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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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役目と日常

「準備はいいけど、内容は?」


鏡花の言葉に、静希はため息をつく


「内容は護衛、行先は富士の樹海だ」


その瞬間、鏡花から笑みが消えた


富士の樹海


能力者であればほとんどの人間がその場所に行く意味を理解している


何せ授業で何度も出てくるのだ、樹海は奇形種の巣窟だと


「あはは・・・なにそれ、新手のジョーク?笑えないわよそれ」


顔をひきつらせながら何とかこれが本当のことではないと信じたい鏡花は静希の目をまっすぐに見つめる


どうやら静希のいっていることが本当であるか見極めようとしているようだが、当の静希は黙って首を横に振る


その反応を見て今度は明利の方を見るが、同じように明利も首を横に振った


その反応に一瞬倒れそうになるのを陽太がとっさに支えるが、鏡花はあぁ・・・うぅ・・・などとうめき声をあげて自らの許容量を超えた内容に必死に脳を回転させようとしていた


「一応聞かせてよ・・・私たち一年よ?何でそんな危ない内容を・・・?」


「理由として、完全奇形の討伐経験を持っているっていうことと、奇形種狩りに定評のある雪姉の直接の後輩だからっていうことらしいぞ」


もっともな質問への回答を終えると、鏡花は陽太の支えから逃れながら壊れたように笑い出す


「あの人かぁぁぁ!ていうかそれだけの理由で一年生にそんな内容の実習押しつけんなぁぁ!」


「まぁあれだな、評価されるってのは悪くねえけど、さすがに俺らだけってことはねえだろ?」


軍と一緒であるということを告げると陽太は安心しているようだったが鏡花はまったく安心していないようだった


むしろ理不尽に対する怒りを燃やし続けている


「あぁもうこんなことなら完全奇形なんて討伐しなきゃよかった!任務失敗でもいいから適当にやっときゃよかった!何でこんなことにぃ・・・!」


「きょ、鏡花さん、落ち着いて、ね?」


明利の言葉に鏡花はようやく平静を取り戻したのか、地面に手をついて項垂れている


この反応からわかるように富士の樹海は本当に危険な場所なのだ


少なくとも学生が単身乗り込んだら高い確率で大怪我を負うくらいに危険だ


「でもさ静希、その護衛って誰を守るんだ?」


「詳細資料はもらえなかったけど大体のことは聞いた、護衛対象は研究者、研究内容は奇形種のものばっかりだ」


「うわなにそれ、もう確実に奇形種との戦闘が待ち受けてるじゃない・・・」


奇形種と接触することすなわち戦闘になることとほぼ同義だ


何せ彼らは野生動物、自らの縄張りに入ったものや自らの命を脅かす外敵に対しては容赦がない


もしその研究者が生きた奇形種の生態調査などを目的にしていた場合、元気の良い敵意丸出しの奇形種との戦闘が待っている


そのことを正しく理解している鏡花はさらに落胆していた


「あぁもう・・・あんたたちと一緒の班になってから災難しかないわ・・・」


「おいおい、そんなに落ち込むなって、若いころの苦労は買ってでもしろっていうじゃねえか」


陽太が正しく諺をつかえていることに少し驚きながらも、このまま落ち込んでいてもしょうがないなと、ある種の諦めの境地に至ったのか鏡花は立ち上がって頭を抱えだす


「えっと・・・じゃあまずは現地の情報をできる限り集めて・・・そんでもってその研究者のことも調べたいわね・・・あとは経験者に話を聞いて・・・静希は装備の充実化かしら?」


さらさらとやるべきことを並べる鏡花に静希は口笛を吹いて感嘆する


「さすが鏡花、一応俺もそんな感じで動くつもりだった、経験者への質問は雪姉に頼んでおくよ」


「じゃあ私はその平坂って人のことを調べておくよ、もしかしたら論文とか読んだこともあるかもしれないし」


奇形系統の研究をしている人物であれば明利の目に留まっていてもおかしくない、もとより生物関連に秀で、それらの論文を多く目にしている明利なら他の誰よりも調べることができるのは確実だろう


