理不尽な力の差
陽太は爆炎によりさらに身体能力が強化されているとはいえ、完全なる無傷はさすがにこたえるのか、顔をひきつらせている
だがそれは静希も同じだ
有効であるとは思わなかったが、せめてわずかでもダメージを受けてくれていたらよかったのに、相手は全くの無傷
まったく苦笑するしかない
「上等だよ、とことんまでお楽しみあれ」
クローバーを一枚用意し、中から棒状の物体を取り出す
バトン型のスタンガン、もちろんただのスタンガンではなく、電圧も電流も改造を施し出力をあげている、人に当てれば確実に死亡するだろう
「陽太、援護よろしく」
「おぉ、任せとけ」
静希は接近戦はそれほどうまくはない、陽太や雪奈に比べれば素人に毛が生えたようなものだろう
だがそれでも雪奈の幼馴染、自らの能力の劣等性を悔いる静希が雪奈に接近戦の指導を受けないという選択肢は最初からなかった
ナイフ、対人戦闘に対しては静希も多少心得がある
が、目の前の存在は人間ではない、ためらう必要もない
「ダメになったら直接?もっと工夫してほしいなぁ」
斜め一線、バトンを振りかぶるがその軌道のままに悪魔の体をすり抜ける
もちろんそれが意味をなさないのは十分に理解している
クローバーのトランプが二枚、悪魔の横に瞬時に現れ、ワイヤー付きのナイフを射出し、そのまま悪魔の体を通過、そして回収されていくそのワイヤーにスタンガンがあたり電流を流す
通過状態、体内に電流が流れる形となる
その工夫を見て先ほどの失望を塗り替えたのか、嬉しそうに笑い静希に向けて手刀を振るおうと光に覆われた腕を振りかぶる
その横から陽太が突っ込み、わずかにその軌道をそらし静希には当たらずに空を切る
今度は横一線、トランプを縦にワイヤーを顔を透過するように設置し再度ワイヤーに電流を流す
だが悪魔の顔は笑みのまま、そして涼しいままである
「いいわ、触れられないなら体内でやってみる、できることならやってみる、着眼点も面白い」
陽太と並んで距離を取る
毒、爆炎、電流、いくらもの種類の攻撃をしてもまったく効果を及ぼさない
圧倒的、あまりにも、絶望的なほどに
明らかに無理かもと思いだしたその時、無線からノイズが聞こえ出す
『五十嵐、少女は村に搬送した、もうそちらに向かっている、もう少し耐えてくれ!』
熊田の声だ、どうやら無事にあの女の子を村に移送できたらしい
「あら、もうそんなに経ったの?ちょっと遊び過ぎたかしら?」
「遊んでくれた方がこっちとしては有り難いんだけどね」
「もうちょっとお姉さんのことを教えてくれると嬉しかったりするんだけどなぁ」
できるのなら会話で時間を稼ぎたいが、悪魔の纏う空気が変わっていく
今までの楽しみを優先するスタイルから、明らかに攻撃優先のスタイルに変わりつつある
「くっそ、もうちょい時間を稼げればいいんだけど、陽太、お前もっと強化できない?」
「めいいっぱい出してるよ、どうしような、これ」
明らかに二人の手に負えるだけの相手ではないのは明らかだ
唯一触れられる陽太でさえ、ろくにダメージはなし、静希の行えるあらゆる手段は試した、もう静希のカードの中に有効だと思える物は入っていない
だがチェックメイトにはまだ早い
ナイフを取り出し、ハートのトランプの中から油をナイフの刀身に浴びせて陽太から火を引火させる
悪魔から見ればほほえましい光景だっただろう、子供が大人に対して必死に幼稚な策を講じるように見えただろう
だが、その幼稚な策も、天才の一振りによって変わる
陽太の火力が著しく変化、近くにいる静希が距離を置くほどに強く大きくなっていく
「あんたら・・・ばっかに・・・やらせるわけにはいかないでしょうが!」
先ほどまで絶望していた、鏡花
構造変換を用いて周囲の空気を次々と純酸素などの可燃物に変換、陽太に送り続けている
「おいなんだよ、ビビってたんじゃなかったのか?寝ててもいいんだぜ?」
「ざっけんじゃないわよ、あんたなんかに遅れをとってたまるかっての」
「くっくっく・・・いいねえテンションあがってきたぁ!」
陽太の炎がさらに強く燃え上がる
禍々しいその姿は尾を作り出し腕をさらに太く巨大にさせ、角をさらに鋭く大きい物にしていく
静希も燃える炎とトランプを操り悪魔との距離を測っていく
まさに全力、死力を尽くした
真直ぐ突っ込む陽太に対し、静希はトランプで悪魔の視界をふさぎつつ反対側から襲いかかる
何度か聞いたことのある爆発音が響いた
瞬間、衝撃により静希と陽太は吹き飛ばされる
身体全体を打ちつける打痛、骨がきしみ折れているのではないかというほどの痛みによる呼吸困難
うずくまっている中、陽太は驚愕の表情を浮かべている、そしてそれは静希も同じだ
「ちょっとまてよ・・・どういうこった!?」
実際に身体で能力を受け、感覚を覚えている陽太の驚愕は大きい
「・・・なんで・・・お前が・・・」
実際に能力を目の当たりにし、特性などをほぼ理解している静希も目を見開いている
「ふふふ、気付いたのね、さすがというべきかしら、それともすごいわと褒めるべきかしら」
悪魔が今使った能力は、先ほどまであのエルフの少女が使っていた能力に瓜二つだった




