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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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人外たちの奮闘

「邪薙だけじゃなくて、私たちも頑張ったのよ?特に私やフィアはね」


「・・・え?そうなのか?」


メフィの言葉にフィアが邪薙の頭の上から静希の近くにやってきて体を擦り寄せてくる


オルビアに伺いを立てると、彼女は小さくうなずいた


「あの爆発の後、マスターの体は洞窟の崩落に巻き込まれ、あの森の地下水脈にとらえられ流されてしまったのです・・・それからの対応をメフィストフェレスとフィアが」


地下水脈に流される中、メフィが発動したのはかつて自らが宿っていた東雲風香の能力だった


彼女の能力は圧縮された空気を発現する事


空気のない水脈の中で空気を創り出すことのできる能力を、幸か不幸かメフィは取得していたのだ


そして強い流れの中、フィアは能力を使って静希をその身に包み、瓦礫などにぶつかることを防いだ


この二人がいなければ、窒息、あるいは瓦礫に体を叩き付けられて死んでいただろう


「それでその後、地下水脈の枝分かれした部分・・・っていうか微妙にほかの洞窟と繋がってるとこがあってね、そこから脱出してうろついてたらこの家を見つけたの」


ちなみにその怪我の治療はオルビアがやったのよと簡素な説明を終え、メフィはわずかにため息をついた


何せ自分があんなことをする羽目になるとは思ってもみなかったのだろう


安堵と疲労の溜息に静希は申し訳なさそうに頭を下げる


「そうか・・・ありがとう・・・お前らがいなかったら・・・本当に死んでたんだな・・・」


そう考えると、静希の体が強い震えに襲われる


実際に体感してしまった強い死のビジョン


この人外たちがいなければ死んでいたという事実に、今さらながら体が恐怖に支配されつつあるのだ


無理もない、多少頭のネジが外れているとはいえ、静希はただの高校生だ


疑似的とはいえ臨死体験をさせられて平気でいられるはずがないのだ


「はは・・・雪姉から前衛の真似事はやめろとか言われてて・・・このざまだ・・・情けないったら・・・ないな・・・」


今回の場合、静希は最前線には出なかった


むしろ前に前衛がさらに数人いる状況だったのだ


どちらかと言えば中衛に位置する場所で、静希は意識的に前に出てしまった


最前線ではないという安心にも似た油断に突き動かされて静希は前進した


だがそのせいで失念していたのだ、相手は今までのような奇形種などではなく、自分たちと同じ思考をする人間であるということを


わざわざ前衛から相手をするのではなく、中衛、後衛との分断を図るなんて静希どころか陽太にだって考えられるかもしれないような策だ


そこに考えが至らなかった、静希の失態、人外たちのせいなどではない、今のこの無様な姿は静希自身が引き起こしたことなのだ


あそこでもっと別な行動をとっていたら、そんなことを考えたとたんにあの光景を思い出してさらに体が恐怖に染まる


体が震える中、オルビアが静希の肩に優しく触れる


死を実感したことで体に深く刻まれたその恐怖は一朝一夕では拭えない


かつて戦場に生きたオルビアだからこそ、静希の状態を理解していた


「マスター・・・その震えは、マスターが生きている証です、生きたいと望む正しい意志です・・・情けないなどと言うことは決してありません」


「・・・でも、こうして片腕をなくしてる・・・これが無様でなくて何なんだ・・・!」


オルビアの言葉に、震える声を必死に紡ぎながら静希は左腕から伝わる痛みと違和感を必死に抑えながら反論する


痛々しい


今までこんな静希は見たことがない


それほど付き合いが長いとは言えない人外たちでも、静希のこの異常事態を察知していた


静希だって能力者だ、今までそれなりに怪我もしてきたし、重傷を負うことだってあった


だが、今回突きつけられたのは今までのそれとは次元の違う、死の光景だ