「なら私は地形を調べるかな・・・他にやることなさそうだし」


「俺は!?俺は何すりゃいい!?」


「あんたは体調管理だけしてなさい」


ほとんど蚊帳の外に近い扱いを受けた陽太は少し離れたところで体育座りをしてしょげてしまう


みんなが協力して調べ物や準備をしている中、自分も参加できないことが情けないのか悔しいのか


だが調べ物や準備というものにまったく縁のない陽太ではそれも仕方のないことかもしれない


「できるなら雪奈さんだけじゃなくて熊田先輩やほかの班の人にも話を聞いておきたいけど・・・できるかしら」


「そこは雪姉に頼むしかないな、今日の夜頼んどくよ」


お願いねと言いながら鏡花は地面を足で叩き、しょぼくれている陽太を岩の手で掴んで強制的に自分たちの近くに引き寄せ正座させた


二人はこの後も訓練を続けるようで、とりあえずその場はお開きとなったのだった


「っていうわけなんだけど、雪姉、頼めるか?」


その夜、いつものようにマンションの屋上で訓練をしているさなか静希が雪奈に説明を終えてペットボトルに入った水を飲みほす


一時的な休憩の間に水分補給をしておかなければ体が持たないのだ


「それは構わないけど、明日すぐにってわけにはいかないかもよ?とりあえずうちの班長に電話してみるけど・・・」


そういって雪奈は携帯を取り出してその班長とやらに連絡するようだった


「あ、もしもし私、深山だけど・・・あ?・・・ハハハ、死ね」


唐突に飛び出した最上級の嫌悪の言葉にいったいどんなことを言われたのか気になるのだが、今はそんなことはどうでもいい


「実はさ、私たちが請け負った後輩がね、私たちの経験談を聞きたいんだってさ・・・うん、そうそう、前話した弟分の班・・・うんそうだよ・・・ハハハ、殺すぞ」


簡単に事情を説明しているのはいいのだが、なぜこうも雪奈が攻撃的な対応になっているのか


もっとも殺気を込めていないところを見るとこれが日常茶飯事の会話なのだということは理解できるのだが、さすがにちょっと攻撃的過ぎるのではないか


雪奈がとりあえず電話の向こうにいる班長との会話を続けるが、向こうからの反応はあまりよくないようで何度かうなずいてわかったと言ってそのまま切ってしまう


「一応みんなに聞いてみるけど、明日は無理だって、早くても明後日」


「そっか、でも実習は週末だから十分ありがたいよ」


こういう時に上級生が身近にいるというのは本当にありがたい、何せこういった体験談をすぐに聞くことができるのだから


「私の話でよければいつでも話してあげられるんだけどね・・・」


「はは、感想文もまともに書けない雪姉じゃ参考にならんよ」


そう、問題は雪奈の説明の下手さにあるのだ


どれだけ数多い経験を持っていても、それを誰かに伝えることができないのであれば聞くことに意味はない


幸いにして彼女の班には熊田がいる


彼ならば間違いなく当時のことをしっかりと説明できるだろう


「静よ、私だって昔から随分と成長しているんだよ?いつまでもまともに宿題もできないダメなお姉さんじゃないのさ、今の私はできるお姉さんさ!」


鼻から息を吹きだして胸を張ってドヤ顔をしている雪奈の顔面に蹴りを入れたくなる衝動を必死に抑え込んでため息をついた後で、静希は雪奈の額にチョップする


「夏休みの宿題ほとんど熊田先輩に見てもらったそうですねぇ、自称できるお姉さん?」


「な!?なぜそれを知っている!?」


「この前偶然会ったときに教えてもらったんだよ・・・ったく、いつになったらまともにやるようになるんだよ」


昔から宿題というものをまともにやるという思考回路を持ち合わせていない雪奈は、そのせいか、体を動かす分野以外の成績はあまりよくない


だがテストはなぜか持ち前の集中力で一夜漬けを繰り返すことで何とか平均点より少し下程度に位置することができるのだ


もう少し前から準備しておけばもっといい点数をとれるだろうに、それをやらない時点でまったくもってどうしようもない


「と、ところで静、ずいぶん髪伸びてきたんじゃない?」


「ん・・・そうだな、そろそろ切っておきたいかも・・・また頼めるか?」


多少強引な話題変更ではあるものの、確かに静希の髪の毛はだいぶ伸びてきていた


静希の申し出に雪奈は嬉しそうにあいよと返事をする


何を隠そう静希の髪を切っているのは雪奈なのだ


刃物であればどのようなものでも最善の技術を得ることのできる雪奈からすれば、散髪用の鋏を持てばそれだけで散髪に必要な技術は手に入れることができる


無論、櫛や髪留めなどの道具も使うが、そういった道具を使用する技術は昔からこの役を買って出ていたために自然と身についたのだ


実は雪奈は髪を触るのが結構好きなのである


一時期まで明利の散髪も請け負っていたためにその技術はなかなかに高い


静希は散髪代がもったいないためにいつも雪奈にやってもらっているのだ


「じゃあどうする?訓練終わったらさっそく切っちゃう?」


「頼むよ、んじゃ休憩終了としますか」


水分補給も要件も終わったために、静希はオルビアを構えて雪奈に向ける


雪奈も目つきを鋭くしながら静希からもらった西洋剣を構えて静希に向ける


その直後に剣が奏でる金属音が屋上に響き続けることとなる


どれほどそれを続けただろうか、静希の死亡回数が二ケタになったところでその日の訓練は終了となった


「だいぶ涼しくなってきたかと思ったけど、やっぱり動くと暑いねぇ」


「まったくだ、さっさと秋らしくなってほしいよ」


体にまとわりつく服をつまんで中に風を送りながら体の汗を軽く拭っていくものの、湿気と周囲の暑さがそれを許さない


体全体から汗がにじむ中で静希と雪奈はその日の訓練を終えてとりあえず帰宅することにし、雪奈は自宅から散髪用の道具一式をもって静希の家にやってくる


人外たちも見ている中で静希の散髪ショーが行われることになる


正直彼ら人外が何か茶々を入れてくるのではないかとも思ったが、そこまで散髪自体に興味はないらしくのんびりしたものだった


日曜日なので複数投稿


このルールまだ作ったばかりなのでもし忘れたらすぐに教えてください、週一のルールだと忘れそうなんです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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