奇形種との連戦
隊全体に緊張が走る中、陽太が接近するその影をとらえる
足に力をためて急接近するのと同時に静希と鏡花が動いた
陽太の意識が向いた方向に瞬時に視線を向け、鏡花は障害物を地面の中に取り込んでいく
無論そこまで速さがあるわけではないために簡単に奇形種は逃れていた
だがそれだけ速く移動しているために倒木や岩が地面の中に吸い込まれていくのから逃れるその奇形種を静希の目が正確にとらえていた
明利と陽太の言うように、その蛇にはたくさんの足があった
胴体は直径八センチほどだろうか、長さは三メートルにも及びそうな蛇としてはかなり大きい部類になるだろう
だが問題は足である
まるでムカデのように等間隔で生えたトカゲのような足が体をうねらせるごとに動いて高速での移動を可能にしていた
静希に遅れて鏡花もその姿を確認して顔をしかめているがそんな暇はない
陽太が接近することで危険と判断したのか更なる障害物に身をひそめようとまだ取り込まれていない地面に向かって直進していた
だがここで静希の能力が発動する
蛇の動きの最も少ない胴体中心部にめがけ数本の釘が一斉に襲い掛かりそれ以上の進行を防いだ
それと同時に鏡花が完全にその体を変換して作った手で掴み拘束する
そして蛇がそれ以上の反応を行う前に蛇の頭部めがけ陽太の拳が振り下ろされた
生き物の焼ける匂いがあたりに立ち込める中、陽太は仕留めたことを確認してその蛇を掴んで静希達の元へと戻る
「絶命確認、明利、もう一匹はどれくらいの位置にいる?」
「ここから二十メートルくらいの位置、こっちに来てる・・・結構速い・・・」
明利の言葉に鏡花はすぐさま隊に指示を送って奇形種に対して自分たちが正面に立てるように陣形を整える
速く動いているなら発見は容易そうだなと思いながらも静希も陽太も警戒を緩めない
どんな奇形種がいるのかもわからないのだ、当然かもしれないが、木々の向こうに映るその姿を見て全員が息をのむ
それは確かに四本足で動いていた
胴体部分はおそらく原型の生き物のそれなのだろう、黒い毛におおわれているのがわかる
なのにその四足の奇形はまるで昆虫のような節足となっており、肌色に近い甲殻を有している、しかもその顔面は哺乳類とは言えない、何かの昆虫のような複眼と牙を持ち合わせていた
「どうするよあれ、あれじゃ俺じゃ足止めできないかもな」
「私が足止めするわ、一瞬ひるませてくれればさっきみたいに抑え込んであげる」
フォロー係二人の相談が終わったところで陽太が炎をみなぎらせて突っ込む
木々をかわしながら急接近するその炎の鬼に恐怖を覚えたのか、奇形種はその細い脚からは考えられない跳躍をして見せ、木の幹に張り付いた
足の先にあるであろうかぎづめを使ってしっかりと張り付いているらしく、ちょっとやそっとでは落ちそうにない
木から木へ移動し続ける奇形種に対し、静希は胴体部分と奇形部分の継ぎ目のところにトランプを飛翔させて一気に釘を射出する
突然の痛みに力を籠められなくなったのか、木の幹にかぎづめをかけることができなくなりわずかに引っかかった爪に振り回されるように急に方向を変えて落下していく
落下地点に鏡花が能力を発動し、すぐにでも拘束しようとするが、落下するだけの時間を与えてしまったのが失態だった
命の危機に瀕したことで奇形種の能力が発動し、その場に大量の水が吹き上がった
地面から吹き上がるように舞い上がった水は奇形種の体を押し上げ、拘束場所に向かって振り下ろしていた陽太の拳をぎりぎりのところで回避する結果になった
大量の水が湧き上がる中に突っ込んだ陽太の炎が水によってかき消され、能力が強制的に解除され、あたりに水蒸気が立ち込める
奇形種はまんまと陽太、鏡花の能力から逃れそのまま水の力を利用し地上数メートルのところまで打ちあがることに成功する、このまま能力を用いてこの場から逃げることも考えられただろう
だが、それ以上能力を使うよりも早くその体を挟むように二枚のトランプが顕現した
静希が指を鳴らすと同時にそのトランプの片方から強烈な熱線が放たれ、奇形種の体を一瞬のうちに焼き焦がしていく
体を焼き焦がされながらも能力を使って自らの体を水の保護壁を用いて守ろうとしていた奇形種だが光は水を蒸発させながらも容易に通過してその体を焼いていき、その命を奪っていく
毛を焼き、肉を焼き、その熱は内部にも達し、骨を、臓器を次々と破壊していく
聞いたこともないような悲鳴にもにた絶叫が響き、地面に無残にも落下してきた奇形種の完全な絶命を確認すると静希達は大きく息をついた
「うっはぁ・・・やらかしたな」
「最後の最後で能力使われるとはね・・・ちょっと油断してたかも」
あそこで落下の時間さえなければ何の問題もなく奇形種を拘束できていただろうが、相手の行動とその動きに翻弄されてしまったとしか言いようがない
結果的に倒せたものの、少し苦い勝利だった
「それにしても静希君、よかったの?こんなに早く光使って・・・」
「あぁ、やれるときにやらないとな、相手の能力が水だったからあぁしただけだし」
最後に奇形種が使った水の保護壁、水は空気の約一万倍近い抵抗がある
相手の能力が水の発現であるということを瞬時に理解した静希は、一撃で仕留められなかった場合物理攻撃では不安が残るために、釘や銃ではなく光線を用いた攻撃を余儀なくされたのだ
だが、まだ光の貯金はあるとはいえ、こんなに早く使うことになるとは思っていなかっただけにその心中は穏やかではない




