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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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失念 失態

しばらくして後藤達の部隊がまた戦闘状態に移行した


前回のようなゆっくりと移動するようなものではなく激しくあたりに爆炎や銃声が轟くのがわかる


恐らくは先刻と同じような速度で移動しながら能力を使用し続けているのだろう


明利の索敵の範囲内に収めることでようやく理解したが、攻撃しながらも後藤の指示に従って少しずつだが部隊の人間が犯人を囲み始めているのだ


無論それを完成させないように犯人もかなり大規模な爆炎をまき散らしている


森が必要以上に破壊されないように気を付けなければいけない後藤達からすればそれも大きなハンデだ


相手は好きなように能力をつかえるのに対して、こちらは殺してはいけない、森を壊してはいけないという制限付き


いくら多勢に無勢と言ってもこのハンデはかなり大きい


能力者においてこういった遮蔽物のある場所は有利にも不利にも働く


森や視界の悪い場所では多勢よりもむしろ無勢の方が地の利を生かせるのだ


後藤達が戦闘を続けている間、静希達は周囲への索敵を続けていた


陽太と明利の協力の元、移動しながらどんどんと索敵範囲を広げていく


無論戦闘区域に入らないように気を使いながらのためにそれほど効率がいいとは言えないが、戦闘の全容などはほぼ正確に把握していた


すでに明利の索敵範囲はこの森の約五分の一を占めるほどになっている


まだ穴は多いもののこれほどの広範囲で索敵が行えるのはやはり時間をかけ、着実にこなした結果だろう


その中で先日見つけられなかったモグラの通り穴らしき大きな穴をいくつも発見できた


もしかしたらこの中に外へとつながる穴があるかとも思ったが、一応近くにいる隊員に報告するだけにとどめておいた


メフィを出した結果か、奇形種たちは鳴りを潜めている


たまに好戦的な奇形種が現れる程度だが、一匹二匹単体で現れる程度


そのくらいなら静希達の敵ではなかった


能力を使われる前に倒す心がけていることはそれだけなのに、以前の奇形種戦とはずいぶん違った印象を受ける


以前遭遇したのは能力が使えない状況だったり、一撃で倒せなかったり、餓死寸前だったりと苦戦の要因がかなりあった


だがほぼベストなコンディションを維持できる今なら、戦い方を心得た静希達がただの奇形種に対して苦戦を強いられるというのはまずあり得ない


「静希君!また穴発見!前方六十メートルくらい!」


「わかった、まずそこに行くぞ」


少しずつだが犯人も疲弊しているのか、移動速度が落ちているようにも見える


だがそれは部隊の人間も、そして静希達も同じだ


早朝からほとんど走り続けているのだから無理もない


「あれ・・・穴に犯人が入っていく!」


先程索敵で見つけた穴の一つに犯人が入っていくことを知ると全員が表情を曇らせる


とりあえずその場に向かうことに異論はないが、なぜこのタイミングで洞窟内に入る必要があるのか


切り捨てられることを恐れて逃げに入ったのか、それとも時間稼ぎは十分だと判断したのか


どちらにせよその場に向かうことに変わりはない


静希達がその場にたどり着くとすでに部隊の何人かが編成を組んで中に入るところだった


「これから洞窟内に入る、君たちはこの場で」


「待ってください!少しでも速く移動するなら変換をつかえるのは多い方がいいですよね!」


鏡花の言葉に後藤は一瞬驚くが、もちろんその言葉の意味は分かっている


洞窟内で鏡花を連れていけばかなりの速度で大人数での行動が可能だろう


だが逃げ場の少ない場所に学生を連れていくというリスクもある


「後藤さん、俺からも頼みます、相手を早く追いつめるにも鏡花の能力は必要です、ただ前に出るのはまずいんで中衛あたりからの支援になるかもですけど」


数人ならまだしも、それなりの数の人間が同時にこの中に入るとなると多少の補強は必須となる


この中で一番変換がうまく行えるのは鏡花だ、静希もそれを納得したうえで、それが最善であると判断したうえでそう進言した


「わかった、頼むよ、くれぐれも急いでくれ」


「は、はい、わかりました!」


この部隊の中に鏡花以上の変換能力者はいないようで、前衛を何人かおいて、その次に静希達の部隊を配属して守りを固くしてくれるようだった


相手を追っている立場にある以上、少しでも移動速度を上げたい、学生を能力者に接触させかねないために可能なら避けたいのだろうが背に腹は代えられないようだった


静希達からしても協力できることなら喜んでしようとそれに付き従った

小走りの状態で鏡花は壁に手をつきながら通路を人が通れるだけの強度にし続けている


部隊の前衛が静希達の数メートル先を先行し、その前に数人の中衛、そして陽太と静希が並んで配置し、その次に明利、最後尾に鏡花が続き、その後ろに後藤達の部隊が数名続いている


