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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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五つ並んだ

「・・・え・・・」


唐突に自分の腕の中に納まった左腕に明利はそれ以上何も言えず、ただその腕を凝視していた


「うそ・・・でしょ・・・」


鏡花は声を震わせてその光景を見ていた


何もない、腕は本体から千切れたのか、明利の腕の中でピクリとも動かない


「静希ぃ!おいどこだ!冗談じゃねえぞ返事しやがれ!」


陽太は能力を発動し腕のあった瓦礫の周囲を徹底的にどかし続けている


その行動に突き動かされるように鏡花も周囲の瓦礫を徹底的にどかし続ける


二人ががれきを撤去し続ける中、明利はその腕を持ったまま放心し続けていた


全ての瓦礫が撤去し終えても、そこに生存者はいなかった


死体の数は五つ


顔が吹き飛ばされている死体


瓦礫に押しつぶされた死体


外傷は目立たないが窒息死したであろう死体


全身酷く焼け焦げており誰なのかも判別できない左腕のなくなった死体



下半身が吹き飛ばされている死体


この並べられた五つの中に静希がいるとしたら、左腕のない、この死体だけだった


「なによ・・・やめてよ静希・・・あんた・・・だって・・・そんな・・・」


鏡花は何か言おうとしているのにそれ以上の言葉を探すことができないようだ


涙を浮かべて呼吸を荒くしながら地面に爪を立てている


陽太はその光景を凝視し続けている、自分の見ているものが信じられないのか、それとも信じたくないのか、必死に頭の中で否定できる材料を探しているようにも見えた


そうしている間に、明利が二人の下にやってくる


並べられた死体を眺めて、すぐに移動を開始する


その先は川の下流、大きな石がいくつも積まれている場所でもしかしたらそこにも誰か埋まっているかもしれないと考えたのか、明利は少しずつその石をどかし始めた


その眼はどこを見ているのか、瞳孔が開き、どこかを見つめる明利はしきりに何かを呟いている


鏡花が明利を止めようと近づくと、そのつぶやきが聞こえてきた


「・・・助けるから・・・大丈夫、静希君・・・助けるから・・・助けるから・・・静希君、助けるから・・・私が・・・助けるから」


何度も何度も何度も何度も助ける、助けると呟いている明利を見て、鏡花は歯を食いしばってその体を抱きしめて強引に止める


「・・・明利・・・もう・・・静希は・・・」


「静希君は・・・生きてるよ・・・生きてるよ・・・だから、助けられる・・・まだ、私が、助けられる」


うわごとのようにつぶやき続ける明利をもう見ていられないのか、鏡花は泣きながらその体を強く抱きしめて動けないようにする


「おい・・・明利、その根拠は何だ」

先程瓦礫を撤去している間、半狂乱しながら静希の名を叫び続けていた状態とは対照的に、目つきを鋭くした陽太が落ち着いた様子で明利のもとにやってくる


「あの死体・・・左腕のなくなった死体は肘の少し先からなくなってた、けどこの静希君の腕は肘まである・・・それに切断面が違う、静希君の腕は爆炎と衝撃で焼け千切れている、けどあの死体は強い衝撃と裂傷で千切れて切断面に火傷の痕がない、たぶん爆炎で焼かれた後、洞窟の崩壊が原因で腕がもげたんだと思う・・・だからあの焼けた死体は静希君の死体じゃない・・・だから、生きてる」


その言葉に鏡花は驚愕する


明利があの並べられた死体を見たのはせいぜい十数秒


たったそれだけの時間であの死体の状態を把握して静希ではないと確信したのだろうか


冷静にそこまで観察していた?いや違う、今の明利は確実に冷静じゃない、確実にどこかがおかしいのだ


「なら探そう、静希がどこかにいるなら見つかるはずだ、鏡花、お前は向こうの石をどかしてくれ、俺はあっちをやる」


あくまで冷静に指示し始める陽太に鏡花は唖然としてしまう


そして陽太の胸ぐらをつかんで強くにらみつけた


「なんだよ、ふざけてる場合じゃないのはお前も分かってるだろ?」


「あんた!幼馴染が危ないのよ!?静希も!明利だっておかしいのに!何でそんな冷静でいられんのよ!ふざけてんのはあんたでしょ!」


周りで活動している部隊の人間が鏡花の絶叫に一瞬その方を見るが、すぐに作業に戻っていく


遺体を搬送するために道具をいくつか持ってくるようで、その場から離れるものもいた


学生のいざこざに口を出すほど、彼らは暇ではないのだ


「こういう状況だってわかってるならこんなことしてる暇ないだろ、静希を一秒でも早く助けてやらねえといけないってことはお前も分かってるはずだ」


「だからその態度が・・・」


そこまで言ったところで、静希の言葉が脳裏をよぎる




『あいつが急に冷静になったら気をつけろ』




あれはいつだっただろうか、確か実月が陽太に会いに来た時だったはず


数か月前の記憶をたどりながら、静希が言っていた言葉を思い出していた



『あいつは感情が一定以上になると自分で自分をクールダウンさせるようにしたんだ、言ってみれば冷静になるってこと、さっきまで怒ってたのに急に冷静になったらそれは危険信号だ、感情が爆発する寸前、言いかえれば能力が暴発する寸前ってこと』



