二日目の朝
午前三時五十分
起床時間の約十分前に静希の携帯がけたたましく鳴り響いて起床するべき時間であることを知らせてくる
ゆっくりと体を起こして耳にアラームを届ける携帯を手に取って現在時刻を確認すると、静希は目をこすりながら大きく欠伸とともに伸びをした
窓から外の様子を確認するが、さすがにまだ朝早いこともあってか辺りは薄暗い
そろそろ夏の暑さも終わりに近づき、日の照る時間も短くなっていくのだ
こんなに早起きしたのはいつ以来だろうかと寝ぼけた頭で考えながら横でまだ寝息を立てている陽太から布団をはぎ取って窓を全開にする
少し寒気漂う空気が部屋の中に入ってくることで陽太も目を覚ましたのか欠伸しながら体を起こして周囲を確認していた
「んああぁぁ・・・もう朝か・・・まだ眠いな・・・」
「俺もそうだよ・・・顔洗いに行くついでに二人のところに行くぞ」
鏡花がいるのなら寝坊するということはないだろうが万が一ということもある
洗面用具をもって近場の水道まで来るとそこにはすでに顔を洗っている女子二人の姿があった
「あら、おはよ、寝坊はしなかったみたいね」
「そっちもな、昨日はよく眠れたか?」
おかげさまでねと返す鏡花のコンディションはそこまで悪いものでもないようだ
あれだけ早くに就寝したとはいえ、しっかりと睡眠時間は確保でき十分に体を休めることはできたようだ
「おや、おはよう」
静希と陽太が顔を洗い始めていると四人の近くを護衛対象の平坂が通りかかった
すでに身支度を終えているのか随分とさっぱりとした顔つきだった
「おはようございます、どこかに行かれるんですか?」
平坂の後ろには二名ほど軍部の人間がおり、彼らが護衛であることがうかがえた
二人ともうろちょろする平坂にわずかながらうんざりしているようでもあるのだが、我儘は今に始まったことでもないらしい
「あぁ、ちょっと森の周辺を散歩しようと思ってね、森には入らないが、一応護衛をつけるように言われてしまって」
「まぁ壁があるとはいっても万全じゃないでしょうから、当然でしょうね、今日もよろしくお願いします」
全員で軽く挨拶をした後、平坂はまたあとでねといってその場から去っていく
その足取りは軽く、自分たちより何倍も年上のようには見えなかった
「よくあれだけ動けるな、興味のあることだと人間あそこまで動けるもんかね」
体力バカである陽太からも感心の言葉が漏れる
確かにまったく警戒などをしていないとはいえ数時間にわたり森の中を動き続けたのにもかかわらずあそこまで動いていられるというのは驚異的だ
先日静希達もほぼ同等の運動量をこなしたはずなのにあそこまで動けるほど元気ではない
「でもやっぱり気になることがあると頑張れるよ?動けるかどうかは人によりけりだと思うけど」
自分もそれなりに経験があるのか、明利はしみじみと先程まで平坂のいた廊下の先に視線を向ける
「まぁ研究職についてる人って変わり者が多いっていうし、どんな人がいても不思議じゃないわね」
確かになと言いながら静希は顔を冷水に浸して意識を一気に覚醒させる
富士山が近いためにこの地域は地下水なども豊富なのだろう、静希達の地元とは全く別の味の水が流れているようだった
水にも味や違いがあるのだと感じたのは初めてだ
水道から出てくる水なのにまったく違う
鮮度というと微妙に表現が違う気がするが、水の澄み具合が別次元だ
そしてまだ暑い時期なのにもかかわらず出てくる水がとても冷たい
こういった恩恵はまさに自然の賜物だろう
「この後って?飯食ってすぐに出るのか?」
「そうね、向こうの準備が終わり次第ってところかしら、早めに食べて軽く準備運動もしたいわね」
「ん・・・こんなに早くにご飯食べられるかな・・・」
「まぁ、食べとかなきゃ力でないだろうから多少無理してでも食っといた方がいいだろうな」
さすがに午前四時過ぎに朝食をとるとなるとかなりつらい
普段なら完全に寝ている時間のために体が食事を受け付けないかもしれない
体の変化に疎い陽太ならまだしも、繊細な明利は急激な状況の変化に追いつけない
とはいっても食べなければ動けなくなるのは確実だ
何せ今日は約十二時間動き続けるのだから
少しでもエネルギーを摂取しておかなければ危険地帯のど真ん中で行動不能になってしまう
「そういや静希、携帯食料とか持ってきてないの?カロリーメイト的な」
「一応いくつか持ってきてはいるけどさ、そこまで期待するなよ?腹持ちがいいだけですぐに腹が膨れるってわけでもないんだから」
万が一の時のために手軽に食べることのできる食料は持ってきているが、あくまで非常食、今回のような長時間行動に必要なだけのエネルギーを補給できるかは怪しい
そうなるとやはり普通の食事で腹を満たすのが最適なのだ




