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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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森での戦い

補強を行いながらということでそこまで速度は出せないがそれでも昨日よりずっと速い速度で奇形種の開けた穴を突き進んでいくと、どれほど走ったのか、外からの光が進行方向から漏れているのに気付く


洞窟もどきの外に出るとそこには大量の木々に囲まれた森の中


「明利、場所どこだかわかるか?」


「それほど離れてないところだよ、でも今まで来たことがない場所だね」


どうやらこの通路は外へと続く道ではなかったようで、安心と落胆を含めて静希はため息をつく


この辺りにまた奇形種の通ったであろう穴があるはずだ


まずはそこから探していかなくては


「まずはこの道塞いでおこう、この道は違うってことがわかったから間違えないように、鏡花、頼んだぞ」


はいはいと鏡花が軽く地面を蹴って先程まで静希達の通ったトンネルを塞いでいく


と言っても出口付近だけを塞いだために誰かが勘違いすることもあるかもしれない


とりあえず地図にチェックを入れて一か所目の穴は違うということを記しておく、無線で各所に連絡する必要もあるかもしれない


「未開地域か・・・軽く種まくか?ないよりはましだと思うけど」


「待って、なにか聞こえる・・・」


陽太が屈伸運動をしているのを制して明利は耳についている無線に集中する

雑音と一緒に何か音が聞こえる、何かが崩れるような、倒れるような音だ


今まで地下にいたからだろうか、地上に出たことで電波がよくなったのか急に聞こえるようになった雑音に全員が耳を傾ける


無線の向こうからわずかに人の声が聞こえる、それが隊の誰かであることを後藤は瞬時に理解した


「おい!しっかりしろ!現在位置を報告!何があった!?」


無線に向けて語りかけるも反応はない、距離が遠すぎるのか、それとも無線が破壊されかけているのか


「陽太!ちょっと跳躍して周囲の状況見てくれ、相手の能力が爆発なら何かわかるかもしれない!」


「オーライ!」


陽太が木々を軽く飛び越えるだけの跳躍をして周囲を大まかに確認していると一か所、僅かに火や煙、そして断続的に炸裂音にも似た振動がしている箇所がある


あそこで何か起きている、確定的な情報でもあった


太陽の位置と自分たちの位置を把握してどちらの方角でどれだけの距離かを瞬時に確認してから陽太はゆっくりと落下し始める


「見っけたぞ!南南東!距離大体五百くらい!戦闘が起きてるかもしれない!」


「わかった!移動しよう!」


恐らくは後藤の指示に従って穴から穴へと移動していた部隊が犯人と接触したのだろう


相手の能力がわかりやすいもので助かったが、この距離と木々の騒めきのせいで目立つはずの爆発音がまったく聞こえないのは痛い


後藤はすぐさま索敵のできる隊員と地図を開いて、現在位置と問題が起きているであろう場所を確認し無線ですべての班へと連絡する


恐ろしいのはそれを移動しながらできるという点だろう、静希達なら一度足を止めてしまうところだが、さすがは軍人と言ったところだろうか


「響君!大まかにでいいから見たことを教えてくれるかい!?」


「うっす!えっとちょっと火が出てて煙も出てました!何回か爆発音みたいなのも聞こえたっす!」


「戦闘が起きているとみて間違いないか・・・!」


走りながらでも情報を共有する後藤の中ではいったい何が考えられているのだろうか


明利に確認しながら現在位置を走りながら地図のところに記録してみるとそこは完全にデータのない未確認地域だった


この先何があるかもわからないし何が起きているのかもわからない


「奇形種、右翼側から接近しています!数は一つ!」


部隊にいる索敵の可能な能力者が声を張り上げる


急ぐあまり明利の索敵用の種を蒔くことができなかったせいでまったく反応できなかった


このままでは必ずと言っていいほどに接触するだろう、ただでさえ急ぎたいのに速度を落とすのは得策ではない


しかもメフィの存在を確認しながらもこれだけ動き、なおかつ自分たちに近づいているということはかなり好戦的な個体であることがわかる、戦闘は避けられないだろう


そのことを理解した鏡花は静希に視線を合わせる、静希は何も言わずにうなずいて答えた


「後藤さん!先に行ってください!私たちが対応します!」


「だ、だが・・・」


「行ってください!状況終了時点で俺らも追いかけますから!」


走りながらこちらに向かってくる奇形種にも気を配りながら全員で後藤の目を見る


能力者同士の本当の戦闘が行われている地域に後藤たちを送り届けるのが今の静希達の仕事だ


やるべきことが限られているならそれを全力でやるしかない


「奇形種発見したぞ!トカゲみたいなやつだ!」


陽太が叫ぶと同時に緊張感が強くなる


目視可能な距離にすでに接近してしまっている、これ以上悩んでいる時間はない


それは後藤にもわかりきっているようだった、大人として最後まで静希達の様子を見るつもりだった彼としては苦渋の選択と言えるだろう


「わかった、くれぐれも気を付けるんだぞ!」


「了解です!」


鏡花の返事とともに後藤達が速度を上げ始める、今までは自分たち学生に合わせていたのだろう、木の密集している森の中であれだけの速度で走れるというのは脅威だ、そんな真似はまだ静希達にはできそうにない


「陽太!少し先に行って奇形種をこっちに誘導しろ!絶対に後藤さんたちのところに行かせるな!」


「了解任せときな!」


後藤達の班が少しだけ静希達から離れたところで陽太はわずかに能力を発動し静希達から離れて奇形種に向けて接近する、ここは通さないと言わんばかりに奇形種と後藤達の班の間に体を割り込ませ大きく威嚇する


