・・何を企んでるんです?」


自分の言葉を遮った静希の声に、村端は目を丸くした


静希が何を言いたいのか理解できない様子だった


「霊装は、一つ億単位の価値があると聞きました、それを一つ使えるようにするだけでひとつくれるなんて気前が良すぎます・・・いったい何を考えているんですか?」


彼女の商売が霊装の売買だとして、いくら友人の教え子とはいえ売り物を他人に渡すなどと言うことがあり得るだろうか


確かに静希の能力を使えば霊装を使用できる状態にはできる、だがそれでは損得の勘定が釣り合っていない


静希の問いに村端は何と説明したものだろうかと腕を組んで悩み始めてしまう


だがすぐに説明するべきことを思い出したのか手をたたいてある紙を持ってくる


それは一枚の契約書のようなものだった


そこには村端と城島の名前が記載されている


「美紀の奴が教師になるって言い出した時にね・・・二人で賭けをしたんだ、あんたの生徒なんてろくなものにならないって私が言ったらさ、あいつ『もしお前に私の生徒が迷惑かけたら高級料理のフルコースでも何でもおごってやる』って息巻いてね」


村端の思い出話と同じような内容がこの紙には書かれていた


ご丁寧に拇印まで押してある徹底ぶりである


いい大人が何をやっているのかと言いたくなるが、恐らくそれだけ親しい仲だったのだろうと容易く推測できた


「私はあいつに高級料理を奢らせたうえで、あいつの悔しがる顔が見たいのさ、それが君に協力する理由、それじゃダメかな?」


あまりにも単純で、こちらの事情など完全に無視した理由に、静希はわずかに笑ってしまう


「それじゃあ・・・俺がさらに先生に怒られちゃいますね・・・」


「そうだね、そこは君に尊い生贄になってもらおうじゃないか」


まるでいたずらのことを自慢する少女のように楽しそうに笑っている村端を見て、静希はこの人を疑っていた自分を叱責した


「この霊装の効果はわかりますか?」


「あぁ・・・こっちの腕の方の名前は『ヌァダの片腕』って言ってね・・・えっと仕様書はどこにあったかなっと・・・」


村端が探し当ててきたメモには次のようなことが書かれていた


『ヌァダの片腕』


ヌァダの片腕は神話ヌァダ・アーガトラムと呼ばれる戦いの神に属した効力を持つ義手型の霊装で使用者と同調し思うがままに動き、傷を癒す力を持つ


ディアン・ケヒトと呼ばれるケルト神話の神が作ったとされる物が原典となっており、装備者であるヌァダの力と似た効力を発揮したためこの名がついたとされる、銀でできた腕を模した霊装である、別名『代価の銀』


誰が作ったか、そういったものは一切書かれておらず、効果とその原典のみを記したメモだった


「製作者とかはわからないんですか?」


「この霊装もかなり古いものでね、誰かがこういう効果があるってことを示したメモが見つかっただけなんだよ・・・見つかっただけありがたいんだけどね」


村端は近くに置いてあるブレスレットを横目で見る


恐らく制作された年代が古すぎると使用者が現れない限りその効果や実態がまったくわからないために売ることもままならないらしい


霊装の商売をしているものとして、売り物にならない物ならば取引に使ってしまおうということらしかった


「一つ聞きたいんですけど、霊装って買う人いるんですか?」


「いるよそりゃ、どこかのバカな金持ちは何でか知らないけどこんな使えもしないガラクタたちに何億って金をつぎ込むのさ、何がそんなに価値があるのか知らないけどね、こっちとしちゃありがたい限りだよ」


