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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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反省会

「どうだった?」


「結果として、一回につきケーキ一個、回数は五回までという制限で契約を完了しました」


「ふむ・・・まぁ妥当な数字だろうな」


最終手段として五回


二日残っている状況では十分な数値だ


一日二回ペースで使えることにもなるが、もしもの時のために温存しておいた方がいいだろう、この森の中ではいったい何が起こるかわかったものではない


「それじゃあ明日はどういうふうに動くつもりだ?今日と同じか?」


「平坂さんの行きたいところにもよりますけど、今日より部隊の人の負担を減らせればと思います」


「あとはそうですね、交戦時の連携をもう少し早くしたいです、理想としては牽制拘束攻撃止めをほぼ同時にできることですかね」


今日わかったことは、この森の奇形種は普段から命の危機に瀕することが多いためか生存本能が非常に強い


それこそ一秒に満たない隙でも当たり前のように能力を使ってくる


不意打ちして体勢を崩し、混乱しているであろうにもかかわらず落下というわずかな時間の中で能力を使う個体を目にしたことで、静希達の奇形種に対する警戒度はかなり上がっていた


倒せないというわけではない、むしろ今までの戦闘経験から静希達は最も効率よく奇形種を倒すための方法をしっていた


だからこそ万全を期すのだ、万が一にも苦戦するということのないように

可能ならば一撃で、反応すらさせずに葬るのがベストなのである


「ふむ、では各々反省点を考えたうえで明日に向けてイメトレでもしておけ、しっかり体を休めるのも忘れるな」


城島の言葉を受けて全員がわかりましたと声を出す


時計を確認するがまだ夕食には少し早い


とりあえず静希達は自分たちの宛がわれた部屋に戻り、夕食まで体を休めることにした


その日の夕食はこれまた騒がしかった


宿舎にある食堂で部隊の人間と一緒に食事をとったのだが、風呂場と同じような歓迎を受けて四方八方から質問の嵐だ


特に風呂場にいた何人かがほかの隊員にも話をしたらしく、話がややこしいことになったりしていることに辟易した


今まで騒がしかったりうるさい食事風景になれているつもりだったが、こういった騒がしさはまた別だ


人が多いというのもあるが、やはりその中で自分たちに向けられる言葉が多すぎる


聖徳太子じゃないんだからそんなに多くの人間の言葉に耳を傾けるということなどできないというのに、そんなことは完全に無視して部隊の人間は次々と静希達に話を聞こうとするのだから困る


なぜ静希達がこうも注目されるのか


一年生でここに来るということが珍しいというのはわからなくもないが、実際に行動した隊員の話から興味を持ったというのもあるのだろう、それにしても良い意味でひどい夕食だった


「あぁもう、無駄に疲れたわ」


「うん、食べた気がしないよ・・・」


食後、軽いミーティングを行うために女子二人は男子部屋へとやってきていた


部屋は折りたたみながらベッドが複数配置されており、最大四人までここに泊まれるらしい


女子二人は少しだけぐったりしており、疲労の色が増したように思える


周りに気を使い続けるということにあまり慣れていないのだろう、精神的な疲労が蓄積しているようにも見えた


「まぁまぁ、為になる話とかも聞けたからいいじゃんか」


「俺はそんなに疲れなかったけどなぁ」


男子二人はそこまで気にしていないらしく、カバンをあさりながら陽太は着替えを、静希は装備の点検をしていた


この二人はそこまで周囲に気を使うということをしない、というか自然体で話すことができるのが利点だろう


多少状況が変わったくらいではびくともしない


「明日の行動開始は早いからな、これ終わったらさっさと寝るか」


二日目の行動は起床四時の行動開始六時だ


朝食の時間も含めていることを考えるとそれほど余裕があるというわけでもない、しっかりと起きられない場合かなりつらいコンディションのまま行動開始することになってしまうために早めに寝るに越したことはない


「寝るかって言ってもまだ二十一時過ぎたところよ?寝られるかしら・・・」


「あ、鏡花さんも睡眠薬飲めば?静希君に言えば分けてもらえるよ?」


疲れているとはいえさすがにこの時間に寝られるほど鏡花たちは早寝ではない


だからこそだが、こういう時にこそ静希の所持品が役に立つ


「確かにそのほうがいいかもね、静希少し分けてくれる?」


「いいぞ、水に混ぜておくから眠る前に飲め」


自販機で買っておいた水に睡眠薬を溶かして渡し、役目を終えた睡眠薬をカバンの中にしまっておく


手っ取り早くもあるが、こうやって毎回睡眠薬を持ち歩いているあたりさすが収納系統、準備は抜かりないということだろうか


「さて、それじゃ軽く今日の反省点やら明日の目標やら決めていきましょうか」


今日の締めくくりの軽い総括として鏡花の声が静希達の耳に届く


実際今日は初日にしてはうまく動けた方だという


これは部隊の人間からの評価だが、静希達からすればその評価はあまり正しくない


「それじゃなにかある?ないなら私から言っちゃうけど」


「あ、そんじゃ俺から、あのまま進むのはいいんだけどさ、ずっと前方に気を張っておくのってきついからもう少し索敵の間隔狭くして欲しい」


今回は定期的に進行方向に明利の種を蒔き、危険を察知したら方向を変えるか待機ということを繰り返していたが、明利の種の残量のことを考えて少しその間隔を長めに設定していたのだ


