調査結果報告
「あれ?なによ静希、あんた髪切ったの?」
翌日、教室であった鏡花の第一声がこれである
髪を切った同級生に対しての反応としては正しい方だろう
もちろん明利も同じような反応をしていた
「あぁ、そろそろ鬱陶しくなってくる長さだったからな、雪姉に頼んで切ってもらったんだ」
「え?あの人散髪できるの?」
「もちろん、刃物を扱うからな、それに昔から俺や明利の髪切ってたし」
どうやらそのことは知らなかったのだろう、素直に驚いているようで、同時に雪奈の能力の汎用性に感心しているようだった
静希の髪は基本短くストレートだ、特にこれと言って癖も見受けられない
同じように明利の髪もストレート、今はセミロングより少し長めになっているがそれでも昔は短かったこともある、練習台には事欠かなかったということだ
「ところで、先輩方の話の件はどうなったわけ?」
「今日は無理だってさ、一応今日予定聞いて、早けりゃ明日にでもって話だ」
それを聞いてなるほどねと呟いてまたイメトレをしながら寝始めそうな陽太の頭を叩く
もう少し学習したらいいのではないかと思えるのだが、どうしたって目をつむると眠くなるようだった
「そっちはどうだ?地形データだっけ?」
「それなりね・・・一応勾配くらいは調べられたけど・・・あんまり期待しないほうがいいかも」
鏡花の取り出した紙に記されているのは上空から見た樹海の写真をプリントしたものと、その写真と同じ場所の勾配を記した図だった
木々のせいで上空からでは詳しい地形は把握できないが、音波などを駆使しての地形索敵法によってある程度の情報はネットなどにも公開されている
だが倒木や洞窟、加えて岩や落葉なども感知してしまうためにあまり精度は高くない
地面だけでなく異物まで察知してしまうところが音波での索敵の限界ともいえるだろう
熊田の持つ能力のように局地的索敵ならばそのあたりを鮮明に行うこともできるだろうが、樹海という広い範囲に行うような索敵は基本的に大雑把になってしまうものだ
特に木の向こう側にある地面を調べるのだ、どうしたって精度は落ちる
過去、大々的に軍によって樹海内の地図の作成が行われたこともあるらしく、それらの資料も一応持ってきているようだったが、その日付が十年以上前のものであまり参考になるとは思えなかった
「明利の方は?研究者のこと調べられた?」
「うん、その人の研究内容と概要とかは調べられたよ、どんな人物までかはわからなかったけど、写真も一応見つかった」
明利も自分が調べてきたものを紙にまとめてきたらしく二人に見せる
そこには今まで聞いたことのないような単語や文章が並んでいる
恐らく明利ならば理解できるのだろうが、静希や鏡花では意味不明な単語の羅列ではっきり言って何をやっているのかすらわからない
だが写真が手に入ったというのは大きかった
今回静希達が護衛する平坂照幸という人物
先日聞いたうえでは奇形種に関する研究を行っているらしい
写真の中にいるその人物は白髪七割黒髪三割というそれなりのご年配のようだった
資料には六十一歳とある
すでに定年を迎えているのにもかかわらず研究者でいようとするその姿勢は大したものなのだが、こんな歳で富士の樹海にフィールドワークに行くなんていったい何を考えているのか二、三問い詰めたくなる
「こんな歳なのになんでこんなところに行きたがるんだか・・・自殺志願者じゃないでしょうね・・・?」
どうやら鏡花も静希と同じ感想を抱いたようで、平坂の写真を見ながらしかめっ面をしている
はたから見れば正気の沙汰ではないかもしれないが、本人からすれば大事なことなのかもわからない
研究者は基本ネジがどこか外れていることがあると聞くが、この人はその典型なのかもしれない
自らの安全よりも研究優先
立派なのは認めるが、護衛の身にもなってほしいものである
「この人すごいんだよ?今ある奇形論文の四割くらいがこの人が書いたものなの、新しい観点やら考え方を生み出したすごい人なんだよ」
「へぇ・・・そりゃ静希んちのペットを見せないようにしなきゃね」
生物の物事に関して非常に興味を示すのは仕方のないことだが、女子高生がこういった反応を見せるのはどうなのだろうか
明利の目が輝いているのはさておいて、確かに奇形研究の第一人者ということであるならば、静希のペットであるフィアを見せる訳にはいかない
ただの奇形種であるならばそれほど問題はないだろうが、フィアはすでに生き物としては死んでいるのだ
メフィの怪しげな術のせいで静希の魔素を供給することで無理やり動かしているようなものですでに普通の生き物のそれとは一線を画す
もしかしたら体細胞的にも普通の奇形種とは違う点があるかもしれない
静希の大切なペットをモルモットにさせる訳にはいかない、まぁもともとフィアはモルモットだったわけだが、これ以上そんな扱いはさせられない




