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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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握られたナイフ

結果的に、明利の策はうまくいった


おおよその外見的特徴を再現した土人形に陽太はあっさりと反応して一撃のもとに粉砕していく


人形の間隔はあまり遠くするわけにもいかないから移動しながら陽太を誘導していくと、明利の索敵の中、目標の移動ルートと思われる場所に誘き出すのにちょうどいい地形があることに気づいた


明利の索敵がぎりぎり届いている場所で、一部平坦でありながら周囲がわずかに盛り上がっている


この地形ならば周囲からの投擲などは高所からの攻撃となり、特定は困難を極める


「明利!この先にちょうど平坦になってる部分があるわ!そこに陽太を誘導するように土人形を作るから、陽太のお守りお願いね!先に行って仕掛けしてるから!」


「うん!お願い!」


自分たちを撒くためか、相手が直線的でなく僅かに曲線を描いて移動しているのが、こちらにとってはありがたかった


平坦部へと続くように土の人形を作成しながら明利と別れ、目標地点へまっすぐに向かっていく


明利の索敵の結果通りならあと数分もかからずに目標はここを通過、そしてほぼ同時位に陽太がここにやってくるだろう


それまでに自分にできることはやっておく必要がある


相手にばれないようにトラップを仕掛け、いつでも総攻撃できるようにしておく必要がある


明利の言っていた作戦は、先程とほぼ同じ


石の中にナイフを混ぜて攻撃するというものだ


だが、ナイフは一本ではなく二本


一本目は鏡花のトラップで射出し、二本目は明利が投擲する


明利だって雪奈から指導を受けていたのだ、最低限の投擲はできるだろうが、何かおかしい気がするのだ


明利が鏡花の能力をすべて把握していないはずがない


その気になれば大量のナイフを作って一気に投擲だってできる


なのに何故そうしないのか


考えがまとまらないうちに目標と陽太がもつれ合うように接触し、平坦部に見事に誘い出すことに成功する


ここまでは十分だ


実戦経験の少ない自分たちにとってはこれだけで十分成功と言える


相手からすれば自分がおびき寄せられたことにも気づいているだろう、むしろ望んでここにやってきたようにも見える


恐らく目標は陽太が追ってくることを前提にここにやってきた


何か策があるのだろう、相手にも


再び先ほどのような展開が繰り返される


陽太が突進して目標が爆発をぶつけ、空中高くへと舞い上げて距離を作る

だがその動きを繰り返したのも数度だけ


何を思ったのか、陽太を空中に舞い上げた後に、周囲にある高低差のある部分に爆発を起こしてその部分に大きなクレーターを作る


高低差があるせいか、その場所は小さな横穴のようになり、燃えた地面が音を立て、今にも崩れそうになっている


その瞬間、鏡花は相手が何をしようとしているのかを理解した


あのままでは陽太はやられる、そう判断し、即座にクレーター部分の近くへと移動を開始した


空中に叩き上げられた陽太に向けて数発、球体が射出され、陽太の体は空中で何度も爆発によってお手玉のように位置を調整しながら舞い上がっている


ほとんど効いていないようだが、この先が問題だ


陽太をある程度の高さまで上げ、重力に任せて自由落下させていく


ある程度の低さになった瞬間に再度爆発を起こし、器用に陽太を先ほど作った横穴へと叩き込んだ


そして陽太が反応するよりも早くその横穴のすぐそばを爆破し、横穴ごと陽太を生き埋めにしようとする


陽太の力の原動力は炎だ


一時的にとはいえ土に埋まってしまえば、急速に酸素を消費して炎を保っていられない


運が良ければ生きていることもあるだろうが、まず酸欠と土の重さで常人ならば生きていられない


彼は状況をほぼ正しく理解していた


火炎をもとに身体能力を強化する陽太と、どこかにいるであろう変換、あるいは発現系統の能力者


問題があるとすればどこかにいる方の能力者だが、先程わざわざ石を投擲してきていることからそれほどの能力はないものと判断したのだ


せいぜい攪乱か、少し注意をそらすことしかできない程度の能力者だと、そう判断したのだ


それが一番の間違いだった


横穴のほぼ後方に位置した鏡花は、陽太が叩き付けられた瞬間に能力を発動した


相手が放った爆炎が土を崩すと同時に、鏡花の変換によって横穴の奥から巨大な手が陽太を殴り飛ばす


上手いこと土煙や爆炎で隠れたその手は陽太を押し出すとすぐさまほかの土に溶けるように消えていく


それを把握したかのように、陽太は横穴から外へと飛び出し、再び目標へ向けて突進をかけた


自我がなくとも、体が覚えている、鏡花の作る拳の感覚を


一番驚いたのは目標だっただろう


相手を叩き込むのも、土を崩して生き埋めにしようとするのも、タイミングも申し分なかった


体勢を崩したあの状態で動けるはずのない状況で、陽太は突然爆炎を引き裂きながら突進してきたのだ


体を強引にひねって何度も陽太へと爆発を起こし無理やりに距離をとる


今まで自分の中にあった情報だけで倒せないならもう少し相手の能力を探る必要があるかもしれない、そう考えたのだ


相手が能力を隠しているから今のを回避できた、そう考えたためにもう少しだけ陽太の様子を観察するべく、再び距離をとりながらその様子を観察することにしたのだ


