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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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犯人の行方

「事は一刻を争います、逃げられたらアウトだ、負傷者二人にはすぐにでも犯人がどこに向かって逃げたのか、犯人の容姿など聞き出さないと」


「わかった、すぐに警察と連携して検問を敷く、それに現場の捜査もしないと・・・あぁもう朝から忙しくなってきたな・・・!」


後藤は焦りながらもどこかへと電話をかけ始めた


頭の回転はそこまで悪くないのだろう、むしろ早い方だ


即座に状況を理解してそれに対する対応を柔軟に取れる、なるほど部隊の人間から信頼されるのも分かる気がする


「陽太、この炎、どう見る?」


炎に関しては静希よりも陽太の方が詳しい、何せ能力を使用すれば彼は炎を体に纏えるのだから


「なんつうか、衝撃主体で炎は特典みたいなもんだな、発現系統の爆発ってところじゃねえか?」


「爆発か・・・ずいぶん派手で隠密には向かない能力者だな、そんなのが誘拐・・・ね」


陽太の考えはそう間違っていないだろうが、どうにも違和感がある


どこかの誰かが誘拐を企てたとしてそんな能力を持っている人間に託すだろうか


自分ならもっと隠密行動向きの人間をよこす


そんなことを考えていると公道へと至る道の方向でまたも爆音が響く


空気の振動とともにあたりに轟音が聞こえ、朝霧の中でも見える黒い煙が上がっている


「まずい!逃げられるか!?すぐに追わないと!」


静希が移動するより早く陽太がその腕を掴んで静希の動きを止めた


「おいなんだよ!急がねえと!」


「待て静希、さっきと音が微妙に違う!」


爆音に関しては槍の練習中に何度も聞いただろう陽太のその聴覚は信頼できる、だがもしあそこに犯人がいたらまんまと取り逃がすことになる


「下手な陽動だな、だが素人とも思えん」


そこにやってきたのは宿舎からやってきた城島だった


彼女もどこかに連絡をしていたようで片手には携帯を持っている


「陽動って・・・あれがですか?」


「能力の無駄打ちに意味はない、でかい爆発を起こして自分があっちに逃げたと思いこませようとしてるんだろうさ・・・」


城島の言い分は筋が通っている


もしほかに安全に脱出できるルートがある場合、片方に時限式の爆弾をセットし囮にして行動できる


そこに頭が回らないとなると少し焦っているのかもしれないと静希は自らを叱責する


「・・・確証は?」


「爆発物の音は耳で覚えている、一発目は能力の、あっちのは人工の爆発の音だ」


軍部にいた城島からすれば爆発音を聞き分けることなど容易ということだろうか、同じように爆音を聞き分けることのできた陽太がすごいとすら思えてくる


後藤の命令で何人かが二度目の爆発の調査へと走る中、静希はその方角を眺めて眉をひそめる


「でも先生、そうなると犯人はどこに逃げたんすか?」


「ふん・・・一応周囲の検問をするように話はついたらしいが・・・負傷者から聞くのが一番手っ取り早いだろうな」


一度戻るぞと告げて数人の部隊の人間を残して静希達は治療を行っている宿舎のロビーへと戻る


一定速度でしか栄養などを注入できないせいで治療にも時間がかかっている様子だったが、先程までの痛ましい姿からは随分と回復しているように見える


炭化しかけていた皮膚は元の人間の色に近くなっているところを見ると、明利のような応急処置レベルの治療ではなく、かなり本格的な治療を行える能力者がいたことになる


「う・・・うぅ・・・ここは・・・」


治療を行っている段階で意識が戻ったようだ、片方の負傷者が何が起こったのかを確認しようと周囲を確認しようとする


「おい、一体何があった?平坂さんはどこに行った?」


部隊の人間があわただしく問い詰めると、負傷者は苦しそうにうめきながら当時の記憶を思い出そうとしていた


「わから・・・ない・・・突然壁の上に誰かがいたと思ったら・・・平坂と俺たちの間に降りてきて・・・気づいたら・・・」


つまり、犯人と思われる人物はわざわざ近くに接近してから爆発を起こしたということだ


危険を顧みず行えるだけの能力なのか、どちらにせよ誘拐されたという可能性がさらに濃厚になったことになる


「その人物は爆発の後どこに向かったかわかりますか?せめて方角だけでも!」


静希が問いかけると、負傷者はわずかに視線を静希に動かして思考し続ける

考えていないと意識が途切れてしまいそうになるのだろう、それだけダメージが大きいことを示している


「壁・・・壁の上に、ロープのような・・・梯子がかけられていたのが、見えた・・・壁の向こうに行ったようにも、見えた・・・」


「壁の向こう・・・?」


逃げた先が道などであれば話は簡単だった


城島の言うように二度目の爆発が陽動だとするのなら彼の見た方角が本命である可能性が高いのに、壁の中に逃げるというのが理解できなかった


この森の壁は全方位完全にふさがれている


わざわざ逃げ場のない方向に逃げるなど考えられない


「それだけわかれば十分だ、ゆっくり休むんだ!」


後藤がそういうと、負傷者の隊員は小さくすみませんと呟いてから意識を喪失した


「警察と関係各所に通達、この森周囲の道路を完全に封鎖、壁の周囲を固めその後に森を徹底的に捜索する!捜索隊は時間をかけても構わないが道路の封鎖は迅速に行え、袋の鼠とはいえ油断するな!」