陽太が見た奇形種は確かにトカゲのような外見をしていた


だがそれがトカゲでないことを陽太はその体と頭部を見て気づいた


その体には羽毛があり、口には嘴がある、一見すればそれが鳥であることがわかるが、本来あるはずの翼の部分に生えているのはまさにトカゲのような腕、いや足だった


翼の部分が奇形と化し、腕にも似た足になっている、そして本来ある鳥類としての足を引きずるように翼部分の足だけで移動している


大きさは全長一メートルほど、恐らくは鷹か何かの奇形種なのだろうが、もはや原形をとどめていない


完全奇形というわけではないようだがその異形さに陽太は一瞬眉をひそめた


鳥の奇形種は奇声を発しながら目の前に現れた陽太に向けて威嚇している


完全に陽太を敵と認識したようで足を完全に止めて姿勢を低くしいつでも攻撃できるようにしているようでもあった


こちらとしたら願ったりかなったりだが、陽太の方を完全に警戒している、不意打ちしたところでその注意をそらすとは思えなかった


奇形種に接近する静希と鏡花はアイコンタクトして合図をし、陽太の眼前にトランプを二枚飛翔させる


そのトランプが合わさって片方だけが開閉する、口が開閉するのにも似た動きをすると陽太は接近してくる静希達に気づいたのか、大きく吠える


「鏡花、俺がやる、フォローよろしく!」


「はいはい!」


陽太が全力で吠えている間に声を出して互いに意思疎通を終えて静希は一直線に奇形種に向けて接近する


それに気づいた陽太が一歩前に近づき奇形種に向けて咆哮すると同時に、奇形種の腕を鏡花の能力で作った腕がつかんで拘束した


次の瞬間、静希がオルビアを構えて飛びかかり、その頭部めがけて銀色の刃を突き立てる


陽太に完全に集中していた奇形種は鏡花の能力に反応できず、全体重をかけた静希の一撃を何の抵抗もできずに受け脳を完全に破壊され絶命した


今回のは陽太を囮にして鏡花がフォローし、静希が止めを刺す連携だ


もし静希が仕留め損ねた場合は眼前にいる陽太が止めをさせる絶好の位置取りだ


「今のでよかったのか?トランプのジェスチャーじゃわかりにくいったらねえぞ」


「悪い、急ごしらえだけど伝わってよかったよ、さっさと移動しよう!」


奇形種の死体をそのままに静希は先程の進行方向へと駆け出す


今回のことで確信をもって言えるようになった、雪奈の言ったとおりだが静希の全体重をかければ骨くらいであればオルビアでも貫けるし、恐らく切ることもできるだろう


重さがないオルビアでも十分生物相手に戦えるということが証明できた


全力で移動していると静希達の耳にわずかに爆発音のようなものが聞こえる


この森の中でもしっかりと聞こえるだけの距離に近づいてきたということでもあり、同時に戦闘が起こっていることが確定的になった瞬間でもある


だがその音が聞こえる地点がわずかに変わっている


戦いながら移動しているということだろう、かなりの人数が集まっているはずだが未だ包囲はできていないようだ


当たり前かもしれない、相手はこちらを殺しても構わないがこちらは相手を殺すわけにはいかないのだ


なぜ誘拐したのか、それに平坂を連れている状態で戦闘していたら強い能力など使うわけにはいかない


とうとう銃声も聞こえるようになり、静希達は走る速度を上げる