その行動を繰り返し始めたことで、ようやく明利がその場に追いついた


少し息を切らしながら手にナイフを持つその姿は、あまり良い状態とは言えないだろう


「準備は?」


「終わってるわ、ちょっと陽太がやばかったけど、うまくフォローできたみたいね」


先程の相手の策が決まっていたら、完全に陽太は埋まってしまい、能力を封じられていただろう


あの場で気づくことができなければ危なかった


相手が爆発を起こす系統の能力でなければ鏡花の能力の大部分までばれていたかもしれない


そういう意味ではこちらに流れが向いてきている


「あと二回、あと二回陽太君が突進したらさっきの作戦をやって」


「わかったわ・・・気を付けるのよ」


「うん、任せて」


そういって移動を始める明利


恐らく相手の死角に回るつもりなのだろう


先程のような投擲と同じように攻撃するのであれば一発目で隙を誘発し、陽太の攻撃と合わせて体勢を崩させ、本命の一発で機動力を奪うか、または仕留めるかしなくてはならない


その場合、欲に言えば投擲などと言う不確かな要素を含んだ攻撃手段を使うべきではない


確実に自分の手で行うべきなのだ


相手の足を傷つけるにしろ、そして相手を仕留めるにしろ


そして陽太の二度目の突進が行われた瞬間に、鏡花は周囲に仕掛けてあったトラップを発動して目標に向けて投石を始める


相手も同じ行動をしたことで、また本命の一発が来ることを確信しているのか、周囲を若干警戒しだした


陽太の突進があと数メートルに入ったところで鏡花の所持していたナイフをトラップで目標に向けて射出する


今度は完全に警戒していたためか、石に当たりながらでもナイフをかわすことに成功する


そして同時に訪れる陽太の突進を、跳躍し、自分のいた場所の近くに爆発を起こすことでその爆風で強引に距離を作って回避する


転がりながら即座に体勢を整えたその後ろから、明利の姿が見えた


ナイフを持ち、強い殺気を放ちながら目標めがけてその刃を突き立てようとしている


瞬間、鏡花は陽太の言っていた言葉を思い出す


『もし相手を追い詰めたら、そん時は明利の行動に注意してくれ』


相手を殺さないように、明利が人殺しなどしないように、陽太から受けた忠告だったはず


相手を追い詰めることに集中しすぎて失念していた


今の明利は普通ではないのだ


止めようとする前に明利のナイフが目標に向けて突き立てられる


だが、その刃が目標の体に届くことはなかった


明利の殺気を感じ取ったのか、瞬時に体を翻し、明利の喉を掴んでナイフを遠ざけた


体の小さな明利と、体格のある大人では腕の長さの違いは歴然、完全に腕を伸ばした状態でも、ナイフがあってもかすりもしていないようだった


石に混じってナイフを当てる、一本目は布石で二本目が本命


奇しくも先ほどと同じ状態になってしまったのが災いした


似た状況になれば誰だって同じ状況になるのではと考えるのが当然だ


陽太の攻撃を防ぎ、鏡花のトラップで投擲されたナイフを回避して、さらにもう一つ何か攻撃が来ると予測していたのだ


それがまさか明利自身の直接攻撃だとはさすがに予想していなかったのだろうが、抑えきれない殺意と、低い身体能力が十分に対応できるだけの余裕を与えてしまった


「狙いはいい、事実危なかった・・・だけどその殺気はわかりやすすぎるぞ、お嬢さん」


僅かに呼吸を阻害されながらも、明利はナイフを何とか目標へと届かせようと腕を伸ばす


だが、まったく届かない


明利の身長があと十センチでも高ければ、かすり傷くらいは負わせられただろうが、身長の低さが災いした


「もう一人隠れているだろう!?出てこい、こいつの命が惜しければな!」


陽太を再び遠くへと追いやりながら周囲にいる鏡花に向けて語りかける


実質今の明利は人質状態だ、出なければ明利の命はないだろう


運が良ければやけどで済むかもしれないが、最悪、死ぬ


そんなことはダメだ、もうこれ以上班員から死者を出すわけにはいかない


鏡花は歯を食いしばって茂みから身を乗り出し、目標を見下ろす


「よしいい子だ・・・この成り、学生か?いい能力者になれるぞお前ら」


まるでどこかの知り合いであるかのような気安さで話しかける相手に、明利は抵抗の意志をなくしたのか、それとも酸素が足りず思考できなくなっているのか、ナイフを動かすのをやめて腕を下ろしていた


「あの炎の奴もお前らの仲間だな?あいつを止めろ、でなけりゃこいつの命はないと思え」


その言葉に、鏡花は歯噛みする


「残念だけど、あいつ今暴走中よ、私たちでも止められない・・・止められるかもしれない奴は・・・いるけど」


「ならそいつに言って止めさせろ、いい加減あいつの相手は飽きてるんだ」


止められるかもしれない人物、それは静希の事だ


陽太の性格や行動、そして能力をほぼ正確に知り尽くしている静希なら、打開策も思いついたかもしれないが、今の鏡花たちでは陽太は止められない


仮に大量の土を展開して動きを封じようとしても、すぐさま破壊されるだろう


誤字報告が五件たまったので複数投稿


どうすれば多くの人に見てもらえるかとか考えだすと何もかもがダメなんじゃないかって思えてくるから難しい・・・普通に書きたいものかいていた方がいい気がしてきた・・・



これからもお楽しみいただければ幸いです

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