「了解です!」


何人かの隊員が急いでどこかへと連絡をつけている中、静希は考えを巡らせていた


確かに袋の鼠だ、完全に封鎖されているこの森から出るにはまた壁をよじ登って出ていかなくてはならない


だが何かおかしい


静希がもしあの状況で平坂を誘拐するのなら逃げ場のない、しかも日本有数の危険地帯の森の中になんて逃げない


それに壁の上に誰かが見えたと言っていた


壁に縄梯子がかかっていたという証言が本当だとするなら壁の向こう、樹海の方から犯人は来たのだろうか


殺害が目的ならもっと楽な方法がある、だが死体も見つかっていないことから誘拐したことは明白、そしてわざわざ攫っているということは平坂には生かす意味があるということになる


対象を生かしておきたいのなら逃走ルートを完全に確保した状態で行うのが普通だ


できるなら安全に、早く、確実にさらった対象を搬送できるルートがあるのが好ましい


なのに樹海の中に向かったという証言がある


「隊長、二度目の爆発のあった場所付近でいくつか爆発物の部品らしきものを発見しました、二度目の爆発はフェイクである可能性があります」


二度目の爆発の爆心地に調査に向かっていた部隊の人間がいくつかの機械の部品を持って戻ってくる


ほんのわずかなものではあるが、あたりに建物の少ないこんな場所で爆心地にそんなものがある時点で人工的な爆発であることは明確となった


これで二回目の爆発からほかの道に注意を向けたいという意図がかなり明確になることになる


樹海に逃げたということが明らかになる中で静希は何かが引っ掛かっていた

何か重要なことを忘れている、そんな気がしてならない


ようやく峠を越したのか、少しだけ額から汗をにじませて治療を終えた明利がこちらに戻ってくる


「お疲れ様、早速で悪いけど明利、森の様子ってわかるか?」


「ちょっと静希、明利は疲れてるんだから少しは休ませてあげなさいよ」


治療に集中した段階で明利は多少なりとも消耗しているだろうに、そんなことも分からないほど静希はバカではない


だが今の状況が何かおかしいのはわかる


それが何かをわからない限り安心できないのだ


後藤の言うように袋の鼠で何の心配もなく追いつめられればいいのだが、静希にはどうしてもそのようには考えられない


「大丈夫だよ、まだ森の生き物は眠ってるのもいるし起きてるのもいるけど・・・」


「何か変わったことは?人がいるとか、やたらと生き物が動いてるとか」


先程までの話がまったく頭に入っていないほどに集中していたのだろう、恐らく平坂をさらった犯人が樹海に逃げたということも聞き流していたようだ


状況を大まかに把握したのか、明利は少し集中して索敵する


先日マーキングした部分とはいえあくまで部分的、静希達一行が通った場所しか記されていないために森全域を掌握はできない


だが、少ししてから明利の表情が曇る


「あ・・・昨日行った戦闘跡に動物の死体がある・・・」


「死体?」


「うん・・・焼けてるのかな・・・少し黒ずんでる・・・」


明利の索敵は広範囲に行き渡るがその精度はそこまで高くはない


せいぜいどんな生き物がどんな状況でいるかとか、そこに何かあるかとかその程度しかわからない


焼けているだけではほかの奇形種の仕業かもわからない、さすがに距離もあるから静希達には聞こえなかったのかもしれないために犯人の可能性だってあるが、今はまだ何とも言えない


戦闘跡というと軍とモグラの完全奇形が戦ったあの大きな穴のあったところだなとあの場の光景を思い出していた


大きな道ともとれるあの穴


あれだけの巨体が動いていたかと思うと、本当によく討伐できたものだと思う


あの場所の光景を思い出すと同時にあの時に見たものを思い出していた


魔石や多葉樹、えぐられた岩壁など数々の恐ろしいものが見れた


そうやってあの光景を思い出す中で静希の脳裏にある会話が再生される



『でもなんでわざわざ完全奇形の討伐を?この森じゃ奇形種や完全奇形なんて珍しくないんじゃ・・・』


『いやそれが、どうやら地中から森の中に侵入した奇形種らしくてね、生態系を荒らす可能性があるから討伐したらしいよ』



あの時の何気ないあの会話、戦闘跡で言っていた平坂の言葉


思い出した瞬間に静希は顔色を変えて後藤のもとに向かっていた


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


最近寒くなってまいりました、こたつから出られない今日この頃、みなさんも風邪などにはお気を付けください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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