朝食を終え
食堂に集まって食事を用意してもらい、できる限り口の中に放り込んでいるとそこに城島がやってくる
彼女は別に動くというわけでもないのに随分と早く起きたようだった
「ずいぶんと食うんだな・・・後で胃もたれしても知らんぞ」
静希達は意図的に量を増やしているものの、城島は至って普通の量の食事だ
当然と言えば当然かもしれない、何せ彼女はここにいるのが仕事なのだから
ちなみに朝食は白米、豆腐とわかめの味噌汁、焼き魚、納豆、海苔という純和風のまさに日本の朝食というような内容だ
「食っとかないと力でないっすよ、先生こそ特にすることもないのに何でこんなに早起きなんすか?」
「生徒が起きているのに教師が起きないわけにもいかんだろう、いろいろ面倒なんだよ」
目は覚めて意識もしっかりしているようだがあまり機嫌はよくなさそうだった
こんな朝早くに起きるようなことがあってはそれも致し方なしだろう
「ところで、護衛対象はどうした?姿が見えないようだが・・・よもや寝過ごしていることはあるまいな」
周囲には部隊の人間は何人もいるというのに、肝心の平坂の姿がないことを城島は訝しんでいた
確かに周りがやる気を出して早起きしているのに本人が寝過ごしているのでは笑い話にもならない
「平坂さんならさっき散歩に行くと言ってましたよ、護衛を二名ほど連れていました」
「散歩?また元気な御仁だな・・・私には真似できん」
明利の言葉というのもあり一発で信じた城島は額に手を当て、呆れながらため息をついた
城島からしてもあそこまで行動し続けられる人物は珍しいのか、みそ汁を飲みながら窓から外を眺めていた
その先には朝霧にも似た靄が出ており、あまり視界が良いとは言えない
明るくなってきてはいるが、それでもまだ薄暗いという印象を持った
「そういえば、早朝の森ってどんな感じなんですか?ちょっとイメージできないんですけど」
先日森の中に入った時はとにかく緑の匂いでいっぱいになっていたが、朝のにおいをかいだ時には水の匂いを強く感じた
朝、気温が下がったせいで空気中の水分が霧状に変化しているのだ
朝霧と言われる現象だが、それが森の中にもあるとなると先日以上に視界は悪くなるかもしれない
「早朝だと動物との遭遇は多少は減るが、六時からならすぐに動物達も動き出すだろうな、寝ぼけているような奴もいるだろう・・・視界に関しては九時を超えれば安定してくるだろう、それまでは朝霧のせいでかなり奥の方が見えにくい」
日中でも日の光が遮られてただでさえ視界を確保しにくいのに朝霧のせいでさらに視界が悪くなると思うと気が重くなる
特に陽太はつらい
何せ周囲に水分が大量にあるのだ、本当にわずかとはいえ能力が減衰されるうえに視界まで遮られてしまってはよいことなどない
「となると、午前中は索敵を密に行う必要があるかもね・・・明利の負担が増えるのは避けたいんだけどなぁ・・・」
「私なら大丈夫だよ、真ん中で楽してるからちゃんと仕事はしないと」
楽をしているなどと明利は言ってのけるが、実はこの班の中で一番仕事をしているのは明利なのだ
陣の中心部という比較的安全な地帯で周囲への警戒を五感で行う必要がないとはいえ、常に能力を発動して周囲を索敵し続けるというのはかなりの負担になる
この中で一番体力がないのが明利であるために、できるなら明利の負担を少なくして実習に挑みたいのだが、そううまくいかないのがもどかしい
「事前に索敵できる人に頼んで負担を分散するのも必要かもな、どっちにしろ今日が一番の山になるだろうし」
今日ほとんど一日中動き続けるというのは肉体的にも精神的にもつらい
明日は最後の探索のために精神的にも負担がないが、今日はまだ二日目、これが終わっても明日があるという絶望にも似たスケジュールのために気力をまずもっていかれるのだ
逆に言えば今日を越してしまえば一気に楽になるということでもある
「まぁ夜の行軍に比べればずっと楽だろうさ、真夜中の樹海とか入ると震えてくるぞ?」
恐らくは自身の経験談なのだろう、真夜中の樹海など頼まれたって入りたくない
月の光も期待できないあの森の中でほとんど光源のない状態で動き続ける
ライトの光などはあってないようなものだ、指向性の懐中電灯でも、ランプ式の光源でも照らせる範囲は広くても十メートルあるかないか、障害物がある中ではさらに狭まるだろう
仮に陽太の炎で辺りを照らしたところで陣営全てを覆えるほどに強い光が出せる訳でもない
以前静希達は二回ほど深夜の見張りを行ったが、一回目は月明かりがあたりを照らしてくれていたし、二回目は町の街灯などがあったために完全な闇ではなかった
だがこの森はおそらく完全な闇になるだろう
文明などはいる余地もない完全な自然の一部、人が入って無事でいられる保証はないのだ
そう考えれば楽なのかもしれないなと考えながら全員が食事を終えた瞬間、建物の外から轟音が響き渡り、窓と空気をわずかに振動させあたりに異常を知らせた
何が起こったのか、それを理解するより早く静希達は外を確認しようと立ち上がり窓の方へと駆け寄る




