表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

488/1032

樹海探索

死体を回収し、進路を正しく修正し、数十分の行軍を挟んで静希達は目的地である二か所目の奇形種との戦闘跡にたどり着いた


なんでも奇形種の死体も調査対象になるということですべて回収しなくてはいけないのだ


自分たちが殺した生き物を運ばなくてはいけないとなると気が重くなる


特に今運んでいる二つの死体がかなりグロテスクな外見をしているというのがさらに精神的な疲労を誘発させる


なにせ足の大量に生えた蛇と昆虫のような四肢と顔を持つ獣なのだ、見ていたいと思う人間は本当に限られているだろう


幾つか奇形種の実物は見たことがあるが、ここまで不快な外見をしているのはイギリスの孤島で見たあの奇形種以来だろう


静希達がたどり着いた奇形種の戦闘跡は倒木がそこまでひどくなく、まだ森としての原形をとどめているようだった


だがそれでも傷ついた木や荒れた地面が目立つ


そして一か所目と同じように巨大な穴が開いているのを見つけることができる


どうやらここも土竜の奇形種との戦闘跡らしい


またこの場所を活動の一時拠点として部隊がまばらに広がりながら周囲を索敵できるように明利が徹底的にマーキングを施していく


こういう時に明利の能力は本領を発揮する


周りはすべて生き物で満ちているために同調できる対象には困らない


常にマーキングを続けているために迷うこともない、これほど森の活動に適した能力者もそういないだろう


「さすがにこうも連続して接触されたんじゃきついわね、このまま続くんじゃいつか目を回すわよ・・・」


「確かにな、ずっと集中してなきゃいけないってのも結構疲れるし、さすが軍にいる人は慣れてるんだろうな、全然顔色変えねえよ・・・つーか明利は平気なのか?ずっと能力使ってるみたいだけどさ」


「うん、動きがゆっくりだから体力も温存できてるし、まだまだいけるよ」


「ランニングの効果ありってところか、毎日あれだけ走ってるからな」


四人も少し体を休めながら右往左往する平坂について常に護衛をし続ける


ただ歩くだけで、索敵網の外への警戒はほかの部隊の人間がやってくれているからずいぶん楽をできている


当初最前列は最も危険だと思ったのだが、実際はそうでもない


むしろ一番危険なのは左右と後方に位置する人間だ


進行方向に対してのみ警戒していればいい最前列と違い、左右後の人員が確認しなければいけない範囲は広い


しかも先頭を率いているのは静希達学生だ、そちらのフォローもしなくてはいけないのだからここにいられるというのは本当に好待遇なのだ


神経をすり減らしながら警戒と連携、そして注意の三つを同時にこなし続けているのだ


この危険地帯でそれだけのことをしているだけに本当に頭が下がる


戦闘跡の探索を始めて数十分、今回は運良く奇形種が接近してくる様子もなく滞りなく調査は終了し、静希達はまた移動を開始する


すでに時間は三時を回っている


この森に入ってからまだ数時間だというのに、かなりの疲労感がある


そしてそれはまったく警戒などを行っていない平坂も同様らしい、さすがに数時間歩いていれば疲れもする


「次はどこに行きますか?」


「そうだね・・・次で最後にしようか、次が最後の奇形種の戦闘跡だよ、奇形種を仕留めた場所だね」


三か所、つまり軍は完全奇形のモグラを三回の接触で仕留めたということになる


地中を自由に動き回れるだろう相手に対して三回というのは恐ろしい数値だと実感する


一度完全奇形と対峙している静希達だからこそそのすごさがわかる


以前対峙したザリガニは巣の場所がわかり、なおかつ行動範囲が川辺に限られていたからこそ二度の接触で倒すことができた


だがモグラのようにどこに行くのかもわからず、地中にいつでも逃げられる相手を三回で仕留めるというのはかなり難しい


ただの動物であるならば問題ないが、相手が奇形種であるということがネックだ


未知の能力相手にそれだけ戦えるという軍の練度の高さがうかがえる数値でもある


距離と現在時間を見積もって、確かにこれが最後になりそうだ、この後移動して目的地に着くのに数十分~一時間、そしてそこから入ってきたゲートに戻るのに一時間から二時間


終了時刻を十八時とするならそろそろデッドラインに近づいているのだ


鏡花と話し合ってルートを決定し、その通りに行軍するも、奇形種との遭遇十数回、戦闘を一回、また一つ奇形種の死体が増え、平坂は満足顔だったがそれを仕留める静希達の表情は浮かない


