同時接敵
奇形種の戦闘跡から移動し始めて数十分、木々が密集しているために速度を落とさなければいけないというのもあるが、こうも同じような景色ばかりだと自分たちが今どこにいるのかの把握も難しくなってくるために、通常の移動速度よりもさらに遅く感じてしまう
事前に渡された地形データの中にいるのは確かなのだが、紙面で表されたものと実物では全く印象が違う
多少は高低差を考慮して動いているというのにそれでもかなり急な勾配があったりするのだ
山の近くである以上ある程度起伏があることは仕方のないことだが、足元に広がる苔や倒木などがあると移動のしにくさはさらに顕著になる
もう何度目になるだろうか、陽太が一瞬停止してあたりをしきりに確認しだした
長い間集中を続けているだけあって陽太の疲労もかなりたまっているが、それでも泣き言をいうわけにはいかない
「またか・・・どっちかに逸れてくれればいいんだけど・・・」
「・・・そういうわけにもいかなそうだぞ・・・」
陽太はとりあえず木々によって阻まれないように跳躍してから、明利のマーキングを施した石を投擲する
目標地点に正しく落下したのだろう、明利の索敵に対象が引っ掛かる
「奇形種二体、それぞれこちらに接近中・・・このままだとぶつかるよ」
「距離は?」
「約三十」
先刻の不安が見事に的中してしまう
動物は本来身内くらいしか一緒に行動しない
種類によっては群れを成して行動することもあり得るが、群れというものがそもそもできにくい奇形種にとって複数同時接触というのは非常に稀だ
互いが互いの縄張りを見回っているだけなのだろうが、この人数で移動している以上ある程度覚悟していることではあるが、それにしても初日からこういう状況になるとは思っていなかった
「また威嚇するか?片方だけでも逃げてくれたらラッキーじゃねえか?」
「ただの徘徊だったらいいんだけど、最悪戦闘も覚悟しとかなくちゃな」
後列に奇形種との接触の恐れがあることを伝えて静希達は一応戦闘準備に入る
明利が対象との距離をカウントする中、周囲に燃え移らないように鏡花が細工をしたのを確認して陽太が能力を発動する
上昇した身体能力で自身が確認したその奇形種二匹を確認しようと耳を澄ませる
「明利、今回の相手はどんな奴だ?」
「片方は四本足、でももう片方が変な形してる・・・蛇っぽいんだけど・・・」
今まで哺乳動物や甲殻類の奇形種は見たことがあったが、爬虫類の奇形種は初めてだ
「その蛇、ひょっとしなくても足があるだろ」
「うん・・・でもトカゲよりずっと胴体が長いの・・・」
胴体が短ければトカゲのような生物だと断定できたのだろうが、明利が感知しただけでも長さ数メートルはある奇形種、しかも足がある、となれば蛇の奇形種であると考えるのが普通だろう
「どうする?もう結構近づかれてるぞ」
「相手だってこっちに気づいて近づいてんだろ?思い切り威嚇してやれ、それでも近づくならやるしかない」
蛇の奇形種ということは確実にこちらに気づいているだろう
蛇には視覚や聴覚とは別に温度で周囲を調べることのできるセンサーのようなものがついている
これだけの数で行動しているのだ、まず間違いなくこちらの動きは察知されているだろう
もう片方の四本足も同様、人間以上の聴覚を持っていながらこれだけの数で動いている団体を察知できないはずがない
この二匹がどういう考えでこちらに向かってきているのかは知らないが、まずは楽な相手であるという印象を払しょくすることから始めるべきだ
陽太が大きく息を吸って思い切り咆哮すると木の葉がわずかに揺れ、周囲に怒号が響き渡る
奇形種は一瞬動きを止めたようだが、こちらへの接近をやめないようだった
「だめだな・・・近づいてくる・・・」
「くそ、しょうがない、明利、相手がどっちからくるかわかるか?」
「蛇の方は左から、四本足の方は右からくるよ」
「なら蛇の方から潰すぞ、進路を左に取って同時に遭遇することだけは避けないと」
奇形種との戦闘経験はそこまで豊富というわけではない、だが能力者でもそうだが一人を連続で二回相手にするのと、二人を一度に相手をするのではその危険度は全く違う
まずは確実に片方を仕留めてもう片方に専念できるようにしたい
静希の指示通りに進路をやや左に変更し、自ら奇形種に向かっていく形にすると、少し進んだところで陽太が足を止める
「くるぞ、フォロー頼む」
「了解・・・」
「この森だとまず見つけるのに苦労するわね・・・」
哺乳類などある程度大きさのある生き物であれば草の動きなどですぐに判別できるのだが、蛇のように比較的小さい相手だとこのような視覚的障害のある場所では発見が難しい
特に蛇は音を立てずに接近することに長けた生物だ
もっとも、足があるということで普通の蛇よりも発見は容易いだろうが、それでも難儀な作業だった