さすがにすべての部隊をこの狭い通路に向かわせるような愚行はしないようだ


静希も、この配列ならば自分たちへの危険も少ない、そう判断して行動していた


そんなことを考えているとわずかに通路が左にそれるように湾曲している


静希がその道の危険性に気づいたのは、その先から襲い掛かる赤い球体を目にした瞬間だった


静希は、城島の忠告を一時的にではあるが完全に失念していた


追い詰めるよりも、自らの身の安全を最優先にする


優先順位を自らの身の安全を最上位に置く場合、この場所に入るべきではなかったのだ


一人が大勢と戦う時、狭い通路で一対一同士で戦うのが最も勝率が高いという


相手の能力は爆発、この閉鎖された空間ならば何の問題もなく少数だろうと複数だろうと巻き込める


まんまと誘い込まれた


追い込んでいると見せかけてこちらが窮地に立たされる結果となってしまったのだ


放たれた赤い球体の先には犯人の姿があるのが見える


前衛数人が当たらない軌道で射出された場所に運悪く静希達が突っ込んでしまったのだ


小さく赤い球体が静希の少し横に向けて放たれているのを確認すると、まだ球体に気づいていない明利が小走りでやってくる


陽太は赤い球体に気づいた瞬間に静希の襟をつかんで元の通路へと跳躍するが、それでも静希と明利の間に球体が飛んでくることに違いはない


間に合わない


「陽太!防御しろ!」


静希が叫んだその瞬間、その声に反応した陽太の能力が発動しその体を炎で包み込む


同時に静希は明利を左手で突き飛ばし、少しでも遠くに強制的に移動させた


陽太が能力を発動したために掴んでいた静希の襟は燃え、その手が離れていき余分な重さがなくなった陽太も明利の方向へと飛んでいく


歯を食いしばって静希の左腕に直撃しようとする球体を凝視した次の瞬間、腕に触れる前に巨大な爆発が洞窟内に響き渡った


洞窟内の土や岩が崩れ、その下にあったであろう地下水の水があふれ激流の中に土が流されていく中、洞窟の入り口めがけて飛び出す三つの影があった


それは陽太、明利、鏡花を抱えた監査の教員だった


爆発が起こる寸前に潜んでいた場所から分身の能力を使って生徒たちを回収したのだ


だがその中に静希の姿はない


「あれ・・・あんた・・・」


「無事なようだな・・・何より・・・と言いたいが・・・」


久しぶりに会った監査の先生の姿に陽太は目を丸くしている


それもそのはずだろう、陽太たちが彼の姿を見るのは四月、最初の実習以来なのだ


今までの実習でもついてきていることはわかっていたが実際に見ていない以上いないも同然だったために動揺は大きい


「げほ・・・ごほ・・・何よこれ・・・」


比較的後方にいた鏡花は突然舞い上がった爆炎で少しやけどを負っているものの、ほとんど軽傷のようだった


陽太は静希の指示でとっさに防御態勢をとっていたためにほぼ無傷


そして一番爆心地に近かった明利もなぜか無傷だった


洞窟が崩れる中、何人もの部隊の人間が脱出しているが、取り残され地下水脈の激流に巻き込まれた者も少なくないようで、約半数しかこの場には残っていなかった


「あれ・・・おい先生!静希は!?静希どこ行った!?」


周りに静希がいないことに気が付いたのか陽太は監査の先生に掴みかかる

その表情は曇っており、それがすべてを語っているように思えた


一番近くで静希を見ていた、最後に静希に突き飛ばされた明利は土煙を上げている洞窟を放心状態で眺めていた


