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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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対応の模索と情報整理

「だから、切り札って何さ、気になるじゃん、教えてよ」


「はぁ・・・完全奇形を打倒した攻撃だ、彼女の能力にかかわることだからこれ以上は教えられん」


完全奇形を倒した


その言葉に二人の視線が明利に集中する


てっきり、完全奇形に止めを刺したのは体格の良い陽太か、雪奈からよく話を聞く静希あたりだと思っていただけに意外さが拭えない


実際に止めをさしたのは雪奈だが、ほとんど明利が追い詰めたようなもの、雪奈はその仕上げをしたに過ぎないのだ


二人は、この四人の中で最も小さく、そして非常におどおどしているこの少女がそれだけの切り札を持っていることが信じられない様子だった


「それってそんなにすごいのか?」


「あれは凄いなんてものではない、仕込みに成功すれば、生き物に対してなら確実に葬れるだけの効果がある・・・実際あれがなければ完全奇形打倒も無理だっただろうさ」


状況を的確に判断できる熊田にここまで言わせるのかと二人は驚きながら明利を見る


どの班でも、必ずと言っていいほどある分野に突出した人間は存在する


近接戦闘であったり、逆に後方支援であったりするが、一見後方支援型であり、なおかつ索敵が仕事だと熊田が言っていたのにもかかわらず、それだけの大物を仕留められるだけの攻撃力を有している


天は二物を与えずとはいう、だが明利にそれは当てはまるのだろうかと測りかねているようだった


「なぁ、お前らから見て、この班ってどれくらいの強さなんだ?仮に俺らと全力でやった場合どっちが勝つ?」


実際に指導していた雪奈と熊田は藤岡の言葉に腕を組んで考え出す


今二人の中では戦闘のシミュレーションが行われているのだろうが、数秒して同時に二人の顔が上がる


「正直、わからんというのが答えだ、俺たちのそれとは強さの種類が違う」


「もし正面からやるんだとしたら、みんなの本気度によるかな」


「本気度?全力でやったらどうなるの?」


一班の班員の性格を正しく把握していない井谷は自分たちが負けるということまでは考えていなかったためにその答えに多少不満があるようだった


「だからわからん、こいつらの本気をあまり見たことがないんだ」


「この子たちが本気で戦ったら、たぶん勝負になる前に倒されると思うよ、私とおんなじで不意打ち大好きっ子だし、もし勝負になった時は確実に誰か死ぬだろうね」


その言葉に上級生二名が戦慄する


雪奈と熊田が静希達を高く評価しているとは知っていたが、ここまでのものだとは知らなかった


雪奈の言う通り、静希達は非常に不意打ちを好む


誰かに注意をひきつけて攻撃したり、相手をおびき寄せて策にはめたり


この班が静希の指示で動いているというのが理由の一つでもある


雪奈とともに育ったせいか、それとも能力の低さから効率を重んじるためか、どちらにせよ静希は不意打ちを好む


そして幸か不幸かこの班には不意打ちをできるだけの能力者がそろっているのだ


索敵のできる明利、地形などを変えて身を隠すことのできる空間を作れる鏡花、その能力の特徴から目につきやすく絶好の囮となる陽太、トランプを使って縦横無尽な攻撃が可能な静希


