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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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彼のナイフ

陽太の体が落下したのは数十メートルほど離れた場所だった


先程まで十メートルにも満たない空間で戦闘していたのに一気に距離を離された


いや、完全に動きを把握され、なおかつ攻略法も見つけられてしまったのだ


以前雨の日の演習で城島がやっていたのと同じことだ


陽太は能力の性質上相手に近づかなければその力を十分発揮できない


そしてどうあがいても空中では体勢を整える程度の動きしかできない


それ故に、空中高く舞い上がらせてしまえば何の問題もなく距離を作られてしまう


もう陽太だけでは相手の注意を引いておけない


「鏡花さん・・・お願いがあるの」


今まで静観を決め込んでいたはずの明利の声で鏡花は一瞬で我に返る


「何か手があるの?」


鏡花の言葉に、明利は静かにうなずく


「あの人さっきから陽太君を遠ざけてばかりで少しずつしか移動してない・・・あれなら仕掛けられると思う」


「・・・詳しく教えなさい」


鏡花たちが作戦を練っている中、陽太は無我夢中で目標への距離を詰めようとしていた


だが、愚直とも思える陽太の突進を熟練の能力者が止められないはずがない


何発かの球体をわざとよけさせることで陽太の動きを制限し、その上で本命の一発を陽太の足元に叩き付け、また先ほどと同じように空中で爆破を繰り返して距離を取らせる


同じことの繰り返しのように行われる状況の中で、一つの変化が現れた


目標の周囲から突如石が飛んできたのだ


それは大した速さではない


せいぜい人間が投げた程度の小さな石の塊だ


最初の一つだけまったく反応ができずに頭に当たり痛い思いをしたが、それ以降飛んでくる石は全く当たりもしない


腕を使って払いのけたり、体をよじって回避したりしている


あらゆる方面、三百六十度すべての方角から飛んでくる石


これは鏡花の作ったトラップの動作だった


周囲の地面を変換し、石を次々と投げているのだ


最初の二対二の時にやった、投石のトラップ、それを目標の周囲全てに配置したのだ


それを見て、陽太の目がわずかに変わる


目の前で起こっている敵への行動を見て、陽太の体を本能とは別のところが動かしていく


自分の腰にあるそれを握り、大きく振りかぶった


それは陽太が静希から渡されたナイフだった


すでに熱によって赤く変色し始めているが、陽太の身に着けているものは燃えない時もあるという能力の特性のおかげか、未だ硬度を保っていた


周囲の投石を忌々しく打ち払い、僅かに陽太への意識が逸れたところに、陽太がナイフを投擲する


それは人間が投げることのできる速度をはるかに、そして容易に超えた


それが投げられたと気づいたときに、目標は石への対応をやめ瞬時に回避行動に移っていた


体勢を崩しながらも胴体に向けて襲い掛かる赤色のナイフをギリギリのところで回避すると、僅かに掠ったのか、その服に切れ目が走り、部分的に炎がつく


ナイフは誰にも当たらず、そこに立っていた木に深々と突き刺さり炎をともして見せた


倒れこむようにナイフを回避した目標に向けて、石は投げられ続け、その中に一つ、目標の完全な死角から白い布のようなものがその体に向けて飛んでくる


回避行動を終えて完全に体勢を崩していたその体に白い何かは直撃し、その体に白い粉のようなものが付着していく


「第一段階、完了」


それは明利の投げたキノコの胞子だった


以前、江本に対し有効だった付着させるタイプの種子を用いて、これでいつでも目標の位置を把握することができる


胞子は服だけではなく、髪や皮膚にも付着している


あれをとるには陽太のように炎を体に纏わなくては不可能だ


そして自分の体に何かがつけられたことで目標はこの一連の動作が計算されたことだと悟り、完全に周囲への警戒行動に移っていた


この作戦を考えた明利も、ここまでうまくいくとは思っていなかった


いや、これは嬉しい誤算なのだが、あそこでまさか陽太がナイフを投擲してくれるとは思わなかったのである


陽太に注意を向け、石を完全に無視すればキノコの胞子を当てやすくなる、それはそれでいい


逆に石に注意を向けすぎて、陽太への対応が遅れるのであればそれもよし


どちらに転んでも問題はなくことは済む


「上手くいったわね、でも周り全部爆破されるとは思わなかったの?」


自分のところに戻ってきた明利に向けて鏡花が安心しながらそうつぶやく


確かにこれは周囲のどこに自分たちがいるかわからなくするために全方向から投げたというのもある、だが相手が躍起になってあたり全てを焼き尽くそうと爆発を起こしたら鏡花は対応できても明利は対応できないのだ