静希が見るにはあまりに早く、あまりに重い光景


「でしたら、私がマスターの片腕となりましょう、忠誠を誓ったあの日から、私はマスターの所有物です、どのようにでもお使いください」


「・・・片腕じゃ、もうお前を満足に使うこともできないかもしれないんだぞ・・・?」


オルビアの剣を振るう上で、必要なのは両腕の力とそれを支えられるだけの体だ


重さのないオルビアは主に体捌きで扱うことになるが、防御を主体に置く静希の剣術で片手のみで扱う場合、その技術や防御能力は半減するだろう


それを理解してなお、オルビアは静希の震える手を握る


「私はマスターと共に、たとえこの意志が朽ち果てても、マスターの剣であり、騎士です・・・何時如何なる時も、私はマスターの傍らにおります」


その言葉に、静希はもう何も言えなくなっていた


記憶に新しいあの光景がフラッシュバックするたびに体が恐怖に包まれる


そして恐怖に体が支配されかけている中、自分の頭の中では全く別のことを考えていた


「お話は済んだかな?」


聞こえてきた声に、その場にいた全員が扉の方を向く


そこにはショートヘアの女性が立っていた


ワイシャツに八分丈のパンツを着ている活発そうな女性だった


「あな・・・たは?」


「この店の主人だよ・・・君の寝ているベッドの主って言えばわかりやすいかな?」


静希の近くまで歩いてくると、人外たちはその道を開ける


そこまで言われて静希はようやく理解した


この女性が重傷の静希を治療できるだけの場を提供してくれたのだろう


「あ、ありがとうございます・・・助けていただいて・・・!」


「いやいや、私は何もしていないよ、場所を貸しただけさ・・・それに珍しいものを見れたし、それで良しとするよ」


珍しいもの、とは恐らく人外たちを示しているのだろうが、その中で女性は一番オルビアに注目しているようだった


その視線に何の意味があるのかわからずに、静希は疑問符を飛ばしてしまう


「まぁ君の名前はもう聞いてるけど、一応自己紹介ね、私は村端唯、この店の店長だよ」


「は、初めまして、喜吉学園、一年B組一班所属・・・五十嵐静希です・・・こいつらは・・・」


「あぁ、もう知ってる、大体事情は説明された」


すでに人外たちが大体の説明を終えていたのか、ずいぶんと状況の理解が早いようだった


普通だったら悪魔や神格、霊装や奇形種がいる時点でパニックになりそうなものなのだが


「話には聞いていたけどね・・・目の前にするとやっぱりびっくりするよ、これほどの存在達を引き連れているんじゃね」


「・・・どういう存在だかわかるってことは・・・能力者の方ですか?」


静希の問いに村端はそうだよと軽く答えて見せる


なるほど、成人した能力者であれば最低限以上の実力と状況把握能力は持っている


これ程の存在を前にほとんど動揺しないでいられるのもそれが理由だろうか

さて、と一拍会話を置いて部屋にある椅子を静希の近くに持ってきてからそこに腰かけて静希の目を覗き見る


「目が覚めたところで本題に入ろう・・・私はどうするべきかな?一番の対応としては君を病院に連れていくことなんだろうけど・・・君はどうしたい?」


本来なら、何の間違いもなく病院に行くことを即決するだろう


左腕が無くなっているなんて病院以外で何とかできるレベルの怪我を超えている


だが静希の頭の中では全く別なことが考えられていた


「・・・まだ・・・実習中です・・・まだ・・・俺にも何かできることがある・・・と思うんです」


先程からずっと考えていたのは、左腕をなくした状態でどうやって戦うか


どうやってこれから戦っていくか、そんなことをずっと考えていたのだ


完全な絶望より、僅かな希望の方が時として始末が悪い


普通なら逆なのに、こうして生きていることが静希に希望ともつかない思考を進めさせるのだ


始末が悪い


言いかたは悪いが、生きていることが、下手に生き残ってしまったが故に、本当にどうしようもなく始末に負えないのだ


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