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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」

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おおきく振りかぶって

「明利はすごいわね・・・それに引き換え男子ときたら・・・」


「おいおい、俺だって少しずつ進歩してるんだぞ」


「わかってるけどさ、明利の進歩が劇的過ぎてなんか印象薄いのよね」


鏡花の言うことはもっともだ、明利には医学などに対する興味もあってか短期間でそれを習得できるだけの才能がある


だが静希は才能がないところを無理に引き延ばしているために否が応でも時間がかかるうえに、その成長も少しずつなのだ


日々の積み重ねを続けることで実力を得るというのははたから見れば非常に地味に思えるだろう


だが漫画などのように劇的に変わる方法が静希に無い以上、地味でも少しずつ努力していくしかない


自分の持っているものを伸ばそうとするにはそれ相応の努力が必要


明利の変化が劇的と鏡花は言ったが、明利だって何の努力もしていないわけではない


日々医学書を読み込み、自分の能力を使ってそれをさらに詳しく理解しようと試行錯誤し、なおかつ自ら頼み込んで指導してもらえるようにし、日々勉学に励んでいる


もちろん鏡花だって静希や明利が努力しているのは知っている


特に先日雪奈から指導された内容を毎日こなしているという意味では誰よりも努力していると言っていいだろう


だが悲しいかな、努力と等価値の結果を得られていないのが静希の現状だ

才能がないという言葉で片付けられるような残酷な現実


だが事実でもある以上、静希はそれを受け止めた


だからこそあがいているのだ


「で、陽太はいつまでイメトレしてるんだ?さっきからずっとうつむいてるけど」


静希と明利がやってきても一向に反応を示さない陽太に、さすがの静希もしびれを切らして指導教官の鏡花に伺いを立てるが、ため息をついてうつむいたままの陽太の頭を掴む


「こういうことよ・・・この方法こいつには向いてないわ」


鏡花が無理矢理に顔を上にあげさせると、陽太は目をつむったまま寝息を立てている


あまりに目をつむってじっとし続けたせいでそのまま眠ってしまったようだ


「あー・・・じっとしてるってこいつには苦行だしな、仕方ないんじゃないか?」


「だからってこれはひどいわよ・・・精神面から改善を図るのはまず無理そうね・・・」


鏡花は鏡花なりに陽太の能力の制御法に苦心しており、先に進もうにも煮詰まってしまっているようだった


完全に自分と違うタイプの人間のためにどのような訓練が陽太に適しているのかが分からないのだ、いくら何をしたらいいのかがわかっても、どうすればいいのかがわからなければどうすることもできない


「そういえばさ、実月さんはこいつの能力の暴走を防ぐ訓練はしたのよね?どんなのだったの?」


「あー・・・俺も数える程度しか見てないけど・・・」


「あれは正直訓練とは言えないよ?やり方が乱暴すぎるもん」


過去、その訓練の現場を見ていた二人は眠ったままの陽太を見て気の毒そうな表情を作る


以前にどのような訓練をしたのかは聞いたが、詳しくどのようなことをしたのかと言われるとどう伝えたらいいものか迷ってしまう


「それでもいいのよ、どんな風にして抑え込んだのか、それがわかれば少しでも参考になるかもしれないし」


「参考ねぇ・・・簡単に言えば体に教え込んだってことくらいかな」


静希の言葉に鏡花は首をかしげる


感情の高ぶりによる能力の暴発をどうやって体に教え込んだのか


以前実月を見たときにはそこまで過激なことをしているようには見えなかったが


「えっとね、実月さんはとりあえず陽太君のすぐ近くにいて、陽太君が能力を暴発しそうになるとすぐに気絶させたの」


「気絶って・・・どうやって・・・」

そこまで言って鏡花はかつての五月の光景を思い出す


逃げようと踵を返した陽太の顎を正確に打ち抜くあの拳


なるほど、拳で強制的に意識を断ち切ったのだろう


陽太がやたらと頑丈なのも厳しい姉の存在があってこそなのだなと理解した


「そうやってるうちに陽太の体のほうが感情が高ぶると危険だってことを覚えてな、そのおかげで能力が暴発しないように感情に安全装置が設置されたわけだ」


「なるほど・・・真似はできそうにないわね」


今回は自分から能力を最大出力で発動したいのだ、それを危険というある種の防衛手段で覚えさせるというのは無理の一言


ついでに言えば鏡花には陽太を一撃のもとに気絶させられるだけの手段がない


体が覚えるということはほぼ一瞬で意識を断ち切るほど鋭い打撃が必要だ、鏡花にそんな徒手空拳の技術はないし、能力を使ってもそんなことはできる気がしない


そうなると過去に実月が行った訓練で現状は打開できないということになる


どうしたらいいのかと本格的に煮詰まって頭を抱えてしまった


「とりあえず・・・なんか考えないとなぁ・・・こいつに強くなってもらわないとこっちが困るし・・・」


班の前衛の能力が高いほど後衛は実力が発揮しやすくなる


それ故に陽太のレベルアップはこの班の総合戦闘能力の向上には必須だ


だがその方法が思いつかない以上、今は考える以外にはできない


だがとりあえず今やるべきことははっきりしている


鏡花はカバンの中からハリセンを取り出し、野球のバッターのように大きく振りかぶってから陽太の後頭部に向けて思い切りたたきつけた


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