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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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感想と交渉

「ふむ、では前衛の響、お前はどうだった?」


後衛にいた明利から今度は一番前にいた陽太へと視線を移す


今回隊を率いて先頭にいた陽太が、この中で最も多くのものを見た人間と言っていいだろう


それなりに見えたものが多かったのではないかというのが城島の考えのようだった


「んと・・・俺は凄く暗かったってのが印象的です」


「暗かった・・・か」


暗い


確かにたくさん木が生えて日光が入りにくい森の中では暗く感じるのも無理はないが、陽太が言っているのはそれだけではないようだった


「その、どういったらいいのかわかんないんすけど、俺が能力使って明るくしても暗いんすよ、先が見えなくて、見える範囲狭くて、圧迫感みたいなのがあってすごくやりにくかったっす」


それは物理的な視界障害の影響も含めての感想だったのだろう


目の前に陽太が見えた静希と鏡花はそこまでの圧迫感はなかった


だが前に誰もいない、木しかなく、ほかに何も見えない状況では陽太への心的圧力はかなり強いものだっただろう


雪奈の班の前衛藤岡も同じように森や山での暗さについて述べていたが、恐らくその状況をほぼ正しい形で陽太は経験したのだろう


一寸先、とまではいわないが数メートル先に何があるのか目で見えない

これはかなりの恐怖だ


普段何も考えずに突っ込むことのできる陽太でもそれが長時間続けば強い負荷になるということなのだろう


「では進行を指示していた二人、何かあるか?」


後衛前衛と来て今度は中衛の二人に城島の質問が飛んでくる


まずは自分が行こうと鏡花に目くばせして静希が先に口を開いた


「今回俺と鏡花は進行方向の決定と陣展開の号令とかしてたんですけど、この規模の人数を動かすのがここまで難しいとは思いませんでした」


「ふむ・・・当然だな」


今回移動した人数は十五人、規模にして一個小隊をはるかに超える人数だ


今まで静希が指揮してきた人数は多くても六人程度、人数が倍以上になるとそれに伴う苦労が四倍近く跳ね上がる


人数が多い分、移動速度は落ちる、陣を維持するためにある程度地形にも気を使わなければいけない、進行方向を変えることで両翼の進行速度を変更しなくてはいけない


などなど、あげればきりがない


「できるなら、もう少し移動時の陣の維持を効率化したいですね、そうすれば移動速度も伸びると思うんですけど・・・」


特に静希が気を使ったのは左右後方の防衛体制が崩れないようにしたことだ


多少地形の荒れた場所や急に方向を変換するとどうしても移動などで注意が散漫になってしまうことがある


そこを後方の人間や前方にいる自分たちが索敵範囲を広げることで補っていたのだが、あの方法がベストとは思えない


個人的な技能や能力はある程度夏休みのうちに教えてもらうことができたが、こういった大人数を動かすことに関しての鍛錬は全く行ったことがないために完全な未知の世界だ


自分の中では及第点には程遠い


「まぁ、お前はその技能を修めておいた方がいいかもな、今回の実習で自分なりに模索するといい、次、清水はどうだ?」


「私は、今回とにかく陽太をすぐにフォローできるように前に集中してたんですけど、やっぱり地形が荒れてるとすごく歩きにくかったり移動しにくかったりするのが進行速度を落としてると思うんです、途中から能力使って地面を歩きやすいようにしたりしてたんですけど、個人じゃ限界があるし・・・」


いくら鏡花と言っても歩き続けながら高度な能力を発動し続けられるほどの能力操作はできない


せいぜい形状変換まで、しかもその効果範囲もかなり狭まる


特に鏡花の場合能力を発動する物質に体のどの部分でもいいから間接的にでも触れておく必要がある


歩きながら能力を発動するというのは簡単に聞こえるが変換能力者にとってはかなりの難題なのだ


「確かに行軍速度はその地形によって大きく変わる、お前のような変換能力者はそういったところで活躍するのも仕事のうちだな」


「はい、でも歩きながらだとどうしても仕事がおざなりになるし・・・いちいち止まってやってたらそれはそれで進行速度遅くなっちゃうし・・・」


進行速度を上げようとして止まっているのでは本末転倒だ、一度止まると動き続ける以上に進行が遅くなることになる


「そうだな・・・この場合の地形改善は最低限のものでいい、完璧を求めるお前の気持ちも分かるがある程度歩きやすさだけを確保していれば問題ないんだ、時には妥協が必要だということも覚えておけ」


