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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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もどき

「ところで、陽太君の槍はどうなってるの?もう実戦で使えるの?」


「無理よ、準備に時間がかかりすぎる・・・っていうか刑務所の時から一か月くらいしか経ってないんだからそんな変わるわけないじゃない、完成は・・・そうね・・・このペースなら十一月から十二月くらいには実戦でも使えるかも」


鏡花の言葉に静希と明利は感嘆する


当初は年内に使えるようになればいい程度の見通しだったのだが、陽太の才能か、それとも鏡花の指導故か、予想以上に効率よくその練度を上げているようだった


「それに今回の場所じゃたぶん槍は使えないわよ、助走できるだけの場所を確保できないし、相手は動くし、何より暴発したときが面倒すぎるわ、準備できても無駄に終わるでしょうね」


以前のように目標が動かず、なおかつ長い集中と溜ができ、一撃放てばよかった状況と違い、今回の相手は動く動物、いつ来るかもわからず、しかも一撃放ったところで集中を切らしてあたりに炎をまき散らしていたのでは邪魔になるだけだ


一撃で仕留められるだけの確証もない今回の状況では槍は使えないのである


「でもよ、槍は使えなくても『もどき』なら使えると思うぞ」


「もどき?」


陽太の言葉に静希は首をかしげる


実際に槍を見たのは数回程度、槍の実情を完全に把握しているのは鏡花だけの中でその単語は興味深くもあった


「もどきってのは槍ほど大きくないけど形を持たせて殴ることよ、大きさも炎の量も少ないから重宝してるんだってさ」


それは陽太が刑務所の扉を破るときに使った槍の応用、というか劣化版である


込める炎が少ない分形成できる大きさも小さくなるが、少ない集中で行使できるために槍よりは実戦的に使えるだろう


以前はあえて暴発させることで爆発に似た現象を起こして突破していたが、必要な集中が少なければ連発もできるだろうと踏んでいるようだった


「ただでさえ森の中だからなぁ・・・炎には十分注意だけど、ちゃんと仕事はしろよ?後詰は請け負うけどさ」


「おぉよ、任せとけって」


結局、今回の実習においての一撃を与えるのは陽太、そこまでのプロセスを作るのは静希と鏡花、そして後詰を静希が担当している


この通りに事が運ぶことは実際には少ないだろうが、ちゃんと行動を決めておけば少なくとも迷うことはなくなる


というか、この中で動物を確実にしとめられるだけの精神力を持ったのが静希と陽太しかいないのだ


未だ命を奪うことに躊躇いのある明利、そして命を奪うということを一度もしたことのない鏡花


この二人では正直不安要素が大きい


いざという時できませんでしたでは話にならない、ならば多少危険でも静希が前に出るしかないのだ


「静希の装備の方はどうなわけ?もう切り替えたの?」


「あぁ、長期戦用に入れ替えた、日用品と貴重品がいくつか犠牲になったけど、まぁ背に腹は代えられないからな」


普段トランプに入れている書類や通帳などをすべて武装に切り替えることで、長い間の戦闘も可能なように切り替える


金曜日の六時間、土曜日の十二時間、日曜日の十二時間、それらすべてをこなすには相当数の武装がいる


今まで単体や短い時間の戦闘時間しか経験したことのない静希にとってこれほど長い時間戦闘しなくてはいけないかもしれないというのは全くの未知の領域


準備しすぎと言われるかもしれないが、それでも足りるかわからないのだ


「明利の方は?前みたいにたくさん種用意したの?」


「うん、今回は前よりも多く用意したけど、周りが植物ばかりだからマーキングしながら動けば節約できると思う」


森という地形は明利のもっとも得意とする場所でもある


木々が茂っていればそれだけマーキングできる対象が増え、索敵が容易になる


種を遠距離索敵だけに使えればそれだけ優位に立てるだろう


「鏡花自身は平気なのか?俺らたぶん結構えぐい殺し方すると思うけど」


「そういうことを女子に言わないでよ・・・まぁ割り切るしかないでしょ、動物の死体は何度か見てるし・・・たぶん大丈夫だと思う」


今まで鏡花が見た死体というのは意外と少ない、それこそ数えられる程度だ

だが今回は実習の内容から確実にそれを何度も見ることになる


命の死に慣れていない鏡花はそれ自体を拒絶することもあるだろう


特に鏡花はペットとして犬を飼っている


それらと奇形種を重ねるようなことがあると、もしかしたら早期リタイアも考えられる


割り切るなどと言ってはいるが、今まで敵対した奇形種の死を目の当たりにしてもそれ以上の戦闘がなかったからこそ平静を保てていた


海外交流の孤島は、仕留めたのは静希で、能力の使えない状況だった


六月のザリガニの時も仕留めたのは雪奈とフィア、ザリガニはそもそも動物からはかけ離れていたためにそれほどショックはなかっただろうが、研究所にいたのは犬のそれに近く動揺もそれなりにあっただろうが、それ以降の戦闘はなかった


だがもし連戦するようなことがあれば、どうなるかはわからない


今回の実習の不安材料は実は鏡花なのかもしれない


そう思いながら静希は情報を頭に入れ終える


その日は最後の詰めを行って解散となった


そして翌日、今回の最高難易度の実習が始まろうとしていた


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