表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

499/1032

作為的な行動

「ねえ・・・なんかおかしくない?」


犯人が壁際に追い詰められて数分、一向に動きがない


明利の索敵にもこれと言って急な反応がない、定期的に爆発を放って土煙を激しく上げている程度で壁を破壊しようともしない


むやみやたらと放たれる攻撃に部隊の人間も攻めあぐねているようだが、犯人の活動圏は確実に狭まっている


だが、鏡花の言うように何かおかしい


そしてそれは明利も気づいていた


「おかしいって、何が?もうあと少しで終わりそうじゃんか」


唯一状況を理解していない陽太が疑問符を浮かべるが、明利が首を振って不安そうな顔をのぞかせる


「時間がかかりすぎてる気がする・・・ううん、なんかあえて時間をかけてるみたいな・・・」


明利の言葉に陽太はさらに首をかしげるが、その言葉と現状をつなげることができないようだった


「は?部隊の人がか?」


「違うよ!犯人の人・・・何であの場所から脱出しないの?逃げようと思えばあの壁くらい簡単に壊せそうなのに・・・」


犯人の能力は爆発、それに間違いはない、何せ静希達も遠目ではあるものの何度か爆炎を確認しているのだ


やろうと思えばあの壁くらいすぐに破壊して脱出できそうなものだ、なのにあの場から逃げようとせずにわざわざ消耗戦をしている


その理由がわからない


あの大人数に囲まれては確実にいつかは捕まってしまうというのに


「時間稼ぎって、意味あんのか?あいつ単独犯なんだろ?」


「それは・・・そうかもだけど」


陽太の言葉に静希の脳裏にある可能性が浮かび上がる


そしてその可能性を考えたときに今のこの状況が如何に危険であるかを理解してしまった


「鏡花!あの壁操ってすぐにあの犯人捕まえろ!」


「え?は!?」


状況が理解できない鏡花を差し置いて静希は無線の向こうにいる後藤に声を飛ばす


「後藤さん!今すぐその犯人拘束してください!単独犯じゃなくて複数犯かもしれません!もう平坂さんは奇形種の通り穴から連れ出されてる可能性がある!そいつは囮です!」


静希が思いついた可能性


それは犯人が単独犯ではないという事


証言から実行犯が一人であることは確定していた


だが負傷者も壁の向こうまで見えていたわけではない


能力を使って部隊の人間を攻撃したのは確かに今追いつめている犯人だろう、だがもう一人、いやもしかしたら壁の向こうにもう一人いたら


やけに時間をかけて部隊と交戦したり無駄に目立つ能力をむやみやたらと使ったりしていたのはもう一人の存在に気づかせないようにするため


偽の爆発を起こして別の方向に逃げたと偽装して樹海の方に意識を向けないようにし、逃げた方向に気づいても樹海が完全に封鎖されているという状況から時間をかけても問題ないと錯覚させ、仮に奇形種の通り穴のことに気づいても爆発の能力を持ったもう片方が囮になって平坂ともう一人の犯人を逃がす