「大丈夫だよ、今あの人は周囲の木々を焼き払うことはできない」


「え?なんで?」


現に目標は陽太と交戦状態に入って一度もあたりに向けてむやみやたらに爆炎を放つことはやめている


どちらかというと狙いを絞っているのだろうが、何故そんなことをするのか

こちらとしてはありがたいが、何故そんなことをするのか


鏡花の問いに対し、明利は何も言わずに、再び目標に向けて接近を図ろうと突進する陽太を見る


そしてようやく鏡花もそれを理解した


陽太は、簡単に言えば目標に対する天敵のような存在だ


炎は効かず、衝撃もほぼ無効化されている


彼の今見せている能力だけでは恐らく倒せないであろうことがうかがえるほどに


そして問題は陽太の身体能力の高さだ


今は度重なる爆発と陽太の突進によって、タイミングをとりやすくなっているのと、ルートがある程度絞ることができているだろう


だが周囲に爆炎をまき散らせば、それだけ視界が狭くなり、一瞬とはいえ陽太の姿を見失うだろう


陽太程の速さを持つ相手に、一瞬でも目をそらすということがどれほど危険か相手も分かっているのだ


だからこそ、どこかに第三者がいることがわかっても、周りに対して一斉に攻撃する事ができない


明利が全方位から投石させたのはそういう考えを含めたうえなのだ


もし一方向から投石しただけならばすぐさま位置を特定されてその方向に向けて爆発を起こせばいいだけ


だが全方位なら、どこにいるかは察知できない


索敵能力がないと思われる相手だからこそできる手だ


そこまで考えていたのかと、鏡花は近くに来た明利をわずかに見て驚く


自分の知っている明利はここまで深くものを考え、それに対して戦略を練ることのできる人物だっただろうか


あの手、まるで静希が考えたかのような精密さと大胆さを同時に持ち合わせるあの発想


一瞬、明利のすぐ後ろに静希がいるかのような錯覚に陥るが、そんなことはありえないと瞼をこすって引き続き投石を続ける


これで、自爆でもしない限りいつでも相手の行動を把握できるのだ

完全にアドバンテージは握った


後は相手をどのように拘束するかである


現状、陽太だけでは手が足りない、あともう一手、なにかあればすぐにでも相手を拘束できる


今の行動で相手にこちらの能力の一部がばれただろう


いや、察しが良ければこちらの能力がすべてばれた可能性もある


周囲一帯から石を投石することのできる能力はかなり限られる


念動力の発現系統、あるいは変換系統


こちらの能力がばれるのは確かに痛手だが、それに対しこちらが得たのは相手の行動のほぼ全把握


リスクは負ったが、それ以上のリターンを得ることができたと言っていい


相手の今の目的が、先日と変わらずの時間稼ぎだとしたら、こちらとしてもありがたいというものだ、こっちも時間をかけてでもいいから相手を捕らえたいと思っているのだ


奇しくも、相手とこちらのやりたいことの利害の一部が一致している


「どうする明利?このままじゃジリ貧よ?」


「・・・もう一回さっきと同じような手をやってみよう」


「・・・同じじゃ通用しないんじゃない?」


先程と同じというのは投石に混じって本命を投げる行動のことだ


だがあれではすぐに位置を把握されてしまう


先程は陽太の思わぬ援護があったからこそこちらの位置も把握されずに胞子を投げ込むことができたが、今回同じことは起きない、陽太が投げたのは静希から渡されたナイフ、一本だけのナイフを使ってしまったのだ、二度は起きない


「似たことをするだけで、同じじゃないよ、こっちもまだできることはあるもん」


明利は自分が持っていたナイフと、鏡花の腰についているナイフを抜いて視線の先にいる目標をにらむ


いったい何をしようというのか、鏡花はわずかに恐怖と不安を覚えながら明利の言葉を耳に入れていた


だがそれを察知したのか、それともこのままの状態では自分も危険であると判断したのか、突進してくる陽太を再び爆発で空中高くへと押し上げ、それと同時に逆方向へと逃走しだしてしまう


今までよりも高く打ち上げることで上昇と落下の時間を逃走のために費やしたことで少しでも陽太から離れようとしたのだろう


「まずいわね、このままじゃ陽太があいつを見失うわ」


自分たちは明利の能力のおかげで目標を見失うことはないとしても、自我をほぼ失っている陽太が明利達の道案内の通りに動いてくれるとは思えない


彼が稼ぐことのできる距離はせいぜい数十メートルから百メートルに満たない距離だが、この森の中でそれだけの距離があれば見失うことだってあり得る


いくら身体能力強化がかかっていても物理的に見ることのできないものを見えるようになるわけではないのだ


「鏡花さん、相手の容姿は覚えてる?」


「え?い、一応大体は」


「その形を造形して陽太君を誘導しよう!時間はかかるかもしれないけど、陽太君ならすぐ追いつける!」


陽太は今あの目標だけを追っている


恨みと怒りからそれ以外の対象がまったく目に入っていない


だからこそ外見だけ真似ることができれば、それに対して誘導することも可能だろうと判断したのだ


「やってみるけど・・・ナビはお願いね!」


「任せて!」


明利と鏡花は同時に走り出して目標を追跡することにした


逃がさない


明利の目に映る感情がいったい何なのか、鏡花は未だ判断できずにいた


日曜日なので複数まとめて投稿


あらすじに四苦八苦している今日この頃、どうすればいいのか本気で悩んでいます・・・


そしてそろそろpv数がまた大台に届きそうです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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