ようやく森での走法を少し理解してきたのか、体がだんだん速く動けるようになってきている


「明利陽太!この辺りに種ばらまくぞ!索敵頼む!」


「了解!」


「全方位か!?それとも戦闘音が聞こえる範囲か!?」


「戦闘が行われてる場所を中心にばらまくようにしてくれ!」


静希の言葉に種入りの石を受け取った陽太は了解とだけ叫んで大きく跳躍する


近くまで来ると先程には確認できなかったその惨状がよく見えるようになっていた


木々のいくつかが燃え、何人かの隊員がそれを消すべく能力を発動しているのが見える、そして爆発や衝撃、土煙を巻き上げている地点を中心に何の音だか判別できないような異音と銃声が響いている


銃と能力を使った戦闘になっているようでかなり激しさを増している


ところどころなぎ倒されている木々も確認できる、森にはかなりの被害が出ているようだった


陽太は気を引き締めて戦闘が行われている周囲めがけて石を投擲していく


状況が変わる前に戦闘地域を明利の索敵範囲内に入れておく必要がある


万が一部隊の人間が取り逃がした時少しでも足止めできるようにするためだ


城島と後藤に言ったように静希達が能力者と対峙するわけにはいかない


危険だと思ったら即退散、それくらいの気構えでなければまずいのだ


石を投げ終えた陽太が着地するのを確認して明利が集中する、戦闘が行われている範囲の木々が破壊されている惨状を確認して明利はわずかにつらそうな顔をするが、そんな中明利の口が動く


「いない・・・平坂さんがいない・・・!?」


明利の言葉に静希達は驚愕していた


てっきり犯人が平坂を引き連れているものだとばかり思っていたからだ

だが明利の索敵では平坂の姿は確認できなかったらしい


なるほど、やたらと部隊の攻撃が激しいのは多少怪我をさせてでもいいから制圧できるような状況であったからなのだろう


人質がいないのであれば命を取らないように攻撃するくらい容易ということだろうか


「おい待てよ、じゃあ平坂さんはどこにいるんだ!?」


「わからない、少なくとも戦闘のあった場所には確認できない・・・」


「もしかして実は最初の爆発で死んじゃってた・・・なんてことないわよね・・・?」


鏡花の仮説に静希と陽太が同時に首を振る


「あの爆発の大きさじゃ全身バラバラになったとしても肉片一つ残らないってのはありえねえよ」


「死体を全部回収したのなら話は別だけどな、そんなことする意味がない、まず確実に生きてる・・・どっかに隠したのか?」


戦闘を行うことが確定している状況なら戦えない人間は足手まといでしかない


気絶させてどこかに縛って放置しておけばいい


だがここは奇形種が山ほどいる樹海の中だ、縄でおいておかれて無事でいられる保証はない


「隠すって・・・この森のどこかに?手がかりもなしで無茶言ってくれるわ」


「手がかりなら今あそこで派手に戦ってるあいつに聞けば一発だろ」


やっぱそうなるかと諦め半分でため息をついて周囲の状況を確認し始める


明利の索敵に奇形種の反応はない、少しずつ犯人は動いているがそれほど速いというわけでもなく、移動しているというよりは軍によって包囲されるのを防ぐために逃げ回っているという印象を受けた


