表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

484/1032

フィールドワーク

「静希君、対象は東に逸れていくよ、進路を少し西にずらせば戦闘は回避できると思う」


「オッケー、鏡花、進路やや西に変更するぞ」


明利と協力して平坂の前進を押さえながら進行方向を変えようとする


このまま前に出られたら危険だ、何のためにこの陣形をとっているのかわからない


「了解、陽太、進行方向を変更、西に十度修正」


「オーライ」


進行方向をほんの少しずらして全体的に進路を変える


わざわざ戦闘を誘発する必要もない、相手も足音などでこちらが大人数であることは把握しているだろう、むやみに近づきたくないはずだ


刺激せず、この場を乗り切れるのであればそれに越したことはない


平坂は少し残念そうにしていたが、森に入ってまだ三十分も経っていない、こんなペースで奇形種と戦闘をしていたらあっという間に疲労困憊になってしまう


まだ初日、これからいくらでも奇形種に遭遇する機会はある


とはいえ、まさか開始直後に遭遇しかけるとは思わなかった


この森は静希が思っていた以上に危険なようだった


フィアが戻ってくるのを確認してすぐさまいくつかの種を持たせてこれから自分たちが移動する場所に種を配置させていく


こういう時にフィアは本当に活躍してくれるが、その代わりにフィア自身が危険になっている


どんな能力を持とうとフィアは小動物だ、もし肉食系の生き物がいたらフィアなど恰好の獲物でしかない


部分的に能力を使わせて移動速度を上げているが、その分音で気づかれることもあるだろう


迅速に行動させることでその部分をカバーできればいいのだが


この後も数回奇形種と遭遇しかけ、その都度進路を変更しつつ、目的の場所に着くころには正午を少し回った頃になっていた


平坂の言っていた奇形種との戦闘跡、地形データからそのあたりは把握していたが、そこは凄惨というにふさわしい状況だった


周りの木々はなぎ倒され、地面には激しい凹凸ができ、急勾配になっている場所には巨大な穴ができ、どこかへと通じているようだった


そのおかげか少しだけ開けており、太陽の光が拝める環境にもなっている


「おぉぉ!こりゃすごい!サンプルがいくつも取れそうだ」


平坂が嬉々として歩き回るのを確認するより早く、静希達が急いで周りを囲んで安全を確保する


護衛しているほうからしたらあちらこちらに移動されるのは非常に困る、だが少し開けた状態になっているために守りやすくはあった


「いったんここで休憩を取りましょう、食事をとるのもここで済ませたほうがいいと思います、明利、周りの木にマーキング頼む、一人では動くなよ?」


「わかった、任せて」


近くの隊員に頼んで開けた場所を囲うようにマーキングをしていく


そしてフィアにも種を持たせることで少し離れた位置にも種を配置して一時的な仮拠点とすることにした


明利の他にいた索敵のできる隊員もこのあたりが安全になっていると判断したのか、近くの隊員にそのように呼びかけている


そうすることで隊全体が小休憩の状態へと移行していた


「平坂さん、あまり動きすぎると体力持ちませんよ?」


「なにまだまだいける・・・お、君たち、これ見てごらん」


平坂が指差す先に淡い緑の光を放つ石があるのを見つける


最初、石にこびりついた苔が光を反射しているのではとも思ったが、どうやら違うようだった


石からは霧のように光が漏れ続け、日の光を受けてそれがさらにわかりやすくなっているようだった


「なんですかこれ・・・」


索敵を終えた明利が覗き込むようにしてその石に触れようとする、だがそれを平坂が制止した


「これは魔石だよ、まだ授業では習っていないかな?物体が魔素を高密度で宿しているとこういう状態になるんだ」


魔石、過去にミスリルなどと呼ばれた鉱石のことを指す


周囲の魔素濃度が高い時、魔素は濃度の低い方へと移動し続ける、その先は空気であり、物体である


だが一度物体や生物に取り込まれた魔素はなかなか分離してくれないのだ


とはいえ小さな石に高密度の魔素が取り込まれるというのは非常に稀である


常に物体の魔素が周囲の魔素濃度よりも低い状態でなければこのような状態にはならないからだ


このような魔素濃度の高い場所でのみ存在できる本当に稀有な存在と言えるだろう


生物なら奇形反応を起こしてしまうだろうが、物体にそんなものはない


現在の科学技術で疑似的にこの状態を作り出すことは可能だが、天然の魔石というのは非常に珍しいのだ


常に変異し続ける魔素濃度の中で生まれる偶然の生んだ奇跡と言っていいだろう


「これ、能力使って構造理解とかできますか?」


「やめたほうがいいね、能力発動時の魔素吸引でこれの魔素が急激に流れ込む可能性がある、触らないほうがいい」


例えるならそれは欠陥のあるダムのようなものだ、一度水が流れる先ができてしまうとそれをせき止めることができなくなる


さりげなく危険なものなのだということを認識して、その場の静希達は少し魔石から距離を置くことにする


平坂はこの後も珍しいものがある度に静希達を呼んで見せてくれた