静希の言葉を思い出し、鏡花は陽太から手を離した


今陽太は、感情が暴発する寸前までに陥っている


幼馴染の窮地、そしてそれに対しての怒りだろうか、それとも悲しさだろうか


どちらにせよ、今の陽太はいつ爆発するかわからない爆弾のようなものだ

刺激してはいけない


冷静になる、普通ならそれは平常である証拠でもある


だが陽太に関してはその常識は通用しない


安全装置ともいえる最後の砦、それが破壊されるのがいつなのか、鏡花は見当もつかない




いったいどれほど石を除去しただろうか


辺りにはもう大きな石は全くない


だがそれでも明利は石をどかし続けていた


そんな小さな石の山に静希がいないことは明白なのにもかかわらず、石をどかし続け、助けるからという言葉をつぶやき続けている


もうすでに彼女の体力で動き続けることのできるであろう体力の限界を超えている


その証拠に明利の動きはどんどん鈍ってきている


そのいたたまれない姿をつらそうに眺める鏡花をよそに、どこかに電話をかけていた陽太が鏡花の近くにやってくる


「やばいな、もうふらふらじゃねえか」


「・・・ねぇ、止めないとまずいわよ、あのままじゃ・・・」


陽太も鏡花も明利が異常だということに気づいている


今の明利はどこかおかしい


頭の中で何かのスイッチが入ったのか、それともどこかが壊れたのか、生気のない瞳でどこかを見つめながらぶつぶつと呟きながら石をどかすのをやめない


時間はもうすでに三時過ぎ


すでに昼なんて時間はとっくに越している


無我夢中で瓦礫の撤去をしていた彼らはすでに空腹というものすら忘れていたのだ


「君たち、無事・・・な、ようだな・・・」


そこにやってきたのは何人かの部下を連れてきた後藤だった


言葉とは裏腹に、鏡花たちの顔と状態を見て悲痛な表情をしている


中でもひどいのは明利だということは一見して理解した


その手は石を動かし続けたせいでわずかにすりむいており、汗を大量に掻いているのにそれを拭おうともせずにつぶやきながら石をどかしている


「彼女は・・・」


「どうにかして止めたいんですけど・・・力づくで止めると何するかわからなくて・・・」


明利は生き物に対しては非常に強い能力を有している


もしあの行動を止めたら自分の身に何があるかわからない


変換で止めることも考えたのだが、あの状態では言ったところで聞かないのは明白、何より、これ以上あの状態の明利を見ているのは鏡花には耐えられなかった


数分経って部隊の人間が何人か、何かを持ってやってくる


それはタンカと、学生鞄


そのカバンが静希のものであるのに気付くのに、少しだけ時間がかかった


礼を言いながらそれを受け取る陽太はカバンの中をあさりながらいくつかのものを取り出して何かやっている


だが何をしているのかは鏡花も見ることができなかった


そして水の入ったペットボトルを持って明利のもとに歩いていく


「明利、汗かきすぎだ、水飲んでおかないと動けなくなるぞ」


「あ・・・うん・・・あり、がとう」


陽太の言葉に反応したのか、明利はペットボトルの中にあった水をすべて飲み切ってしまう


そして水分補給は十分と判断したのか、またぶつぶつと呟いて石を除ける作業に戻っていた


「陽太、あんた止めなさいよ!なんで動くのを助けてるのよ」


「落ち着けよ、あの状態じゃまともな対応なんて無理だって、ちょっと待つ必要があるんだよ」


そういってから数分、陽太は明利の近くに居続け、そして唐突に明利がその場に倒れそうになる


それを抱き留めた陽太はため息をついて額から流れる汗を軽く拭ってやる


やはり無理がたたったのかと考えてすぐに駆けつけると、そこには穏やかに寝息を立てる明利がいた


「寝てる・・・なんで・・・ってあの水!」


「あぁ、静希の持ってた睡眠薬を入れた・・・今のうちに宿舎に運ぶぞ」


先日鏡花も使わせてもらった睡眠薬、あの存在を陽太は思い出していたのだ


冷静になることでそれだけ頭もまわるようになっているのか、それともただ単に心境の整理のついていない鏡花の処理能力が落ちているだけなのか、思いつきもしなかったことをやってのける目の前の陽太に、鏡花は強い違和感を覚えていた


明利をタンカに乗せて部隊の人間が担いでいくのを見ながら陽太は一瞬だけ静希の腕があった場所を見て移動を始めた


鏡花もそれに続き宿舎へ続くだろう道を進んでいく


「後藤さん、簡単にで良いんで状況教えてもらっていいっすか?」


「あ・・・あぁ、わかった」


陽太の様子がおかしいことを後藤も感じ取っているのだろう、少しだけ動揺しながらそこからは見えない壁の向こうに視線を向けながらわずかにため息をつく


自分のことをお気に入りユーザーに登録してくれた方が百人超えたのでお祝い投稿


本編とは全く関係のないお祝いでごめんなさい


キリ番お祝いとしてお気に入り登録、評価者などを対象としているので一応・・・と思ってお祝いです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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