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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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その森での注意

いつも通り早めの時間に校門前に集合した静希達は自分たちの装備を念入りに確認していた


今回は犯罪者相手ではないということから仮面は持ってこなかったが、静希は鏡花によって作成された鞘を事前に装着していた


その鞘の中に刃であるオルビアこそ収まっていないものの、その佇まいには騎士にも似た鋭く厳格な雰囲気のようなものがある


朝ということもありまだ気温は低いが天気も良い、雲一つないこの青空なら時間がたつにつれて気温はどんどん上がっていくだろう


「おはよー、あんたら今日は早いわね」


静希と明利が雑談しながら待っている中鏡花がやってくる


何時もに比べて衣類の入れてあるカバンが少し多いように見える


さすがに動き続けることもあって着替えやタオルなどを多く入れているようだった


「今日はランニングも控えたからな、体力勝負になりそうだし」


「久しぶりに走らなかったからちょっと変な感じだね」


普段は早朝のランニングを欠かさない二人からすればそれをやめてでも体力を温存しておきたいのだ


それほどに今回の実習は体力を使うことが見こされている


「そういえばうちの体力バカは?まだ来てないの?」


「あいつのことだからそろそろ・・・噂をすればだ」


静希の返答を待つ前に校門へ続く道路に陽太の姿が見える


「お?なんだ今日は俺が最後か」


「ちゃんと来たんだからいいわよ、気合十分みたいね」


鏡花の言葉に陽太はおうよと握り拳を作る


今回の実習が危険であることは全員承知であるために、以前のような抜けた空気はなく、まだ始まっていないのにピリピリとした緊張感と集中を持っている


周囲の空気も最初のような浮足立ったようなものがなく、全員がよい緊張感を持っていることがうかがえる


経験を積んだことで少しずつ熟練の能力者への道を進み始めたということだろう


「揃っているようだな」


何時もとは少し違った面持ちで集合している一班に担当教師の城島がやってくる


早めに脅しをかけておいて正解だったとわずかに笑みを浮かべる


「先生、今回一緒に行動する軍の方って先生のお知合いですか?」


「いや、今回はそれとは別・・・というか私も詳しくは知らん、数人名の通った奴らがいる程度だな、まぁ現地に行けばわかるだろうさ」


てっきり以前世話になった大野や小岩がいるかと思ったが、そこまで世間は狭くないようだ


チームでの連携を重視する静希達一班にとって、知らない人間が一緒にいるというのは微妙に嬉しくないことだ


もちろんそれでも最善を尽くすつもりではいるが多少のやりにくさはあるだろう


あぁだこうだと最後の作戦の詰めを行っていると、城島がやたらと携帯を操っているのを明利が見つける


「先生、どうかしたんですか?」


普段あまり携帯を使うという行動を見ないために不思議に思ったのか、明利が顔を見上げながら聞くと、城島は少し笑う


「いやなに、今回の実習先の近くに古い知人が店を構えていてな、時間があれば寄ろうかと思っているということを伝えただけだ」


「へぇ、友達っすか?先生友達いたんすね・・・っていだだだだだ!すんません!失言っしたぁぁ!」


陽太のあまりにもひどい言い分に、その頭部を握りつぶさん勢いで掴んだ城島は絶えず圧力を加えている


なぜ陽太はこうも失言というか考えなしの発言が多いのか、鏡花は呆れながら額に手を当てていた


「まぁ陽太のバカは置いといて、店ってどんな店ですか?飲食店なら連れてってくださいよ」


「いいね、疲れた体に美味いもの、できれば奢ってくれれば嬉しいですけど」


「バカ、飲食店だと誰が言った、あれはそういう類の店じゃない」


飲食店ではない店などたくさんあるが、個人で経営できる店というのも結構限られている


特に昨今わざわざ個人で起業しようというのも稀な話だ


「その知人って、先生の同級生の方ですか?」


「そうだ、同じ班でな、お前たちも顔だけは見たことがある、私と肩を組んでいた女だ」


その言葉に静希と明利と鏡花は以前見た写真を思い出す


帽子をかぶった城島と肩を組んで満面の笑みを浮かべている女子が頭の中に浮かぶと三人があぁ!と手をたたく


「にしても飲食店じゃないとすると、いったい何の店なんですか?雑貨?それとも不動産?」


「あれは・・・雑貨に入るのだろうか・・・少なくとも不動産ではない・・・骨董品に近いが・・・」


城島自身その知人の店をどのように表現すればいいのか迷っているようだった


「骨董品ってことは古いもの・・・?壺とか絵画とかかな?あとはインテリア?」


明利の言葉に城島は口元に手を当てて悩みだしてしまう


「いや、確かに古いものに違いはないか・・・いや案外新しいものもあるし、あれをインテリアと言っていいものか・・・」


城島の不可解な言葉に静希達はより一層疑問と興味がわく


どうせなら帰りに寄ってみようかという気持ちも湧くが、それだけの時間があるかも微妙なところである


