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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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経験談

「でも雪姉、身内に怪我させちゃだめだって、思い切りひっぱたくぐらいにしとけばよかったのに」


「そうは言うけどね静、女にとって裸とはそれ相応の意味があるのだよ?」


「そっちの班に回復できるような人間がいないなら自重するのが当たり前だ、もちろん覗かれて頭に来たのはわかるけどな」


静希の言い分にそれ以上言い返せなくなったのか不満そうに口を噤みながら口惜しそうに視線を向けている


その様子を見ていた井谷と藤岡が唐突に笑いだす


「いやまさか、本当に雪奈を言いくるめられる人間がいるとはね・・・話には聞いてたけど、すごいもんだ」


「むしろうちの班にほしいくらいだ、こいつのストッパーにはちょうどいいかもな」


どうやらこの班の中で雪奈はそれなりに暴走することが多いようだ


我ながら厄介な姉を持ったものだとため息をついてしまう


「いつも不肖の姉がご迷惑をおかけしております・・・」


「まるで五十嵐のほうが保護者のようだな・・・」


一学期のころからこの様子を見ていた熊田からすれば懐かしくもあり不思議な光景にわずかに笑いをこぼしていた


ひとしきり自己紹介と馴染みが終わったことで、本題に入ることにする


「それで、皆さんが校外実習で奇形種と戦闘・・・というか奇形種の群れを観測したときのお話が聞きたくてお時間頂いたんですが・・・」


鏡花が切り出したことで、その場にいる全員が当時の記憶を探り出す


すでにかなりの時間が経過していることもあり記憶も相当劣化しているだろう


「とりあえず、深山と向こうの銃使いの人が喧嘩してるのが印象的だったかな・・・味方であるはずなのにまったく気が休まらなかったよ」


「あぁ・・・浅野さんですか・・・」


静希も一度会ったことのある雪奈の天敵


あっただけであそこまで雪奈が敵意剥き出しにする相手も珍しいので非常に印象に残っている


だが聞きたいのはそこではないのだ


「えと、研究者の護衛もしてたんですよね?どういう状況だったとか・・・その・・・気を付けることとか、ありますか?」


全員雪奈と浅野の喧嘩しか印象に残っていないのでは話にならない、雪奈と熊田以外の上級生に話すことには慣れていないようだが、それでも明利は必死に声を出す


その様子を雪奈と井谷が妙ににやつきながら見ているのが印象的だ


「そうだな・・・熊田、あんときのことどれくらい話したんだ?」


「ほかの班と合同で行ったということまでは話した、詳しいことは話していないがな」


この班のブレインはおそらく熊田なのだろう、一班と親交深い雪奈ではなく熊田に聞くあたり、雪奈が先輩として信頼されていないことを察しているようでもあった


「あんときはそうだな・・・前衛の俺と深山、あと向こうの班の前衛一人が前を守って熊田と向こうの索敵を使いながら周囲の警戒をしてたんだけど・・・とにかく怖かったな」


「怖い?」


それなり以上に優秀な雪奈と、それと同等に近い能力者が何人もいるチームで怖いという感情が出てくるのが少しだけ意外だった


「あぁ、確かに怖かったかも、木のせいで辺りは暗いし、障害物が多いからどこに隠れてるかわかったもんじゃないし、かといってふらふらする素人守らなきゃいけないし、いろんな意味で怖かったね」


井谷の言葉に藤岡は大きく同意していた、熊田は索敵に集中し、雪奈は神経を研ぎ澄ませ恐怖よりも敵を探すことに手いっぱいだっただろうが、どちらかというとこの二人は恐怖を感じることができる程度には普通の精神状態をしていたようだ


だがこういう話こそ一番に聞きたかったのだ


「中心部分に護衛対象がいるとして、どんな感じに守ってたんですか?」


「前衛が前、中衛の攻撃可能な奴で横、後衛で索敵が後ろって感じだな、前に進むことが多かったけど・・・もうありゃ勘弁願いたいね」


木々が鬱蒼と生え、葉によって日の光は遮断され、幹が視界を制限する


そんな中どこにいるかもわからない獣に警戒し続けなければならない


これほど怖いものはないだろう


思えば静希達は今まで山や森の中にいることは多かったが、そこまで暗いということはなかった


東雲の時もそれなりに木の幹の間隔があって光源は確保できていたし、ザリガニの時は川で、研究所の中では陽太自身が明かりになっていた


唯一完全に近い暗闇の中の優秀班選抜の島にあった森では相手の位置がかなり絞れていたからこそあそこまで動けたが、まったくわからない状態ではどうなるかわからない


こちらから攻勢に出るならまだしも、こちらはほとんどの確率で後手に回ってしまう、それが護衛だ


相手のホームグラウンドで、人間より何倍も身体能力のある獣を相手にしなくてはならない


「ちなみに、どんな感じの怖さでしたか?こう・・・視覚的にか、それとも聴覚的にとか」


「どんなって・・・もう次の瞬間喉元に食らいつかれるんじゃないかって気が気じゃなかったよ・・・少し風があったせいで木の葉の音で無駄にいろいろ聞こえるから周囲の警戒もひどく疲れた覚えがある」


植生の濃い山や森では少し風が吹くだけで木々のざわめきでかなりの音が出る


小さな音にも敏感な獣ならまだしも、ある程度の音しか聞こえない人間にはそのせいで相手の足音や気配がなくなるように感じられてしまうのだ


今までの相手はかなり派手に動いているものばかりだったためにすぐに発見できたが、今回はそういうわけにもいかないのだろう、その点も留意しておくべき点だ


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