何が楽しくて生き物を殺さなくてはいけないのか


極力戦闘は避けるようにしているのに、どうしても血気盛んな奇形種もいるらしい、陽太の威嚇でほとんどの動物は逃げるのにたまにそれでも向かってくる連中が存在するのだ


当然と言えば当然かもしれない、こちらは武装していてもそんなことは向こうにはわからない、それに大量にいるということはそれだけ餌がたくさんあるということでもある


特に今まで襲い掛かってきた三匹は肉食であるだろう生き物ばかりだ


どれもグロテスクな外見をしているが内臓部分まで奇形は至っていないのだろう、捕食対象までは変わっていないようだった


つまり彼らにとっての判断基準は敵か餌か、その違いだけのようだった


「ここで最後か・・・すごいとこだな・・・」


三か所目にたどり着いたところにはなぎ倒された木々はない、だが一帯の木々がほとんど枯れているのだ


本来葉を茂らせるはずの木の枝は一枚の葉もつけておらず、木の幹も瑞々しさをなくし乾いてしまっている


周りが自然豊かなだけにかなり異様な光景だった


そしてその中心にまた巨大な穴がある


恐らくは最後の抵抗で能力を発動したのだろう、新しく生える雑草以外ほとんどの植物がそこで死滅してしまっているようだった


「順序的には、二回目、一回目、そしてここの順で接触したらしいよ、一度目は同調だけで精いっぱいだったらしいね」


どうやら当時の軍に明利と同じように生き物と同調できる能力者がいたようだ、だがそうすると事実上二回の戦闘で完全奇形を打倒したということになる


この移動しにくい森の中でそれだけの早さで討伐できるのはさすがとしか言いようがない


「でもなんでわざわざ完全奇形の討伐を?この森じゃ奇形種や完全奇形なんて珍しくないんじゃ・・・」


「いやそれが、どうやら地中から森の中に侵入した奇形種らしくてね、生態系を荒らす可能性があるから討伐したらしいよ」


なるほど、周囲を壁とフェンスで囲っていても地下ならば越えることは容易だ


どういう経緯かは知らないが外からこの森の中に入ってしまったのだろう、運のないモグラだ


「静希君、あれ」


「ん?・・・おぉ!?」


すでにマーキングを終了し、周囲を能力での索敵下に置いた明利が指差す先には一本だけ青々とした葉を茂らせている木があった


だがその葉が問題だ


一本の木なのにもかかわらず多様な種類の葉をつけている


「おぉ、あれは多葉樹じゃないか、ここにあるということは天然ものだね!」


恐らく奇形種の能力から身を守れるだけの能力を有していたのだろう、周りの木々が完全にかれていなければ気づけなかったかもしれない


平坂がうれしそうに接近するのについていき、その幹の近くにやってくる


明利の家の庭にあるのより何倍も大きく、しっかりとした幹を持った多葉樹だ


それだけ長い間この場所に鎮座していたことがわかる


「ずいぶん立派だなぁ・・・明利んちのもこんくらいになるんかね」


「ここまでできるくらい私が長生きできるかなぁ・・・」


陽太の言葉に明利は苦笑してしまう


木の成長というのは非常に遅い、それこそ何百年もかかって成長するものがほとんどだ


その成長速度は種類によって変わるが、植物の奇形種である多葉樹がどれほどの速度でこれほどの大きさになるかはまったくわからない


「できるならこれを持って帰りたいが・・・さすがにそれは無理かなぁ・・・」


「平坂さん、あまり無理を言わないでください・・・見るに鳥の巣みたいなのもできてますし、このままにしておいた方がいいですよ」


鏡花の言葉に全員が枝部分を注視すると、そこには確かに鳥の巣のようなものができており、時折鳥たちが枝に止まっているのも確認できる


さすがに生き物の住処を奪ってまでここから運ぶという気も起きないのか、平坂は残念だなぁと呟きながら写真をいくつか撮るのにとどめていた


「サンプルってことで削ったりしないんすね」


「んん、そうしたいのは山々だけどね、植物の奇形種の能力発生条件がまだわからないんだよ、ここで下手なことをして能力を使われるのは厄介だから、次来た時にしっかり機材を運んでから実験することにするよ」


この辺りはさすが奇形種の研究者というべきだろうか、超えていいラインといけないラインをしっかりと把握できている


自らが危険になるようなことはしないということだろう、それにしてももう少し自重して動いてくれるとありがたいのだが


そして奇形種を仕留めたと思われる場所を集中的に探索するのだが、どうやら今回はほかの場所と比べてあまり収穫はないようだったその場に残った死体もすでに回収されており、唯一残っているのは奇形種が能力を使ったと思われるその痕跡だけだ


まるで型どりでもしたかのようにぽっかりと、その場所だけ雑草すら生えない場所がある


そこに死体があったということが明白になるのだが、どうやったらこんな跡が残るのか不思議でしょうがない


「明利、こういう状況になるのって、どういう場合なんだ?」


この中で一番植物のことに詳しい明利に話を聞くと、明利は地面に手を付けて不毛の土地を軽くつかんでみる


「ん・・・この辺り栄養価がすごく悪いんじゃないかな・・・というか全然ない・・・これじゃ雑草が生えてもすぐに枯れちゃうと思うよ」


「栄養か・・・その土地の栄養を吸い取るような能力だったのかな」


吸収というとイメージしにくいかもしれない、この場合の能力の部類は変換系統なのだ


周囲に存在する栄養素となりえる物体を自身の周囲に集め、体内に取り込んでから自らの栄養へと変換する


土に含まれる栄養だけではなく木自身の栄養もすべて持って行ったのだろう、だからこそこれだけ多くの木が一様に枯れてしまっているのだ


変換というとどうしても物体のみに作用するように思われがちだが、例外として人体や生物などへの変換が可能な例も確認できている


それらの能力は主に医術方面で活躍を見せることになっている


治療可能な段階を超えた重症患者に対して生体変換の可能な能力者の医者がかりだされるのはそう珍しい話ではない


だがこれほど広範囲の土壌の栄養素をすべて吸収しきるほどに強力な能力をつかえるというのは前例がないだろう


さすがは完全奇形といったところだろうか、能力の出力が桁違いだ


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


変換のチェックを主に行うようにしています、少しでも誤字が少なくなれば・・・



これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