城島の殺人級の圧力からようやく解放された陽太は頭部に強い痛みを覚えながらその場に座り込んでしまう


始まる前からダメージを抱えるとはどういうことだと言いたくなるが、自業自得としか言いようがない


「先生・・・これから大変だってのに生徒負傷させてどうすんすか・・・!」


「負傷?どこに負傷者がいるというんだ?私には頭が残念なことになっている生徒しか見当たらんな」


恐らくその言葉は二つの意味を持っているのだろうが、陽太からすればそんなことに気をかけていられるほど余裕もないらしい


もう少し考えて物を言えばいいものを、こういうところは相変わらずバカである


そうこうしている間に代表教員からの挨拶が終わったところで静希達は全員動き出す


すでに気持ちだけはしっかり作ってあった静希達からすれば長話などに耳を傾けるほど余裕はない


さっさと電車に乗りこんで移動を開始することになる


「あぁそうだ、現地に着いたら言う暇もないようだから今のうちに言っておくが、森に入ったら定期的に魔素抜きをするのを忘れるなよ?疾患ができるぞ」


「魔素抜き・・・ってあぁそうか、濃度が百%超えてるんでしたっけ?」


今まで魔素の濃度が高いところに行ったことのない静希達はすっかりとそのことを忘れてしまっていた


魔素抜き


それは高い魔素濃度を示す空間において必ず行わなければならない注意事項でもある


基本的に魔素は大気や物質に存在するもので平常時その濃度は六割から八割と言われているが、樹海をはじめこの日本、いやこの世界の数か所にはその濃度が百%を超えている場所が存在する


魔素は大気と同じく、高いところから低いところへと移動する、だがそれは物理的な高低差ではなく濃度の高低で決定する


つまり大気中の濃度が極度に高い場合、行き場を失った魔素が物体や生物の内部に入っていってしまうのだ


本来能力を使用するときにしか魔素の吸引が行われない動物や人間も例外ではなく、勝手に魔素が注入され続けることになる


過度の魔素の注入、とまではいかないものの、長時間放置していればそれなりに異常が発生する


「先生、一応目安を聞いときたいんですけど、どれくらいに一回魔素抜きすればいいんですか?」


「そうだな、数値にもよるが、三十分に一度行えば十分だろうが・・・一応五十嵐と幹原は十分か二十分間隔で行っておけ」


わかりましたと魔素の許容量の少ない二人がうなずく


魔素疾患とは魔素の大量注入により起こる奇形の軽度症状のようなものである


魔素が常に流れ込む今回の実習現場のような場所ではこういった症状がよく起こる


主な症状は皮膚などの変色であり、その面積が少なければそれほどの大事には至らないが、それでも奇形症状には変わりない、その範囲が広がればかなりの被害となる


そしてこれを防ぐのが魔素抜きと言われる技術だ


魔素抜きは基本能力者しか使えないが、体内の魔素を能力を使用することで空に近い状態にすることを指す


これを定期的に行うことによって能力者の魔素疾患の発症を抑えるのだ


「明利は常に能力を使うから問題ないとして、問題は静希だよな」


「まぁ、適当にお手玉でもしとくよ、連続でやってりゃそれなりに抜けるだろ」


静希と明利の魔素許容量と能力による魔素の消費量は少ない


特に静希はこの中で最も燃費がいい能力者だ


普段は非常にありがたいのだが、こういう場面では適宜能力を使わないといけないのが厄介である


「てか先生はこないんすか?」


「当たり前だ、私は宿舎の方で報告書の作成をしながら待っている、せいぜい頑張ることだ」


白い歯を見せて笑う城島に対し手伝ってくださいよと鏡花からの野次にも似た声が飛ぶが、それすらも笑い飛ばしてしまう


本当に手伝う気はないようだと全員少し落胆する


城島がこの班にいればかなりの戦力になる


発現系統で、恐らく本来は中衛か後衛に位置するであろう能力者のはずなのに、前衛の陽太と殴り合いをしても勝てるだけの実力を持っている


恐らくは経験からくるものなのだろう、静希達より圧倒的に勝っている点でもあるが、その観察能力や反応速度もそうだ


性格や身体的には前衛に近い能力を持ちながら能力は中後衛、何とももったいないようで、それが城島の強みだ


「それにしても樹海かぁ・・・あの・・・先生は樹海に入ったことありますか?」


「あぁ、一度だけだがな、あそこは凄いぞ、いろんなものが見れる」


城島も一度しか入ったことのない樹海


魔素濃度の高さ故に、長期間それにさらされ続けてきた生物が多く、それゆえに奇形種が増えた、軍が封鎖するほどの日本有数の危険地帯


これからそこに行くかと思うと非常に気が重い


少なくともこれから奇形種を山ほど相手にしなくてはいけないかもしれないのだ、そんな気分にもなってしまうというものである


日曜日なので複数まとめて投稿


忘れないようにビクビクしながら投稿しています


そういえば自分をお気に入りユーザーに登録してくれた方がたくさんいたようで、感謝の極みです


拙い文章を書く自分ですがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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