彼女は見ていたのだ、目の前で自分を突き飛ばした静希の腕が爆炎に包まれていくのを


そして目の前で爆炎が障壁によって遮られたのを


あの時静希は邪薙の力を借り、明利の前に障壁を展開させた


そして、爆炎の中に消え、恐らく地下水脈の中に飲まれていったのだろう


そこまで気づいてようやく明利は我に返る


「鏡花さん!洞窟を直して!地下水脈のところまででいいから!」


「え?あ・・・わ、わかった!」


壊れかけた洞窟の入り口に手を当ててできる限り先程の状況を再現できるように洞窟を再構成していく


明利がやろうとしていることに気づいたのか、陽太も、そして後藤もそれに続いていく


激しく流れる地下水脈の中にいくつもの種を落としてその先に何があるのかを感知しようとし、そのまま集中していく


「後藤さん、私たちは一時的に撤退して負傷者の回収に当たります、明利の発見した穴は部隊の方に報告しましたから、後お願いしてもいいですか?」


「あ・・・あぁ、何人かそちらにつけよう、後は任せなさい」


鬼気迫る形相でそういった鏡花をよそに、長い間集中を続けていた明利は索敵を終える


「森の近く・・・岩壁になってるところがある、そこが出口!」


「すぐ案内しろ!とばすぞ!」


今まで静希が危険に晒されることはたくさんあった


だがそれとは明らかに格が違う危険度だ


能力者の、人を殺されるだけの能力の直撃を受けた


そして地下水脈の中に飲み込まれ、生死不明


いやな予感が止まらなかった


今まで飄々としながら生き残ってきた静希達だが、こんなにいやな気分になるのは初めてだ


息を切らしながら壁を鏡花の能力を使ってやすやすと乗り越え、それでも全力で走りたどり着いたのは高低差の激しい岩壁の見える場所だった


近くには流れる川もあり、そこに地下水が合流するように大量の水が噴き出す滝のようになっている


そして川辺には何人かの隊員の存在が確認できた


瓦礫に押しつぶされている者や、顔が完全に吹き飛んでしまっている者

おそらくあの場から逃げそこなった隊員たちだろう


それらすべて、全員息絶えていた


「静希君、どこ!どこ!?」


明利は半狂乱になりながら周囲を見渡す


辺りに種を蒔きながら瓦礫の下にいないか探索を始めている


陽太達もとにかくあたりに流れ着いていた瓦礫を撤去する作業を始めていた


瓦礫の下にいる隊員も何人か見つけながらも、静希の体を見つけることができない


そんな中、ある瓦礫に目を向けた明利がそれを見つけた


瓦礫から生えるように見える、焼け焦げた誰かの腕


それは左腕で、熱で僅かに融解し半壊した腕時計をつけていた


明利はすぐにその場に駆けつけてその腕時計を見た、それは彼女が静希に誕生日プレゼントで贈った時計だった


「鏡花さん!陽太君!ここ!」


明利の絶叫に反応して二人は全力でそこに駆けつける


「冗談じゃないわよ、この馬鹿静希!」


すぐさま能力を発動しその腕の上に乗っている岩をどかしていく


陽太も能力を発動して大きな岩をとにかくどかしていく


そうしてようやく静希の体があるであろう岩をどかすと、その腕が明利の元へと引きずり出されるように出てきた



だが、その腕の肘から先は、何もなかった


五百回目なのでお祝い?での複数まとめて投稿


数が多いだけでは誇れないと思いますが、まぁ記念ということで


これからもお楽しみいただければ幸いです

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