悪魔へのパフォーマンス
静希は立ちあがり荒く息をついてスペードのクイーンを取り出す
「あら、今度は何をしてくれるのかしら?」
「とんでもないドッキリをしてやるよ」
「それは楽しみね」
悪魔の周囲に光の玉が具現し始める
先ほどの衝撃はあの能力によるものか、どちらにせよ当たるわけにはいかない
陽太が先行し、その後に静希が続く
陽太に向け光弾がいくつも放たれるが、陽太の今の強化状態にダメージを与えることはできるものの、突進を止めるまでには至らない
完全に接近し、飛び越えながらメフィストフェレスの肩口をその爪で思い切り薙ぐがその体にダメージはない、だがそれが目的ではない
ここまで接近すれば、もう避けられない
静希はカードを悪魔の顔に張り付ける
「今だ!」
掛け声とともに土が変形し悪魔をドーム状に閉じ込める、そして即座に構造変換、脆く弱い土を頑丈な鋼へと変換する
「これが策?」
「俺の切り札だ、ゆっくり味わえ!」
指をならすとカードの中に封じられていた物が一気に噴き出す
それは気体、見ることはできない、だが悪魔は肌でその物質を感じ取っていた
「これは・・・」
「硫化水素だ、物質がなかろうと、重さがなかろうと、呼吸して生きてる限り、こいつが毒にならない奴はそういない」
硫化水素、中学生が理科の授業でも使う程度の物と思われているが、実際その毒性は非常に高い
空気中に0.1%程度の濃度で存在すれば人間なら即死するほどの猛毒
その猛毒の環境でも問題なく生きていられる細菌はこの世に確かに存在する
だが哺乳動物、人型や四足歩行を行う生き物で硫化水素を耐えられる生物は確認できていない
無論静希は一般人だ、純度の高い硫化水素は作り出せない
だが静希は長時間かけて五百グラム精製し、鏡花の作りだした狭い密閉空間に全て解き放った
なりふり構っていられないとはいえ、人も動物も死に絶えることは確実のまさに『切札』
カードを手元に戻し、苦い顔をして静希は腰を下ろしため息をつく
大きく息をつき終わった瞬間、目の前の鋼のドームが切断され、中から悠々と悪魔が現れる
「シズキ、あなたはすごいわ、思い切りもいいし頭も切れる、状況判断も早いし何より恐ろしいほど的確、きっと将来すごい能力者になる、私が保証してあげるわ」
にっこりと笑うその顔はそんな将来は来させないと雄弁に語っていた
「あぁそうそう、あの硫化水素、消しちゃったから、息を止めなくても大丈夫よ?」
必死に息を止めている静希達を見て、悪魔はけらけらと笑う
消しちゃった?消した?どういうことなのか分からず三人は混乱する
「どういうことだ、お前の能力はあの光の弾丸じゃないのか?なんで気体を消すなんて芸当ができる!?」
今まで悪魔が使用した能力からも、成功確率は高かったはずなのに、目の前の悪魔は平然としている、静希が能力を誤って認識しているとでも言いたげだった
「そうね、私を倒せたら能力について教えてあげる」
つまり、教える気はないということだ
だが絶望するにはまだ早い、陽太の攻撃は当たるのだ
ダメージがあるかは分からないが、どんな能力を保持しているのかも振り出しだが、まだ戦える、そもそも自分達の今の戦いは時間稼ぎが目的なのだ
精々強かに足掻こうではないかと静希は逆に開き直れた
どうやら陽太も同じ気持ちだったようで士気高揚とし、炎による強化を強めていた
だが対照的に鏡花は絶望感に打ちひしがれてしまっているのか、座った状態から動けずにいた
無理もない、人知を越えた存在が訳もわからぬ能力を使い、一撃で監査員さえも戦闘不能にさせてるのだ、絶望しない方がおかしいだろう
「陽太!いくぞ!スペード3!」
「おぉぉぉぉ!」
掛け声とともに陽太は接敵、静希は鏡花を連れて木陰に逃げ込む
さすがに馬鹿のように喰らうわけでなく、光弾により攻撃をするが陽太は止まらない
拳を捕まえ押し合いの力比べの状態になる
「私と力比べする気?」
「大人の女は好みだけど、力で負けるわけにはいかないなああ!」
炎を高めて力をあげるが悪魔の手はびくともしない
「おおぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!」
雄叫びとともに力をあげていっても、強化し続けてもまったく動かない
炎によるダメージも期待できず、逆に陽太が力で負けている
「あらあら、ここまで?」
「あぁ!ここまでだな!」
「っ!」
悪魔と陽太の間にカードが現れる、それはスペードの3
「スペシャルキャンドルサービス入りまァす!」
トランプの中身が解放されると同時に陽太と悪魔の間を中心に轟音とともに爆発が起こる
陽太は衝撃で少々後方に弾き飛ばされるも、ほぼ無傷
炎によるダメージはゼロ、衝撃も炎の強化状態にはほぼ無効
だが陽太が無効である以上、悪魔にも有効とは言えないだろう
「あっはっはっは、あなた達すごいわ、よくそんなにポンポンと新しい攻撃ができるわね」
「お褒めに預かり光栄だよ」
「次は何をしてくれるのか楽しみだわ」
明らかに楽しんでいる、この悪魔にとって自分達の攻撃はどうやらパフォーマンスでしかないようだ