これほどゲリラ戦に向いている班も珍しいだろう


ここに局地的索敵ができる熊田と、音もなく攻撃できる雪奈、この二人がいた状態なのだ


あの構成はかなり強かったと、今さらながらに雪奈と熊田は感心する


「じゃあさ、もし前衛と後衛で一対一になったらどっちが勝つ?」


「私と陽だったら確実に私が勝つけど、あんたと陽だったら・・・どっちかっていうと陽が勝つかな」


雪奈の返答に藤岡はマジかよと少しだけへこんでいる様子だった


彼の能力がどのようなものであるかはわからないが、どうやら陽太の能力とは相性の悪いものであるようだ


「じゃあ後衛は?私や熊とやってどっちが勝つ?」


「後衛だったらこの子たちが勝つよ、まぁ確実にこっちが負けるのは鏡花ちゃんくらいかな」


雪奈の言葉に少し照れている一班班長、天才鏡花


一年で唯一エルフに対抗できるだけの能力を所有している文字通りの天才である


「ちなみに後衛って誰と誰?」


井谷の発言に静希と明利、鏡花が手を上げる


後衛三人の構成にこの班の特性を理解したのか、なるほどと井谷と藤岡は納得する


力や速度、技術で勝負するのが前衛ならば、後衛はどれだけ前衛および相手の動きを攪乱できるかにかかっている


そうなると一人が前衛であとすべて攪乱となるとかなり相性が悪いことがうかがえた


雪奈たちの班は前衛二人に後衛二人、バランスのいいどんな状況でも対応できるタイプの班だ


対して静希達の班は前衛一人に後衛三人、ある程度の状況はこなせるが突破力や安定力に欠ける


なぜわざわざ自分たちに話を聞きに来たのかというのをようやく理解した


不測の事態に弱いであろうこの班は、できる限り前準備をしてから実習に臨みたいのだ


優秀なのは自分たちでしっかりと考えて、そのうえでできることをし続けたから


そして今もそうなのだろう、今できることをやろうとしている


雪奈の長い付き合いの後輩と聞いてどんな奴なのか気になってはいたが、誠実で努力家であることはうかがえた


「よし、ほかに聞きたいことがあったら何でも聞いてくれ、なんでも答えてやるぞ」


藤岡の言葉に静希と鏡花、この班のブレインが矢継ぎ早に質問を繰り返す

聞くべきことは山ほどある


結局すべて聞き終えるころには完全に日が落ちているような時間帯になってしまった


雪奈の班の先輩から話を聞き、装備を整えて校外実習を翌日に控えたその日、詳しい情報をクラス全員に配られた後、いつものように静希の家に全員が集合していた


各自資料とにらめっこしてその情報を頭に叩き込んでいる中、陽太だけがなぜかのんびりと欠伸をしていた


「ねえヨータ、あんたは何もしなくてもいいの?」


「しょうがねえだろ?地形データだの覚えられないんだから、俺は必要な時に暴れればいいって言われたんだよ」


静希の家で三人が資料とにらめっこしているのに対して陽太は何もしていない、それを見かねてメフィがふわふわと浮遊しながら陽太の顔を覗き見る


静希と明利、そして鏡花が覚えているのは軍から支給された今回向かうとされる樹海の地形データだった


鏡花が調べたものより鮮明だが、それでも樹海すべてをマッピングできているわけではない


あくまで森の中の一部の話だが、それでもないよりはましである


今回の予定として金曜日の昼前には現地入りし顔合わせをしたらすぐに陣形のチェックをして樹海に入るのだという


陣形として研究者平坂を中心に静希達四人を合わせて十五人で囲う形となる


外周の四方向に前衛一人ずつ、各前衛に二人ずつ中衛、研究者とほど近い場所に索敵と後衛がつく形となる


前方を今回参加する静希達、左右と後ろ、危険な部分は軍の人間が担当してくれることになっている


最前列を陽太、その後ろに静希と鏡花、そして研究者のそば、一番安全な場所に明利が配置されることになる


よって、陽太が地形を覚える必要はなく、後ろにいる静希と鏡花が逐一指示すればよく、索敵する明利は自主的に場所を覚えようとしているのである


「こっちからすりゃ、お前に変に情報与えて間違えられる方が困るんだよ、お前は何も考えず突っ込んでりゃいい」


「ほらな?だから俺はタイムスケジュールだけ把握してりゃいいのよ」


暢気なものだが、はっきり言ってそれ以外に陽太はやることがない


装備もない、記憶力もない、そんな陽太ができることと言えばモチベーションを高める程度である


「陽太、土曜日の行動開始時間は?」


「起床が四時で行動開始が六時だろ?わかってるって」


「オーケー、覚えられてるならそれでいいわ」


鏡花は満足そうに地形データを頭に叩き込む作業に戻っていた


今回の行動開始はかなり早い


動物の行動が始まる時間に合わせて様子を見に行こうというのだ


まだ残暑残る時期とはいえさすがに早朝ともなれば涼しいものである


その代わりに夜中の見張りをしなくていいというのだから楽である


もっとも行動している時間はかなり長くなる


宿泊する軍宿舎から出発して樹海入りしてほとんど一日中森の中にいるのだ


撤収は十八時、十二時間は森の中にいることになる


明利がいるため迷うことはないだろうが、それなりの肉体的および精神的な疲労が来ることは明白だ


今回は学生が参加することもあってかなりソフトな内容になっているのだと城島は言っていたが、これでソフトならハードなフィールドワークはどうなってしまうのだろうか


もしかしたら森の中で一夜明かすこともあるのかもしれない


笑えないなと呟きながらもそうならなくてよかったと心底思う


「地形データはオッケーね・・・静希、今回私たちはフォローに回るのはわかるけどさ、陽太一人を暴れさせるわけにもいかないでしょ?どういう形で行くの?」


資料を見始めてから一時間程度しかたっていないのにもかかわらず速攻で地形データを覚えたらしい鏡花が静希にそう問いかける


天才は頭まで天才なのだなと思いながら静希はデータとにらめっこしながら頭を掻き毟る


「基本的に奇形種を発見したらまず連絡、優先順位によるけど戦闘になるか観察になるかはわからないな、たぶんこっちが見つけた段階で気づかれるだろうから発見した時点で警戒を密にして、襲い掛かられたら俺が奇形種の足に遠距離から一撃、そしたら鏡花が動きを止めて陽太が止め・・・って感じだな」


そこにさらに加えるのであれば陽太の能力で、もし森に引火した場合鏡花の消火作業が必要になる


日本有数の森が陽太のせいで全焼したなどということになっては目も当てられない


「じゃあ、基本的にやられてから反応するわけ?こっちから先制攻撃はしないの?」


「いや、どっちかっていうと向こうに敵対意識があったらって感じだな、向こうだって生きてるんだ、理由もなく殺すことはないだろ、やり過ごせるならそのほうがいい、それと陽太、必ず威嚇はしろよ、最低限のマナーだ、それで逃げてくれるならラッキーだからな」


無駄な戦闘をすることはない


悪意を持った人間ならまだしも奇形種は本当に純粋に生きるだけのただの動物だ


能力を持ち、高い適性を持っているというだけで、それ以外は他の動物と何ら変わりない


動物愛護という言葉を今さら使うつもりはないが、長期戦になることが予想される中で無駄な戦闘は少しでも省きたい


そういう意味では陽太の能力は非常に有効に働くだろう


何せ炎はそこに存在する、それだけで動物が畏怖する


そこからさらに陽太が大声で威嚇すれば大抵の小動物なら逃げてくれるだろう


問題は大型の動物だ


どれほどの種類がいるのかは定かではないが、犬以上の大きさを持つ生き物であれば多少脅しをかけた程度では止まらない


そうなったら確実に戦わなくてはならないだろうことは覚悟している、動物を殺したくないなどという考えは静希はとうに捨てていた


誤字報告が五件たまったので複数まとめて投稿


相も変わらず誤字の多いこと多いこと


感想の内容も少し整理してみようかと思っています、誤字報告が何割占めるのやら


これからもお楽しみいただければ幸いです

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