奇形種対策
「にしても、首元にって、ずいぶんと具体的っすね」
「そりゃもう、どっかの誰かさんにトラウマ植えつけられたせいでな」
藤岡の視線が雪奈の方に向くが、当の本人は口笛を吹きながらそっぽを向いている
「雪姉、いったいなにしたのさ」
「なにも?ただ二対二の時に不意打ちで喉元にナイフを添えただけさ」
その言葉に鏡花は自分の首元を軽く触る
今さらながらに再度、この二人が姉弟分であることを認識した
静希も鏡花との二対二の時にその喉元にナイフを添えたのだ、血は違えども長い時を共にした人間は似るのだろう
「とにかく死角っていうか・・・視界の外からいきなり攻撃されるかもって思うとすごい怖かった、それだけは覚えてるよ」
まったく意識できない、不意に訪れる攻撃
確かに防御も回避もしようがない
お互いに間隔をあけ、索敵も行って周囲を警戒していても視覚的障害の多い山や森ではそれでも万全とはいえない
今回の実習、危険度は高いというのはそういう部分もあるのかもしれない
「時に雪奈さん、奇形種と戦う時の心構えって何ですか?」
「ふむ・・・そうだね・・・まず攻撃をためらわないことと、後は・・・一撃で仕留めることかな」
一撃、雪奈はそういった
もちろん可能な限りではあるが、その理由はわかりきっている
静希は一度見たことがあるが、奇形種と言えど本来は動物、意識があり能力を自分の制御化に置くことのできる人間と違い、彼らは本能でしか能力を扱えない
つまりは生存本能、生きようとするときにのみ、奇形種は能力を発動する
それは傷を負ったときであり、空腹のときであり、家族を守るときであり、敵と戦う時である
逆に言えばそういう状況にならない限り奇形種は能力を使わないのだ
少なくとも今まで遭遇した奇形種の全てはそうだった
遭難時の孤島で遭遇した奇形種二体、一体は死の間際に能力を使用しかけたが魔素がなくて発動できず、もう一体は追いかけてくるだけで能力を使うそぶりはなかった
そして、ザリガニは傷を負ってそれを再生する能力を見せ、研究所にいた奇形種は空腹により能力を発現していた
「もし、一撃で仕留められない場合は?」
「相手が反応するよりも早く周りがフォローすること、つまり一体に対して数人がまとまって攻撃するのがベストだね」
どんな熟練の人間でも一撃で仕留めることができるとは限らない
常に不測の事態が存在するだけに、後詰というのは必要なのだ
狩猟にも似た仕留めるという事柄に必要な徹底した攻撃
雪奈からすれば当然のことだろうが、今まで静希達は連携を重視してはいるが攻撃自体はばらばらだったり、離れた場所で行うというのがセオリーだった
陽太という味方にまでダメージを与えかねない存在がいる以上、多少離れることが必要だったからだ
だが、奇形種相手にそれは行ってはいけない
常に連撃を叩き込む、間髪与えず
「五十嵐たちの班の構造的に、幹原が探知、清水が対象の動きを止めたり誘導したりして、響が攻撃、五十嵐が剣で後詰といったところか」
班の構成を知っている熊田が攻撃の内容を考えるのだが、その内容に雪奈が腕を組んで唸りだす
「私もそれに賛成はするけどさ・・・静の攻撃で後詰となると、全力で剣を叩き付けないと骨を斬るくらいの威力は出せないよ?それこそ全体重叩き込むくらいじゃないと、だったら遠距離から集中攻撃のほうがまだ効果的だと思うけど・・・遠距離はなぁ・・・」
静希の剣の実力を正確に把握している雪奈からすれば、静希が剣を用いて攻撃することにあまり賛成ではないようでもあった
どちらかと言えば能力を用いての遠距離攻撃を推奨するのだがそれさえも渋っているようだった
実際、重さのないオルビアを用いている時点で静希の接近戦での攻撃力はかなり限定される
それならばナイフや釘、銃弾といった遠距離攻撃を用いたほうがいいかもしれないが、こっちはこっちで確実性が欠けているのだ
確実にしとめるのであれば接近して息の根を止めるしかない、遠距離でそうする場合急所を狙い撃ちするか、または数発用いて集中打を浴びせるしかない
それでも甲殻や鱗などを持っている相手には効かないことだってある
弾数が限られている静希からすれば連戦を強いられる今回の実習で、遠距離攻撃はここぞという時以外は取っておきたいものである
「ふむ・・・なら幹原のあれは使えんのか?」
「あれ?あれって?」
明利の武装の事情を知らない藤岡と井谷が首をかしげて目の前の小さな後輩に視線を向けた後、熊田へと移る
「明ちゃんの切り札だね・・・あれは正直使いたくないみたいだよ?」
二人が言っているのは明利の切り札カリクのことだろう
だが雪奈の言う通り、カリクは非常に貴重だ、明利が所有する種の中でもトップクラスの希少さを誇る




