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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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部隊編成

「後藤さん!今すぐに森への探索隊を組織してください!そしてモグラの奇形種と戦闘した部隊へ連絡して、モグラがどこから来たのかを特定してその場所に部隊を配置してもらってください!」


「へ?ど、どうしてまた?」


唐突な静希の言葉に後藤は一瞬面喰っていたが、その発言を邪険にするつもりはないようだった


そして静希の様子に彼をよく知る面々は緊張の色を濃くする


「ここは完全に封鎖されていない!あのモグラの奇形種が森の外から地中を通ってきたなら、そこから通ってここから脱出することもできる!このままじゃ逃げられる!」


「え・・・あぁ!」


そこまで言ってようやく理解したのか、その場にいた人間の全員があのモグラの奇形種の通り道である洞窟状になった穴を思い出す


そして一斉に各方面への連絡と出撃の準備を始めていた


あのモグラはこの森で生まれたのではなく、別の場所から地中を通ってやってきた奇形種だ


つまり静希達が見たあの穴か、またはほかにある穴が森の外のどこかへつながっているということになる


一度森ではなく外部に逃げたと見せかけて森の中へ逃げ、一見してばれる仕掛けで袋の鼠であるように演出し時間をかけてでもいいから穴にたどり着きそこから脱出する


大人数での行動より少人数での突破の方が格段に移動速度も速い、もし道順を完全に覚えられていたのなら一時間から二時間程度で脱出される


恐らく犯人の狙いはそれだろう


そして事前にどの穴が脱出口かの調査も終わっているだろう


いや、より確実に見つけるのなら壁内に侵入してから探すより森の外にある穴から侵入して森にたどり着くほうが楽だ


二十四時間体制で見張られていると言っても穴がある、わざわざその小さな隙間を狙うより誰も使わない、使いそうにない野生の道を通過する


ありえなくはない手だ


事件発生からすでに三十分近く経過している、本当に急がないと手遅れになりかねない


「先生、俺らも捜索に参加します、何か指示かアドバイスを」


静希達が城島の前に並んで彼女の言葉を待っているが、彼らの担任たる城島はどう声をかけたものかと悩んでいるようだった


はっきり言って能力者の犯罪者がかかわっているのであれば学生には危険すぎる内容だ


場所は森、非常に視界も悪く周りにはよく燃える木々ばかり、相手の能力が爆発だとしたら最良とは言えなくてもかなりの好条件だ


先程の軍の人間もそうだが能力者は完全な不意打ちを仕掛けるのが普通だ、そして不意打ちに対してはほとんどの人間はうまく対処できない


今まで静希達は不意打ちをしてきた側だったが今度はされる可能性もある


「本当なら、お前たちはこの場で待機してもらいたいところだ・・・明らかに危険すぎる」


教育者としては犯罪者にかかわらせるのは危険だし、何より相手は相手の生死にかかわらず能力を使っている


殺しても構わないから目標を達成するという、ある程度の覚悟を持っている人間だ


そんな相手に自分の生徒をぶつける訳にはいかない


「・・・まぁ、そんなことを言っていられる状況でもないか・・・」


戦力を遊ばせているような余裕がないのも事実だ


城島はそのことを正しく理解している


このまま静希達が何もしなくてもうまくいけば万事解決するかもしれない、自分たちが動くことで足手まといになるかもしれない


だが何もしないよりはましなのだ


「・・・そうだな・・・戦闘は極力避けろ、追い詰めることより先に生き残ることを優先して動け、負傷することも許さん、いいな?」


「わかりました」


班を代表した班長鏡花が返事を返す


能力者、恐らく発現系統相手に負傷しないで戦う


はっきり言ってきつい注文だ、ただの学生風情の静希達では荷が重い


だからこそ城島はその注文を付けたのだ


万が一にも怪我などしないように、戦闘などさせないように


「それと五十嵐、万が一の時はお前の同居人達の能力の使用を許可する、どういう事かわかっているな?」


「・・・はい」


城島の言葉はつまり、悪魔や神格の力を借りてでもいいから無事に戻れということだ


そしてその力を使ったのなら確実に相手を捕縛しなければいけない


その力の片鱗でもばれたらまずいのだ


普段なら面倒事を起こすなという城島が、面倒事を起こしてもいいから無事に帰れと言っている


それほどこの事態が危険だということを全員が理解した


静希は以前テオドールとの戦闘経験があるが、ほかの三人は自分たちより年上、しかも犯罪に手を染めるような能力者との戦闘はまだ未経験


動物は能力を意図的に使うということはしない、手加減だって存在しない


人間は加減することができる、多少能力での訓練で戦闘することはあっても殺す気などない


だが犯罪者は手加減というものが存在しない、だからこそ危険なのだ


奇形種よりも何よりも、確実に相手を殺すために能力をつかえる