そしてその説明をしている瞬間の笑みがとても印象的だ


恐らく平坂は研究者よりも教師に向いているのではないかと思う、誰かに説明することが非常にうまく、本人もそれを楽しいと思っているようだった


「あの・・・この穴ってどうやってできたんですか?」


丘のようになっている高低差の激しい地面に開いた巨大な穴、円状に形成されたその大きさは直径二メートルを軽く超える


土だけならまだしもそこにあったであろう岩までも削り取っているようだった


「これは以前軍が戦闘を行った奇形種がやったとされているよ、確かモグラの完全奇形だったかな?この辺り一帯にはこんな穴がいくつもあるらしい」


モグラの完全奇形、確かにモグラは地中を移動するが、ここまで巨大なモグラだとさすがにイメージできない


土竜と漢字で書くようにまさに土の竜のごとく地中を移動し続けたようだ


「こんな穴がたくさんって・・・なかってどうなってるんすかね?」


「わからないよ、この辺りには地下水脈が豊富だからね、下手に行軍して崩落したら大変なことだ、無人機などを用いて調べたいところだけどここまで機材を持ってくること自体が困難なんだよ」


確かに奇形種が大量に生息しているこの森で無人機をここまでたどり着かせること自体が困難だ


森のせいで電波も届きにくいし、何より探索地点が地下ではさらに環境は悪化する


この穴がいったいどこにつながっているのか、生き物が通った以上、どこかには通じているだろうがそこがいったいどこなのかは全く分かっていないようだった


全員が平坂の話を聞きながら携帯食料を食べ、周囲の探索をしていると明利と部隊にいる感知系の能力者が急に一点を見つめ始めた


その瞬間部隊全体の緊張感が増す


一つの場所に留まり続けるとそこを縄張り、または住処にしている生き物が帰ってくる可能性がある


それを見越して周囲に索敵網を敷いたのだ


静希は剣を抜き、陽太もいつでも能力を発動できるようにし、鏡花はわずかに壁を作成し始めている


部隊全体もすでに戦闘ができるように構えているようだった


「明利、数は?」


「数は一、大きさはそれほどじゃないけど、こっちを観察してるみたい・・・」


観察しているということはまだ戦闘の意思があるかは微妙なところか


わざわざ戦う必要はない、できるならすぐにでもこの場を離れるべきだ


「平坂さん、ここから移動したいんですが、構いませんか?」


「え?もう少しここを調べたいんだけどなぁ・・・何とかならないかな?」


静希の提案を一蹴してここに留まる事を宣告される


平坂が無能力者かどうかは知らないが、戦闘のことをあまりに軽く考えすぎなような気がする


再び平坂を中心とする陣形を作って奇形種のいるであろう方向に最前列である静希達が出ていく


ほかの隊員もいつでもフォローできるようにしているようだった


「どうすんの静希、このまま硬直状態にしてたらお仲間が来るかもよ?」


「あぁ・・・できるなら向こうから来てくれた方がありがたいけど・・・この数の差じゃ警戒されて当たり前だよな」


さすがに調査をしたいのに調査できない状況でただ黙って待っているわけにはいかない


鏡花の言うようにこのまま動きがないままだと仲間を呼ばれるかもしれないのだ


相手がここを住処にしているかどうかもわからないし、何の目的でここに接近してきたのかもわからないが、調査の邪魔をされるわけにもいかない


とはいっても相手は野生の獣、勝てない相手にむやみに戦いを挑むほど愚かではないだろう


彼らが牙をむくときは命の危機に瀕しているか、守るものを襲われているときだけだ


「陽太、一応威嚇してくれ、こっちを餌だと思ってるならそれで逃げてくれるかもしれないぞ」


「了解、んじゃ派手に行くか、消火は任せたぞ!」


足元の木の葉を軽く除けた後で陽太は能力を発動し炎の鬼へと姿を変える


何人かの隊員から口笛が飛ぶ中、鏡花はその炎が周囲に燃え移らないように能力を使って消火活動を始めていた


そして大きく息を吸い込んだ次の瞬間、陽太の咆哮があたりに響く


人の物とは思えないその咆哮に、木々に停まっていた小鳥たちが一斉に逃げ出す中、明利はまだ森の先を見つめている


「逃げてくれたか?」


「ううん、ずっとこっちを見てる・・・狩りが目的じゃないみたい」


今の咆哮で逃げてくれればよかったのだが、どうやらこの場所がその奇形種の帰る場所のようだ


勝手に入っておいて勝手に居すわられては向こうとしても本当に迷惑だろう


こちらとしてもそんなことはしたくないのだが、依頼主からの頼みでは断りようがない


「明利、その奇形種は四足歩行か?」


「うん、犬に近い形をしてる」


「よし、ならまだ戦わなくてよさそうだ」


静希は鏡花の方を見てアイコンタクトをする


鏡花もそれを理解したのかうなずいて地面に手をついて集中する


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


誤字が多いけどその分いい具合に物語が加速している


この話今までで一番長いから少しありがたくもあります


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