「・・・はい」


鏡花は基本完璧主義者だ


一度やりかけたものならどんなものでもできるようになるのが、そしてできるようにするのが主義でもある


だからこそ陽太の指導などというほかの教員なら匙を投げるようなことも可能にしている


だが常に完璧を求めることと、常に最善を尽くすことは違う


この場合はその完璧主義を抑えてでも最大限の完璧より最低限の適当を尽くすことが最善となりえるのだ


「さて、ほかに何か思ったことはあるか?」


城島も静希達が貴重な経験をしたことをうれしく思っているのか少しだけ機嫌がいいようにも見える


教え子が成長する姿というのはやはり教師としては嬉しいのだろう


「あの、じゃあひとつ」


鏡花が手を上げて一瞬静希を見る


「私たちの最初の実習で山に生き物がいなかったように、静希の同居人を呼び出して森の奇形種を一時的に排除するのはありですか?」


同居人、悪魔のことを明言しない鏡花の言葉の意味をすぐに察知して静希と城島は眉をひそめる


最初の実習、静希達が向かった牧崎村の近くの山には生き物が一匹もいなかった


それはあの山に潜んでいたエルフの体に宿っていた悪魔メフィストフェレスを本能的に恐れたため山から逃げたのだと思われる


今回、というか今までトランプの中にいる状態では動物たちでは感知できないのだろう、特に異変はない


だが一瞬でもメフィを外に出せば奇形種は警戒して外に出るのをやめるかもしれない、鏡花はそう考えたのだろう


「獣除けにあいつを使う・・・か・・・悪い手ではないが、その代わりに五十嵐の立場が公的なものになるかもな」


「そ、そこはまぁ・・・その、見えないように工夫するとかして・・・」


確かに鏡花の能力を併用すればメフィを出した瞬間に壁でも作れば周りの人間には何が起こっているかなどわからないだろう


ばれる心配がないのであればむやみな戦闘を避けることができるかもしれない、確かに悪くはない手だ


「というか、どうなんだ?同居人としてはその扱いは許容されるものか?」


城島の問いに静希は意識をトランプの中に向ける


『ということだけど、メフィはどうだ?獣除け扱い』


先程までの会話も聞いていたであろうメフィに意識を飛ばすと、メフィは何やら悩みながら唸っていた


『んー・・・まぁ別に私が何かするってわけじゃないから対価はいらないけど・・・あんまりいい気はしないわね・・・頼りにされるのは悪くないけど・・・なんか雑に扱われてる感じ』


メフィの中ではどうやら正式にお願いされるのと違って、出してしまってを繰り返すような雑な扱いを受けることは嫌なように思っているようだった


確かに本人は何もする必要はないが、ただ出ることに意味があるのだと言われて玄関先に何度も強制的に連れてこられるのはあまりいい気持ちはしないというものだ


「なんかあまり乗り気じゃないみたいですよ」


「そう、いい手だと思ったんだけどな」


奇形種との戦闘を避けたい一同からすればこれがうまくいけばそれなり以上に今回の実習が楽になったのだが、こうなってしまってはしょうがないというものである


何せ相手は気まぐれな悪魔なのだ


「でももし・・・あの人が協力してくれるとして、奇形種が巣に隠れないでフェンスとかを越えようとしたらどうするの?逃げ場のある山と違ってこの森は閉鎖されてるけど」


「あぁそっか、逃げようにもあの森じゃ逃げ場ねえもんな」


明利と陽太の言葉に鏡花はさらに頭を抱える


以前の山では逃げ場の豊富な山だったために逃げることは容易だっただろうが、今回の森は軍によって完全に封鎖されている、頑強なフェンスと壁に覆われているとはいえその外周部に大量の奇形種が命の危険を覚えた状態でやってきてはそれももつかわからない


「だがそうだな・・・最終手段くらいには考えておけ、もし護衛対象が応急処置では間に合わないような重傷を負ってすぐにでも戻らなければならない状況か、進行速度が何よりも優先される場合のみ使える手にしておくのはいいんじゃないか?正当な報酬が出れば同居人も悪い顔はしないだろう?」


『と言ってるけど、どうだ?』


城島の視線が静希に向いたとたんにトランプの中のメフィに声をかける


するとメフィはまだ少し悩んでいるような声を出した


『なんだかなぁ・・・ちゃんとしたお願いで何もしないで報酬がもらえるのは嬉しいけど、なんかやりがいないわよ、ただ出てくるだけでしょ?退屈じゃない』


今までのように何かしてくれるように頼むのであればまだしも、ただ姿を現すというお願いにメフィ自身あまり納得できていないようだった


ある意味当然かもしれない、自分の実力や能力を頼りにしてくれるのならいいのだが、ただ出てくれればいいと言われると自分の存在をいいように利用されているように感じてしまうのだ


少しだけその気持ちがわかる静希としてもこのお願いは非常に心苦しかった


静希も悪魔の契約者として正しい評価をされずに悪魔の力だけを求められたことがあるだけに、あまりいい気持ちはしていない


だが必要であるならそれをしなくてはいけないというのも事実なのだ


『そうね・・・一回につきケーキ一個、回数は五回まで、それで手をうつわ』


『・・・悪いな』


いいわよ、シズキのためだものねとわずかに微笑んだメフィとの意思の疎通を終了する


悪魔としても頼られ方の好みにもいろいろあるのだろう、メフィの場合今回のような頼みは好みではなかったということだ


日間ランキングの268位になっていた(らしい)のでお祝い?として複数投稿


とは言っても確認していない上にどれくらいすごいことなのか全く理解できていません


でも物語が加速するからそれでいいかと思っています


これからもお楽しみいただければ幸いです

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