「それじゃ回り込んで逃げ道をふさぎましょ、牽制くらいならしてもいいでしょ?」


「ん・・・まぁそれくらいならいいか」


静希達は犯人の逃げ道をふさぐためにゆっくりと移動し続けているその先に回り込むことにする


戦闘区域に入らないように慎重に遠回りしながら恐らく逃げてくるであろう地点へとやってくる


「後藤さん、犯人の逃げ道を塞ぐためにちょっと壁を作りますからそっちの方に追い詰めることはできますか?」


『壁?わかった、何とかやってみるよ、壁を作ったらすぐにその場から退避するんだよ?』


無線の先にいる後藤に向けて連絡をつけると雑音交じりに帰ってくる返事に了解ですと返して鏡花は地面に手をついて集中する


次の瞬間地面に生えている木々が少し動いてゆっくりと巨大な壁が生えてくる


先日のような巨大な範囲での大質量の形状変換のためその速度自体はゆっくりだが確実に湾曲した土の壁が出来上がる


明利と連携して相手の位置を確認しながら確実に追い詰めることのできるように、そしてうまく木々に隠れるように最低限の大きさの壁が出来上がる


「できました!あとはお願いします!少し傾けてありますから一定距離を開けて包囲してください」


『ありがとう、すぐその場から退避してくれ』


後藤の言葉通り静希達はすぐにその壁から離れていく


相手の能力が爆発であるならこの程度の壁は簡単に壊されてしまうかもしれない


だがそれでいいのだ


僅かに傾斜を含んだ湾曲した壁を壊せば犯人の方へと崩れた土が落下してくる

もし相手の能力がその土の落下する範囲外からでも使えるのであれば、それはそれで相手の能力の射程距離を測ることにもなる


壊されても壊されなくてもあの土の壁は十分にその役割を果たすのだ


静希達が壁から逃れて数分後、軍の人間に追い詰められた犯人は壁の方向へと追いつめられてきた


多勢に無勢、この人数差では逃げの一手しか犯人に取れる策はない


能力者戦は数がいればいいというものではない、連携があってこそ人数が活きるのだ


だがこの部隊は連携のレベルがかなり高い、お互いのフォローや攻撃のつなぎが恐ろしいほどに速いのだ


そんな相手にいくら攻撃的な能力を持っているとはいえ能力者一人がいつまでも逃げていられるはずがない


それは例えるなら詰め将棋のようなものだ


相手がどれほど逃げようと、策を講じようと着実に追い詰める、一手一手を誤らない


それは恐らく、後藤の指揮によるものなのだろう


先程から無線の向こうから雑音交じりに次々と指示が飛んでいる


この班の指揮を任される静希からすれば感動すら覚えるほどの采配だ


逃がさないように、傷つけないように、悟られないように、確実に獲物を追い詰めていく


あの若さで部隊の長に任命されている理由が今わかった


指揮能力の高さ、それは部隊の中に必要な力の一つだ


後藤は若輩ながらそれを持っている、自らの仲間を適切に扱えるという意味では静希に似ている部分もあるだろう


いや、指揮能力に関しては静希よりも上かもしれない


現に今のところ部隊に負傷者は出ていない


ただの力押しでは必ず無理が生じて誰かが割を食うことになる


だがそれすらない、こういう局面になれているかのような動きを実感し静希達は戦慄していた


誤字報告が溜まったので複数投稿


なのですがカウントが今のところ9だと思うのですが、いろんなところに報告が来たために少し自信がありません


なので誤字が10個来たってことにして3回分のまとめて投稿です


不安になったら普通より多く投稿してカウントリセット、これなら問題はないと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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