最も恐ろしいのは奇形種ではなく、同じ人間なのだ



静希達は大急ぎで本格的に戦闘を行えるように準備をして外に出ていた


宿舎の外には負傷者を搬送するために救急車が二台、そして増援としてやってきた警察や軍の装甲車がいくつかやってきていた


元より万が一のためにどこかで待機でもしていたのだろうか、非常に早い対応だった


後藤はその中で自分の隊員にあちこち指示を飛ばしていた、自分もこのような事態は初めてだろうにまったく怖気づいていないようだ


人の上に立つ覚悟とそれに負けないカリスマがなければできないことだろう


「後藤さん、森への探索、私たちも参加します」


後藤の指示が一瞬途切れたのを見計らって鏡花がそういうと、後藤は驚愕の表情を作って戦闘準備を終えている全員を視野に収めた


「は!?なにを言っている!学生の出る幕じゃ」


「俺たちは部隊のサポートに回ります、主に露払いを担当して奇形種を遠ざけるだけ、実際に犯人との接触はしないように心がけます、それなら問題ないでしょう?」


まくしたてるように後藤に食って掛かる静希に後藤はわずかに迷っているようだった


静希達の実力は確かだ、奇形種相手であればかなり安定した戦いはできるだろう


戦力に余裕のないこちらとしては少しでも早く相手を追い詰めなければいけない、こういう場合で静希達に協力を要請するのは大人としてどうするべきか迷っているようだった


「負傷したら即時撤退、戦闘しても置いて行ってくれて構いません、それなりの手はあります・・・うまくいけば本隊は奇形種との戦闘を避けて犯人と戦えるかもしれない」


「だが・・・しかし・・・」


自分が悪魔の契約者であることを明かせない時点で説得がかなり厳しいのはわかっていた


ここで部隊を指揮しているのが事情を知っている町崎か鳥海なら楽だったのだが、そう上手くはいかないようだった


「隊長!部隊編成完了しました!いつでも行けます!」


「あ、あぁ!わかった!」


部隊編成を終え、いつでも森の中に侵入できるように準備を終えた部隊の人間が整列している


約三十人にも及ぶ軍人を前にして後藤は今自分が隊長としてどの判断を下すべきか必死に考えているようだった


常識的に考えれば学生を連れていくべきではない


だが状況が状況だ


「連れて行ってやってくれませんか?」


いつの間にか静希達の後ろに立っている城島がそう声をかけると後藤ははっとなって城島を凝視する


「正気ですか?彼らは学生ですよ?」


「こいつらはこいつらで何とかできます、それだけの奴らですよ・・・行軍速度にも影響しないレベルで何とかできる、私が保証します」


城島と後藤は視線を合わせたまま数秒沈黙する


後藤の迷いを含んだ視線と、城島の迷いのない視線が交差し、後藤が視線を離して部隊の方を向く


「全員聞け!隊を大きく五つに分割する!六人一チームで探索!その中に一つ今回の学生の彼らにも加わってもらう!」


後藤の言葉に部隊の人間はわずかに戸惑っているようだった


当然と言えば当然かもしれない、静希達は有能とはいえ学生なのだ


奇形種相手とは危険度のレベルが違う


「彼らは犯人との接触は避け、奇形種の対応にあたってもらう、間違っても戦力として期待するようなことはないように!いいな!」


後藤の決断に、静希達は全員気を引き締める


「君たちにはこれを渡しておく、全員身に着けておいてくれ」


そういって装備の中から予備の無線を静希達に渡す


無線を手慣れた仕草で装着しながらお互いに正常であることを確認すると静希は自分の装備を取り出す


「鏡花、奥の手を出すときに隠すの頼むぞ」


「了解、小さな壁で覆えばいいわね?」


十分だと付け加えて静希はカバンの中から取り出しておいたナイフを武装のない明利と陽太に渡す


「一応持っておけ、陽太には必要ないかもだけど、投擲に使えるだろ、明利は索敵に集中してくれ、犯人の痕跡でもいいから見つけたらすぐに報告してくれ」


「わかった、任せて」


ナイフを自分の腰に装着して集中を高める明利から視線を外して今度は陽太に向ける


「俺とお前で前に出る、盾になって明利の索敵の邪魔をさせないようにするぞ」


「俺はいいけど、お前平気かよ」


「奇形種相手なら時間稼ぎはできる、そうすりゃお前が何とかできるだろ?」


「わーったよ、言っても聞きゃしないからな」


わかってるじゃないかと付け足して静希は最後に城島に視線を移す


自ら危険に身を投じようとしている生徒たちを見てわずかにため息をついた

教師としては止めるべきだ


だがもう止まらない


この目の前にいるバカたちがこうなってしまったら止まらないということを城島は知っている


「まぁ、あれだ、怪我をするな、言うべきことはそれだけだ、せいぜい頑張って来い」


城島らしいぶっきらぼうな言葉に静希達はわずかに苦笑して元気よく返事をする


日曜日なので複数まとめて投稿


諸事情により予約投稿ですので反応が遅れてしまいます、ご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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