二重どころか三重に仕込まれた計画的な犯行だ


静希の声に呼応して後藤達が一斉攻撃を仕掛けると同時に鏡花が能力を発動してゆっくりと壁を犯人の方へとまげて捕まえようとする


だがこちらの意図を察したのか、犯人は両の手を広げ二方向へ赤い球体を射出する


迫ってくる壁にその球体が直撃する数瞬前に大きな爆発を起こし、犯人に向けて襲い掛かる能力に土の瓦礫が落下していく


爆発を起こして防御するのではなく、自分を包囲する壁を盾にして身を守る


とっさの判断とは思えないほどに効果的な行動だった


壊れた壁から抜け出そうとすぐさまそちらの方向へと走り出すが、同時に部隊の前衛が二人、犯人へと襲い掛かった


ここで逃がせば確実に手がかりを失う


どの穴が外へとつながっているか、そしてどこにつながっているか、すぐに答えを知るにはあの人物をとらえるしかない


部隊の人間も必死だ、ここでとらえられなかったらまた戦闘を行わなければならなくなる、そうすればまた時間稼ぎが始まるだろう、これ以上相手に猶予を与えてはいけないのだ


だが犯人は全く恐れることなく直進する


そしてまたその両手から赤い球体が発射され、前衛二人の足元へと飛んでいく


すでにあの球体が爆発物であると知っている前衛二人、一人は回避行動をとるべく左に跳躍し、一人は回避が間に合わないと察したのか防御態勢をとる


次の瞬間、地面に着弾する前に大きな轟音とともに爆発が起こり防御態勢をとっていた前衛の人間が空中高く打ち上げられる


その隙に犯人はすでに全力で逃走を始めていた


部隊の人間もそれを追い、同時に静希達も動いていた


爆発の直撃を受けた前衛の人間は多少の火傷を負っているものの、肉体強化か、それとも何かの能力を使ったのか、問題なく動けるようだった


多少の不意打ち程度では前衛は崩せない、だが足止めになれば十分


軍の人間に容易く追いつめられていることからそこまでの能力者ではないと高をくくっていたのだが、とんだ食わせ物だ


この多勢に無勢の状況下であれほど強かに動けるというのは称賛に値する


あれが人間の、能力者の犯罪者


動物と違って考えが回る分だけ奇形種なんかよりも何倍も厄介だ


「君たち!無事かい?」


犯人を追いながらすぐに後藤が静希達の元へとやってくる


恐らく後藤も先程の静希の言葉で現状を正しく認識したのだろう、その表情には焦りも見えている


このまま追い続けてもあの犯人がおとなしく外部へとつながる通り道へと向かってくれるはずがない


相手はすでに自分が切り捨てられることを知っている、その上で時間稼ぎをしている


場所を知りたければ生かしてとらえるしかない


「後藤さん、奇形種の通り穴の先を見つけるように連絡はしてあるんですよね?」


「それはしてあるが、それでも申請やらなんやらで時間はかかるぞ!夕方・・・いや早くても昼過ぎくらいまではかかるかもしれない」


早くても昼、今はまだ八時になろうというところだ、正午に封鎖できたとしても今から四時間以上もかけては間に合わないかもしれない


だができることはやっておくべきだ


静希は自分の携帯を確認する、電波が届いているかは賭けになる


だが静希の携帯は圏外になったりアンテナが立ったりと電波が不安定になっているようだった


「誰か携帯の電波入ってるか?城島先生に連絡してくれ!」


「私のいけるわ!今掛ける!」


走りながら鏡花が城島に電話をかけて何度かコールすると電話の向こうから若干不機嫌そうな城島の声が聞こえてくる


「掛かったわ、静希パス!」


鏡花の携帯を受け取って耳に当てるとなんだどうしたと城島の声が聞こえてくる


「先生、緊急事態です、もう平坂さんは奇形種の通り穴から外に出てしまったかもしれません!モグラの出所にできるだけ早く軍関係の人間を向かわせて封鎖することはできますか!?」


この中で若輩者の後藤よりも城島の方が軍部の強いコネを持っている


一秒でも早く軍を配置させるには多少の無茶が通るだけの人間でなければならないのだ


『無理ではないが、一体どういう状況だ?犯人を追いつめているんじゃなかったのか?』


「犯人が複数いたかもしれないんです!やたら時間稼ぎしてるから間違いないかと!お願いします!」


可能な限り言葉を選別してすぐに伝わるように話すと、城島も状況をかろうじて理解したのかああもうと叫んで大きくため息をつく


『わかった、何人か当たってみる、そんなに期待してくれるなよ』


それだけ言って城島は電話を切ってしまった


後は城島の手腕にかけるしかない


やたら暴力的だったり教育者かどうか疑うことはあるが、少なくとも人徳はある、これでだめだったら諦めるしかない


トンネルの向こう、外部がいったいどこにつながっているのかわからない、ここまでトンネルを通って来ているから徒歩だろう


その先が近いのか遠いのか、それが今の一番の問題だ


近ければ間に合わないかもしれない、だが遠いならまだ可能性はある


使える手段は少しでも使って相手の目論見を抑えられるだけの行動をしなければ


今回の静希達の目的は平坂の護衛、すでにかどわかされている状況で護衛も何もあったものではないがせめてその身の安全を確保しなければ失敗どころか大失態を晒すことになる


もとより自分たちがそこまで優秀であるとは思っていないが、自分たちを優秀だと言ってくれる人たちの顔にこれ以上泥を塗るわけにもいかないのだ


「後藤さん、どうしますか?さっきみたいに壁作りますか?」


「それでもいいが・・・相手もそうそう何度も引っかかってくれないだろう、こちらで何度かアプローチをかけるから君たちは引き続き奇形種の対応を頼む、もうなりふり構っていられないだろう、多少強引に行くよ」


相手が生きていることが必須であっても、すでに情報だけ聞き出せれば問題ない状況であるために相手の無事までは保証しないようだった


犯人に聞きたいのは誰から依頼されたか、そして何人での犯行か、また何が目的かというくらいのものである


相手が仮に四肢の全てが吹き飛んでいようと生きて情報さえ持っていれば問題ないのだ


逆に怖いのが、今静希達が追っている人間が何の情報も持っていない場合だ


時間稼ぎのためだけに雇われたその場しのぎの能力者だった場合こうしている時間はかなり無駄になる


手際よく実行していることからある程度の情報は持っていると思いたいが、可能性を否定できない以上少しだけ恐ろしくもあった


「でも他に何かできないっすか?奇形種相手なら全然問題ないし・・・正直時間がもったいないっすよ」


陽太の言うように静希達が奇形種に対応する時間はせいぜい数十秒あるかないか程度のわずかな時間だ


長くかかるかもしれない追い込みの時間に無駄な時間はかけたくない、できるなら静希達だって何か協力したいのだ


「そうだな・・・なら犯人を中心に一帯を索敵しつくしてほしい、どこに行ったのか、何があるのか、君たちの班の索敵なら時間をかければ可能だろう?」


何度か見ただけで明利の索敵の条件や性質をほぼ正しく理解しているのか、後藤の指示に静希達は全員でうなずいて後藤達の班から少しずつ離れていく


これからは完全に分かれて行動することになる、後藤達犯人を追う追撃班、静希達奇形種を追い払い、あたりを索敵する斥候班


ある意味一番向いている仕事を任されたかもしれないなと思いながら静希達は森の中を走っていく


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


最近誤字が加速してますね、物語が早く進むからいいんだけど・・・ほんとこの話長いな・・・



これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