その分陽太の負担が増えたわけで、極度の緊張を強いていたことだろう


「それじゃ、明日はもう少し短くしましょうか、他にはある?」


「じゃ、じゃあ私から、あの、教授の歩き方についてなんだけど、フィールドワークとかで慣れてるみたいだったけど、やっぱり歳のせいか勾配が激しかったり障害物があるとつらいみたいだから軽く均してくれるとうれしい・・・と、思う」


今回もできる限り平坦な道を選択したつもりなのだが、やはりデータと実物は違うということだ


そこにある障害物まではデータなどで把握しようがなく、それを越えるために労力を払うのも憚られる


「なら私と陽太でできる限り障害物とかはなんとかするわ、静希はなんかない?」


「俺からは特には、ルートの見直しと平坂さんをもう少しおとなしくさせられればってところかな」


毎日の日課になりつつある装備の清掃をしながら静希は自分の腰につける用のナイフの研ぎ具合をチェックしながら刃こぼれなどがないかを入念にチェックする


今日は主に木々を払うなどでしか使用しなかったが、それでも必ず点検をするのが当然なのだ


「まぁ、あの人が動くのを守るのが今回の仕事だからそっちはあきらめなさい」


平坂が自由に動くのを阻害してしまってはそれこそ今回の実習の本質から外れている


研究にどんなものが必要なのかもわからないがそれでも彼を護衛するのが今回の任務だ


自由気ままに動く対象を完全に守護できてこその護衛


今回も自分たちだけではなく軍部の人間もいるためにそれほど辛くはない、何もやることがないというわけでもないために時間が過ぎるのも早く感じる

行先が危険地帯でなければそれこそもっと楽だっただろうにと、その点が悔やまれる


「鏡花さんは?なにかないの?」


「ん、あるにはあるわね、一応決めておこうと思って、最終手段の獣除けについて」


先に城島のところでも出ていたメフィを用いた簡易型の獣除け


はっきり言ってこれがあるかどうかで今回の実習の難易度が天と地ほどにも変わってくるのだ


「決めるって何を?」


「使用条件よ、先生は緊急事態のみって言ってたけど、もっと厳格に決めておくべきだと思うのよ、それこそばれたら終わりだからね」


終わるのは私たちじゃなく悪魔と契約している静希だけどねと付け足して鏡花はわずかに息を吐く


面倒事の種になっている存在を許容している時点で多少の苦労はすでに慣れっこだ、この程度のことなら何の問題もない


慣れとは本当に恐ろしいものである


「ならあれだよ、大量の奇形種に囲まれるってのはどうだ?明らかにやばいだろ」


「んん、確かにやばそうだけど、何匹にする?多少であれば部隊の人が何とかしてくれるだろうし・・・」


「最低でも前後左右・・・四、いや五匹、それ以上に囲まれたら使用ってのはどうだ?」


能力戦において相手の数が多ければ多いほどに危険度は増す


今回の相手は連携などあまり好まない動物であるとはいえ、戦闘によって陣形が崩れるというのはもっとも避けるべき状態だ


今回の目的は殲滅ではなく護衛、その所は念頭に入れておくべきだろう


「オッケー、使用条件その一、同時に五匹以上の奇形種との接触時、ほかはどうする?」


「明利や部隊の人間では治せないくらいの重傷を誰かが負った場合はどうだ?先生も言ってたけど、応急処置だけじゃ何とかならんだろうし」


明利が行える応急処置には限度がある


そして治療が行える能力者にもある程度限度というものが存在する


種類にもよるがそのほとんどが応急処置程度の物であり、どんな怪我でも完治させられるだけの能力を保持しているものもいるが、それは本当にごく一部だ


この部隊に都合よくそんな能力者がいるはずもない、もし重傷を負ったのであれば即座に治療の行える付近の病院に搬送するべきだ


「それじゃ使用条件その二、治療不可能な重傷者が出た場合っと・・・他は?」


「あの、私たちじゃ勝てないような相手、または護衛しきれないと判断するような相手と接触した場合はどうかな」


「っていうと、例えば完全奇形みたいなのに遭遇した場合ってことね?」


鏡花の返しに明利はそういう事とうなずく


前提として平坂を守るために行動しているのに、勝てるかどうかも怪しい相手と戦うほど静希達はバカではない


だが以前完全奇形が出没しているという以上、その状況が訪れないとも限らない


もしそういった存在に出くわしたのなら確実に平坂を守るためにメフィを出すのは至って普通だと思う


「よしよし、使用条件その三、強大な相手との遭遇時っと・・・これくらいかしら?」


一通り案が出たところで鏡花はまとめに入る


実際に切り札を使う時は思い切って使わなければいけない、それこそ使用時に迷っていてはかえって危ないこともある


思い切りの良さというのも実は結構大事なのだ


「私からは以上よ、他に何かないなら今日はお開きにするけど?」


班員を見渡してそれ以上何もないことを確認して鏡花は軽く手をたたく


「それじゃ今日はここまで、各自ゆっくり体を休めること、明日の起床は午前四時、遅れずに起きること、以上」


鏡花のまとめを終えたところで挨拶もほどほどに二人は部屋に戻り、静希達も就寝することになる


こうして最高難易度に振り分けられた実習の一日目が終了する


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


寝坊してしまった・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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