金持ちなりのステータスみたいなものがあるんじゃないの?と告げて村端はカラカラと笑って見せる


霊装の所持に関してはかなり面倒な取り決めがあるらしい


本来は見つかった国などが所有することになるが、必要な金銭を支払えば個人が所有することもできるのだという


だが担い手、つまり霊装をつかえる使用者が現れた場合、一切の金銭的な取引もなしに使用者へと引き渡さなくてはならない


つまり長い間放置していても価値は生まれず、さっさと売ってしまったもの勝ちなのだと村端は言ってのけた


確かに何億という金を出して使用者が現れたから貰っていくぞなどと言われては商売が成り立たない


だから村端は限られた人物にしか自分の商売のことは明かしていないのだという


「それで?この取引、どうするかな?」


村端の言葉に、静希が返す言葉はすでに決まっていた


ブレスレットをトランプの中に入れ、すぐに出して村端へと渡す


そして今度はヌァダの片腕をトランプの中に入れて取り出して掴む


「この霊装、ありがたく頂きます」


絶望していた中で見えた光明、新しい静希の左腕となる霊装


まだ問題はいくつかあるものの、ようやく自分のできることが浮き彫りになってきた


まだ、静希の頭の中にはあの光景が焼き付いている


そして体はまだふるえている


だが自分にもできることがある


まだ自分のような人間でも、役に立てることがある


新たな力を得るという高揚感と、まだ絶望するには早いという期待感が、静希の中にある恐怖を少しだけ和らげる


そう思いながら静希が装着しようとすると、静希の腹が空腹を告げる音を奏でていく


「はっはっは、もう結構な時間だからね、お腹がすいたか」


「え?今何時なんですか?」


自分の左腕にあった時計はない、仕方なしにポケットの中に入っていた携帯を確認しようとするのだが、熱のせいか水のせいか、それとも衝撃のせいか、完全に壊れてしまっていた


「今はもう夜、十九時くらいかな?今日は泊まっていきなさい、その霊装の注意点とかもしっかり伝えなきゃいけないから、それをつけるのはご飯の後にしてね」


ご飯作ってくるから部屋で横になっていなさいと言われ、静希は頭を下げた後で先程寝ていた部屋に戻りベッドに横になった


いちいちオルビアの手を借りなければ横になるのも苦労するのがまたもどかしい


片腕がないことがこんなに不便だとは思わなかった


この状態では服を着るのも、体を洗うのも苦労しそうだ


だがそれももう少しで解決するかもしれないと思いながら静希はベッドに全体重を預けることにする


「よかったわねシズキ、腕・・・何とかなりそうで」


「あぁ、希望が見えたよ・・・さっきまではどうしようかと真剣に悩んでたからな・・・」


メフィの言葉に僅かに頬を緩めた静希は、近くでうつむいてしまっている邪薙に目が行く


恐らくまだ自分を責めているのだろう、その表情は犬顔のせいで読み取りにくいが、落ち込んでいることは容易に理解できた


「邪薙、そんな顔するな・・・お前たちのおかげで片腕だけで済んだんだ、お前のせいじゃない、俺がへましただけだ」


「・・・」


静希が声をかけても邪薙の表情が和らぐことはない


不慮の事故、失態


そんな程度の言葉で片付けられるほど邪薙の神格としての誇りは軽くないのだ


その存在に刻まれた、何百年も前から存在した守り神としての自らの存在意義


何かを守護する


その存在意義をようやく果たせるだけの存在、静希に出会えたというのに、その身を守りきることができず、何よりも自分自身を許せずにいるのだ


どうしたものかとほかの人外たちに視線を向けるとオルビアは何も言わずに首を横に振り、フィアは困ったように静希の布団の中に潜って行ってしまう


だがその中でメフィだけが何か思いついてにやりと笑った


「何言ってもだめよシズキ、こういう堅物は誰かが自分を責めたり罰したりしてくれた方が楽になるタイプなんだから、いっそのことなんか罰を与えてあげなさいよ」


「罰って・・・例えば・・・?」


「なんでもいいわよ、シズキの好きにしちゃいなさい」


自分を守ってくれた神格に対して罰を与えるなど静希には考えられない


事実邪薙がいなければ自分は焼き加減など完全に無視した消し炭になっていただろう


だが、こうして意気消沈され続けるのも正直困る


どこかでこういう空気を一新する何かは必要だろう、それが罰という形であるのであれば邪薙も自らの戒めとして納得できるかもしれない


誤字報告が五件たまったので複数まとめて投稿


最近寒くて布団と炬燵から出られない


これからもお楽しみいただければ幸いです

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